(元パーティー)おかしいな?
ざまぁのターン、ドロー!
「何だよまた迷ったのか!?」
「これで四度目よ!まだ地下二階だってのに!」
クツノイの拳がアタムロの頬を掠める。
全七階の上級ダンジョンに意気揚々と潜ったはずの三人組Aランクパーティー・「不死鳥の頭」は、まだ地下二階だと言うのに汗だくになっていた。
「さっきからおかしいのよ、何度も何度も不意打ちに遭うし、ここに来るまでにもう回復薬三つも使ってるし!あといくつ残ってんの!」
「えっと今数えますね、一つ、二つ、三つ……ああ残り六つです」
「もう三分の一も使ったの!?ってかコクチョ、あんた使い過ぎよ!」
「俺がモンスターとやってるからしょうがないだろ!ってか奇襲受けすぎだ!ってかついでに言うけど回復薬って本当まずいな!」
最寄りの町にも寄らずダンジョンへと直行した三人だったが、移動中に二個、ダンジョン突入後に既に一個の回復薬を使っている。
コクチョの口の中に苦い物が走り、足を重くする。アタムロの足も同じ調子だ。クツノイだけは元気なはずだが、体は正直重い。
—————無駄な戦いが多すぎる。三人ともそう感じていた。
ついこの前まではほとんどのザコ敵なんぞ鎧袖一触にして来たのに今回はやけに苦戦する。それに何より奇襲攻撃を受けすぎる。
いやこれまでは奇襲攻撃を受けても即座に反応出来ていたから被害はなかったが、今はそれが追い付かない。それらのザコ敵から得る経験値やら金銭的報酬やらがない訳ではないが、費用対効果と言う面で行くと明らかにマイナスだった。
倒しても経験値にならない訳ではないが、次のレベルに上がるためにはそれこそ千匹単位のそれを倒さねばならない。千里の道も一歩からと言うにはあまりにも遠く、何の価値も見いだせない無駄な仕事だった。
「ってかコクチョ、あんたなんでまた迷ってるの!」
「さっきこっちの路が正しいだろって言ってたの誰だ!」
「言ってないわよ!」
「言ってた!」
「こっちの路が正しいわ、よ!」
全くどうしようもない口喧嘩の最中にも、ダンジョンに生息するモンスターが迫っている。コクチョとクツノイはお互いを言い負かす事にしか感心がなく、アタムロはアタムロで首を横に振りながら手を震えさせている。
「ファイア、アロー!」
とりあえずアタムロは魔法で二人に迫っている魔物を焼いたが、その顔の希望の色はない。
「何あんたまた魔法勝手に使ったの!」
「だって敵が迫っていますから、このままだと二人が危ないかと」
「危ないのはお前だろ、もう魔力どんだけ使ったのか忘れてないか!」
二人に指摘された通り、アタムロはこの数時間でもう魔力の半分近くを使ってしまっている。まだ地下五階分+ボスモンスター+帰り道もある事から考えれば、とても踏破出来るほどの余裕はない。
「だいたいそんな事で争うぐらいならばこれからどうするか考えないと」
「そんな事とは何だ、お前こそ今まで考えなかったのか」
「魔力がなくなればお荷物の癖によくもまあそんな口が利けるもんね、塞いでやろうかしら」
「二人してそうだから私は口を挟めなかったんですよ」
「何よ、まるで私らが悪いみたいに!」
一言の意見に対し、一つの拳と三つの威圧が返って来る。アタムロがとっさにのけぞるとクツノイの顔は真紅に染まり、燃えた仲間の死体を発見してやって来た連中をうっぷん晴らしだと言わんばかりに殴り飛ばす。それ自体は成果ではあるがまだたかが地下二階でそこまで気合を入れる必要もなく、平たく言えばオーバーペースだった。
「ああもうやってらんない!今日はもう帰る!」
「そんな」
「じゃああんたはここから先行けるって言う訳!?行けると思ってんの?何なの?バカなの!?」
「落ち着いて下さい!」
「やめだやめ、アタムロ。今日はもう帰る。これじゃ無理だ、腹立たしいが無理だ。不死鳥の頭の名が廃るがしょうがない!」
結局、三人に残された決断は撤退の二文字しかなかった。
三年間やって来た初めてかもしれない苦渋の決断、口の中だけでなく体中が苦い物に包まれたコクチョとアタムロの背中は三十歳は加齢したように重く、クツノイは足を踏み鳴らしながら人を殺せそうな目でダンジョンの岩壁を見つめる。
救いがあるとすれば、これはギルドに正式に依頼したそれではなく個々人の冒険であるためそこまでの打撃はない(ただし名声もしかり)と言う事だ。
そして救いがない事は、三年も冒険者をやって来て回復薬の苦さをコクチョもアタムロも、もちろんクツノイも知らない事だ。
ノジローと言う新米冒険者も飲んだ事はないがなめた事ぐらいはあった回復薬の味を知らない者はお子ちゃま扱いされ、冒険者の間では重く見られない。不死鳥の頭のようにそのままAランクになったらそれは伝説と言うか都市伝説であり、さらに言えば三人とも表向きには何べんも飲んで来たと公言している。実際に飲んでいたのはファースだけである事など、三人ともまったく口にしていなかった。




