鎧袖一触
大変お待たせいたしました!
「あのな、俺たちは本当の本当にお前を心配してるんだぜ?」
「人生でここまで薄っぺらい言葉聞いた事ないんだけど」
「ああ可哀想、可哀想…!」
まだ余裕を崩さないマセイと、胡麻をするような顔で何かを仕込んでいるシギチャ。
マセイの武器は剣でも槍でもなく太い棒であり、見た所先端が金属で後は木である。この手の武器はそれほど珍しくもなく何なら手製でも軽く作れるいかにも新米冒険者と言うか村の自警団員とかが作りそうな武具だったが、そのお手軽な武具を前にしてノジローの背が少し曲がった。
「お?やっぱ怖いのか?また同じようにぶん殴ってやろうか?嫌ならもう冒険者辞めますって言ってくれればいいんだぞ?」
「表へ出ろ、ここでは迷惑だ」
「わかったよ。そんなにも冒険者って地位にしがみ付きたいのかね、あー可哀想、あー可哀想」
ノジローの言う事を聞いてやったギルドを出てすぐ側の小さな原へと向かうマセイは文字通り得意満面であり、これだけでノジローをひるませて来たのだと自信満々だった。
「これで負けたらお前の言う通りにしてやる」
「わかった、最初で最後の戦いだ。せいぜい楽しめ!」
棒を振り上げ、原っぱに叩き付ける。
その音と共に、ノジローの目が輝いた。
「一刀の下に切り捨ててやるよ!」
刀でもないのにそんな事を言いながらマセイは武器を振りかざし、ノジローの胴の部分を狙う。
年齢からしてみれば速度はかなりの物であり、ファースでさえも受け止められるか怪しいほどだった。
ノジローはナイフを抜き、そのままマセイの武器に向けて振り下ろす。弾き返した上で切り上げようと言う腹か。
(間に合う訳があるか往生際が悪…い?)
マセイの頭には、胴を打たれてうずくまるノジローの姿があった。この様子だとまだあがくかもしれないがその時はシギチャがしっかりとフォローしている。勝負あったと思った。
だが、ノジローの一撃はマセイの攻撃を弾き返し、返す刀でマセイに攻撃を加える。
「まぐれが二度も続くか!」
「体が軽い、これがファースの力か…!」
「保険だか何だか知らないがんなもんで!」
マセイは武器を振り回し、金属部分でなくても当ててやろうとする。その速さは確かになかなかの物であり、やけくそと言うには手慣れていた。実際そのやり方でノジローも何度かやられた事もあり、その分だけ反応も遅れた。
「あっとっと!」
「またまぐれか!」
しかし、肉体の反応が遅れても補うだけの能力が「なめられプラン」にはあった。体が素早く動き、マセイの攻撃をはじく。
「何だよこれオッサン!」
「これが「保険」だ」
被保険者を甘く見ている相手と対峙した際に有効な「なめられプラン」が、この時発動していた。今のノジローの能力は、素ならば及ばないはずのマセイを大きく上回っている。
「ボクは冒険者になる!誰にも邪魔させない!」
「あんなオッサンべったりでいいのか!」
「構わない!」
「アニキ、どうせすぐばてますって!」
「だな!お前も罠を仕掛けろ!」
「んな事言われましても…!」
シギチャは何もできない。
罠師の弱点は、動かない相手には有効な策がないと言う事だ。相手を引き付けて発動させるのが罠であり、一流の罠師でも「動かない」相手を罠にかけるには「動かない」事を前提に罠を組まねばならない。それはもう魔力の域であり、罠師と言っても新米もいいとこのシギチャにはどうにか出来る訳もない。弾き飛ばして動かそうにも、ノジローが強くなりすぎていて出来ない。
「この野郎!この野郎!」
「これがボクの力だ、いや、ファースの力だ!」
「何だよ、結局そこのオッサンの力か!」
「自分のじゃない力を自分のだって言い張るなんてみっともない事が出来るか!」
その間にも形勢は傾く。最初から油断していたマセイとずっと自分を押さえつけて来た存在と対峙し気合が入っていたノジローでは、力が対等だったとしても心理的にかなり差がある。その上に「なめられプラン」により力の高まっていたノジローの攻撃は、マセイの頬をかすめるようになって行った。
「うう…!」
「その程度なのか!」
「この野郎!」
金属の方で打ちのめしにかかるが、その隙を突かれるように刃が飛ぶ。マセイの肉体は無事だったが右の袖が切れ、半袖の様になってしまう。
「あああああああ!」
「チャンス!」
叫びながら間合いを取ろうと後ろへ飛ぶマセイ。
ノジローはとどめとばかりに身を乗り出す。
その瞬間、三人の男の口元が緩んだ。
「発動っす!」
罠を仕掛けた地点に入ったノジローの頭に、小石の雨が降る。ただの小石と言っても頭に対した防備のないノジローにはそれなりに痛いはずだし、さらに心理的な動揺もある。
「バカめ!そんなんだからお前はイノシ、シ……?」
「どうなってんだ?」
「止まらねえじゃねえか、ぁっ……」
しかしノジローの足が止まる事は、なかった。
二人してノジローを舐め切っていたせいか防御力は4倍どころか5倍以上になっており、まともならば打撃があったはずの小石の礫の雨も全くのノーダメージだった。しかも心理的動揺も動いた瞬間来るとわかっていたノジローにとってはゼロであり、せいぜい武器の振りを物理的に邪魔されるだけだった。
もちろんそれも読み切っていたからノジローは武器を振らず拳を振りかざし、マセイの顎を捉えた。
なめられプランにより本来の4倍近くの力を得ていた右手の拳はあごの骨を砕くとまでは行かないにせよノジローより三割ほど大きな肉体を吹き飛ばすには十分であり、マセイの肉体は宙に舞い大の字になって倒れ込んだ。
「勝負ありだな」
ファースの言葉の通りだった。
「あ、アニキ!」
「ばち、がい…だ…だんかの、ば、ち…」
それでもマセイ本人だけはまだノジローの強さを認められないようだったが、どう見ても決着は付いている。
「全てはファースのおかげだ。ボクはファースと共に強くなる。サヨウナラ」
「………………ノジロー……死んだらぶん殴る………………」
そしてシギチャもシギチャで敗北を認めたくなさそうにしながら、気を失った兄貴分を引きずりながら歩く。
どう考えても敗者のそれであり、みっともない言い訳を並べるお子ちゃまの姿だった。




