「初心者向けダンジョン」
「早速ミッションをこなすつもりだったのに」
「そううまくは行かなかったけど、まあ勿怪の幸いって奴だ」
「にしても凄いね!そんなに器用な人ならボクでなくても良かったんじゃないの」
そのままギルドの側の宿に泊まる事になったファースとノジロー。
どこからか取り出したノートに剥げの目立つペンで日付と今日の出来事を記しながら口を動かすファースの器用さにノジローが感心する中、ファースは大して表情を変える事もない。
「不死鳥の頭って知ってるか」
「すごく優秀なパーティーだって。あんな風になれたらいいなって」
「俺はついさっきまでその不死鳥の頭の一員だった。でも金だけ渡されてクビになった」
「え…こんなに頼りになるのに」
「俺が強くない事は知ってるだろ」
「……何か可哀想だね」
可哀想—————ファースにそんな風に言ってくれる人間はなかなかいなかった。
たまに言われたとしてもクツノイとかアタムロとかが「あーファースって弱くてかわいそう」とか言う嫌味ったらしいそれでしかなく、心底からの憐れみをもってその言葉を投げる人間はいなかった。
『今日はあまりにもいろいろあり過ぎた。
三年間自分なりに尽くして来たつもりだった不死鳥の頭のメンバーから手切れ金を渡されて追放されたと思いきやノジローと言う子と出会い、そのノジローの昔馴染みだか分からない連中を俺の「保険」で倒す事が出来た。明日からはこの子とパーティーを組む事になる。真面目な子だから俺も負けないようにしなくてはいけない。まあ、レベルという点で言えば俺は最初から負けてるし、しっかりと支えなければいけないってのが正しいんだけど』
そしてファースはその事を書かない。
(俺は実際弱い。コクチョたちがそういう判断に至ったのもしょうがない。あの三人にはあの三人の判断がある。それを尊重するのは無論無駄に貶める必要もない)
ファースは自分の書きたい事だけを書いて日記を閉じる。着替えもせずに横になるノジローに何の干渉もする事なく、自分も同じように横になった。
翌朝、朝飯を腹に入れてギルドへと向かった二人。
それなりに有名人になっていたはずだが特に騒がれる事もなく、その他大勢になる事が出来た。
その他大勢のままコルクボードへ行き依頼を選ぶ二人だったが、正直少ない。
「あの、Fランク冒険者でも出来る依頼って」
「それがないんだよ、ただでさえFランク冒険者ってのは数が多いからな。ぶっちゃけランクなんて勲章って言うか枷って言った方が近いかもしれないからな」
「枷…確かに…」
「ランクが上がれば報酬は増えると言うか難しい仕事もできるし綺麗な紋章ももらえるしカッコイイ名前だって付けられる」
「……そんだけですか」
「そんだけなんだよ」
冒険者は基本AランクからFランクに分かれる。その人数比は純粋なピラミッド状と言うより一つの巨大テーブルの上に乗っかったピラミッドと言った風情で、Fランク冒険者が半分どころか六割近い。
「Fランク冒険者には片手間のそれも多くてな。登録だけして来ないそれも多い。ってかここだとそうでもないが町中の半分がFランク冒険者とか言う場所もあってな」
「それでそういう人たちが依頼を」
「それにFランクからEランクに一発で上がるには相当に大きな任務をやっても無理だ。一年で五個ぐらいは大きな戦果を挙げなきゃいけない」
「不死鳥の頭は三日でやったけどな」
さらに言えばドッターが言うようにランクアップしても実利的なメリットはそれほど多くなくプレッシャーの方が強い。
またランクアップと言ってもそれこそ数年単位での累積で上がった話も多くそのためランクがあってもベテランではあるが行動範囲も世間も狭い者もいるし上述の通りの理由でランクアップを望まない者もいる。
「まずは細かい仕事から始めようかなって思ったのに……」
「じゃ初心者向けダンジョンってのはどうか」
「初心者向けダンジョン?」
「地下二階までの小さなダンジョンだ。ギルドが管轄してるそれの予約が今切れてるんだ」
初心者向けダンジョン。
何とも奇妙な響きだが、どこのギルドにもそういう物があった。
冒険者が冒険者としてやって行くための研修施設とでも言うべきそれであり、専業か兼業かを分ける施設とも言われている。
もちろん兼業のそれが半ば遊びのように踏破を目指す事もあったが短くとも一昼夜はかかるそれに挑むのは、どうしても専業者の仕事だった。
「ダンジョンだなんて冒険者って感じですね」
「そうだな。それをやってみるってのはどうだ」
「ファース…」
「ああ。そうしよう。日付は」
「用意が出来るんなら明日でもいい。まあ明後日でもいいけどな」
「行こうか」
「うん!」
そしてファースとノジローは、そのダンジョンに挑むことを決めたのである。




