追加プラン
「それでこれが「初心者向けダンジョン」までの道のりだ」
宿屋へと戻った二人はギルドから支給された地図を広げる。地図と言っても極めて簡素で道のり自体も隠れる所の少ない単純な一本道だが、それでも距離としては短くはない。
「行って帰ってとしても」
「ああ。朝一番で出てダンジョンに着いてすぐ帰って来たとしてだいたい真っ昼間って所だ」
「野宿…は慣れてるけどとりあえず食糧とか」
「だな。そしてダンジョンの大きさについても教えてくれた。地図はないが全てなめつくしても往復の距離と同じぐらいだそうだ」
「一日がかりって訳か」
ファースが「初心者向けダンジョン」に潜ったのはそれこそ三年前の事である。
「不死鳥の頭」がまだ「不死鳥の頭」と名乗る事も出来ない時分のデビュー戦であり、その時にほぼ同じ移動距離、同じ大きさのダンジョンを一日どころか半日で制覇して華々しいメジャーデビューを飾り、さらにそこから連日大きな仕事をこなして三日でEランクパーティーとなったいきさつは一部では伝説になっていた。
「それで何だけど、また契約を結びたいんだ」
「どんな契約だ」
「あのなめられプランとかってのは…」
「無理だな。あれは相手が自分の事を知っている存在じゃないと発動しない。お互い未知の相手には向かない」
「そう…」
「とりあえずは「生存プラン」ってのを勧める」
生存プランと書かれた紙をファースはノジローに渡す。
攻撃力+10、防御力+100、機動力+100。
倍率ではなく具体的な数字であり、現在レベル7のノジローの能力を考えれば攻撃力以外は数倍と言って差し支えない数字だった。
「初心者向けダンジョン」の「踏破条件」はボスモンスターの討伐などではなく目的地まで到達して帰って来る事にあり、モンスターを討伐する必要がないのならばそんなに高い攻撃力は要らない。
「保険料」も経験値または報酬2%と安く万人向けのプランだったが、ノジローは首を横に振った。
「それじゃ足りないよ」
「足りない?確かに攻撃力は不足だが今回のそれは別にモンスターを斬りまくるようなそれじゃない。適材適所と言うのがある」
「それじゃファースはほとんどただ働きじゃないか。ってか今言ったでしょ、モンスターを斬りまくるようなそれじゃないって。それでお金や経験値が手に入るの?」
「一応任務を達成すればもらえる。ただ名前通り初心者に経験を積ませるための任務だから報酬は知れている。経験値は確か50だったかな」
「バカなの?ボクだって計算は出来るよ?たったの1じゃレベル上がる訳ないじゃない」
50の2%は1。これはあまりにも簡単な計算だ。
レベルアップのための経験値はレベルにより違うが、1などゴブリン一匹にも全く満たないそれでしかない。金銭も確かに手に入るとの事だが行って帰っての手間を含めればトントンであり、それこそ「経験値」ではないただの経験、それもファースからしてみれば自分の手垢のついたそれでしかない。
「経験値を100出すからもっと強いのを頂戴!」
「100って、それじゃお前は」
「先払いもできるんでしょ!」
「お前のレベルが下がるぞ」
「ダンジョンでモンスターを斬りまくって100稼げばいい!それぐらいいるんでしょ!」
「……まあいるけどな……」
「もしかして根こそぎ倒しちゃうと次の人が困るとか?そんな事どうでもいいんだよ!」
「いや、それは……えっと…!」
——————————ファースはもっと得をすべきだ。
この時のノジローの行動原理を言い表すには、その一言で十分だった。その純粋無垢な真理の前に、一応年は重ねていたはずのファースがベッドに倒れ込みそうになる。
「さっきあの二人に勝てたのはボクじゃなくてファースのおかげ!一番偉い人が得をするのは当たり前!」
「俺に出来るのは力を与える事だけだ、やると決めたのはノジローだ。猫の首に鈴を付けた奴のが猫の首に鈴を付けようとした奴より……」
「ああもう!ボクに論破されてどうするの!」
「ああもうわかったわかった、それじゃ「生存プラン」の強化版と、「ダンジョン保険」ってのを推奨するから」
結局押し負けたファースの手により、二つのプランが提案される。
一つは先に述べた「生存プラン」の強化版で、攻撃力+100、防御力+200、機動力+200に加え感覚を強化する。
二つ目の「ダンジョン保険」はダンジョン内にてさらに防御力と機動力を高めるそれであり、その上にダンジョン内の地形を把握できる。
「あまり保険に」
「わかってる、でもどっちかって言うとファースもボクに頼ってもらいたいなって」
「どっちもどっちって次第か。ならばもう一つ契約してみるか」
「わかった、どんなプラン?」
保険で強くならねば戦えないノジローと、その保険を施した相手がいなければ恩恵を得られないファース。
出会ってまともに時も経たないのに、二人は不思議と馬が合っていた。




