今回の報酬
「あの二人どうなるんです」
「ひと月はどこでも受けねえ。その後反省したと見なせばすぐ、でなきゃ三ヶ月ほどは登録は見送りだな」
「こっちこそすみません、私闘は良くない事なのに」
「吹っ掛けて来た側が悪いのが原則だからな。勝ったとしてもあいつらには同じ処分を下したよ」
「何がしたかったんだか……」
「背後関係を洗われる事になるかもなあの二人」
「ボクの故郷の村の住人です。それだけです」
戦いと言うよりいちゃもんを付けられての喧嘩を終えた二人の喉を、ドッターのおごりのエードが潤す。
冒険者同士の私闘は絶対的なご法度とまでは行かないが吹っ掛ける事自体かなり問題であり、マセイとシギチャのような「冒険者希望」であっても罰則を受ける事となる。ましてや彼らが狙っていたのは冒険者資格の剝奪であり、悪質な「新人潰し」とも取られかねない行いだった。ノジローは二人を無自覚に擁護したが、ギルドマスターとしてはやらなければいけない仕事だった。
「そんで実際に何もなければそれでしまいだ。だが二人はお前さんたちに会って申し訳ございませんでしたって頭を下げるまでは鼻つまみ者扱いだな」
「ほんのちょっとの驕りで何を失ったんだか」
「だから頭を下げればいいんだよ、自分が悪かったって認めればいいんだよ。それさえできれば何の問題もないのに」
「どれだけの付き合いだったんだ」
「生まれてからすぐぐらいから…………」
ノジローの言葉が消えて行く。
印象を固定するにはあまりにも十分すぎる時間、と言うかそれが当然の事であると言う前提を覆すにはよほどのことがないと無理だった。
「あのさお坊ちゃん、物的証拠って奴が絶対だと思っちゃいけない。物的証拠よりも思い込みって奴は強い。経験値ってのは確かに一つの指標だがそれとは別に「経験」ってのは存在する。そしてそれが正の経験だとは限らない」
「あ」
「どうしたんだよ」
「そうです、ボクの経験値を!」
その流れで不動の証拠よりも目の前の現実よりも強固なそれがあると言う人生訓を垂れようとしたドッターだったが、ノジローの不意打ちに動けなくなってしまう。
「それでも立ち向かったのはノジローであって俺じゃない」
「でも保険をかけてくれたのはファースです」
「まあとりあえず報酬分だけは、ってドッターさん」
空になった二人のコップに、またもう一杯分のエードが注がれる。ファースが銅貨を出そうとするとドッターは手を顔の前で振り、苦笑いを浮かべながら頭を掻く。
「……参ったね。せっかくそりゃ不本意だったとは言え理屈っぽい事言っちまって腰を折っちまって」
「いえ…」
「この仕事やってるとどうしても無謀な真似をして死んじまう人間を見ちまうんだよ。だから一人でも食い止められるもんなら食い止めたくてね」
「ありがとうございます!」
「本当いい子だよ、ノジロー。お前さんはよ…………」
「俺もノジローなら大丈夫だなと思いましたよ」
ドッターもファースも、ノジローをまだ幼い少年だと思っていた。
もちろん全くの大人と言うにはほど遠いが、つい説教臭くなる自分たちに比べれば活動的でエネルギーに満ち溢れている。
「おいおいお前の分だろ」
「いいです、ファース…のおかげだから!」
その上に自分の分のはずのエードをファースに渡そうとして来るその腕の動きは心根を見せ付けるには十分すぎた。
「それで報酬って言われてもパーティーを組んでいる以上金銭の授受は」
「ですから経験値を渡…すから!えっと…」
「でもあのチンピラと言うかガキ二人じゃ経験値稼げるのかね」
「それでも契約通り5%って事で……ああもしかしてゼロになったらごめんなさい」
一番弱いゴブリンを倒した時の経験値がだいたい5であり、レベルが1から2になるのに必要なそれは10ぐらいである。
マセイとシギチャがそれらより強いとは保険をかけたファースも実際に倒したノジローも思えず、経験値はゴブリンと同じ5か、下手すれば2か3しかないと思っていた。
—————ノジローは経験値を95獲得しレベル7に上がりました。
—————ファースは経験値を5獲得しレベル4に上がりました。
「「「え」」」
望外とも言える戦果に、三人して間抜けに一文字を吐き出す事しかできなかった。
95+5、つまり100。
一戦でこれだけの経験値を得られたと言う事だ。
「……お前さんに取っちゃ相当に分厚い壁だったわけだな」
「それを破ったって事なんだ!やっぱりファースは凄いや!」
「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ」
二人の冒険者と一人のマスター。
その三人の空間を温める程度には、マセイとシギチャもとりあえず役に立ったのである。




