初心者向けダンジョンへの道のり
三つのプランを契約したノジローと共に、ファースはダンジョンへと向かう。
お互い背中にそれなりの荷物を抱え、やや前のめりになりながら歩を進める。
「道中は大丈夫か」
「大丈夫だよ、とりあえず生存プランってのがあるから」
「保険は保険だ」
「ボクはファースの言う通りにするからさ」
「じゃここで質問だ。この場合どっちに気を配るべきだと思う」
ファースが左右を指さす。
片方に小川、もう一方は林。
林はさほど高くないが木の密度は濃く、小川は川幅はノジローはともかくファースならばまたげそうなほどに狭いが先が見えないほどに長く流れている。そしてその先は文字通りの草原。
「小川の方かな」
「なんでだ」
「だって林なんていかにも視界が悪くて警戒するじゃない。だからそっちの方に気を取られるからなって」
「それは大変残念だけど背伸びしすぎだ。答えは普通に林だ」
林だと言えばそれは普通すぎると揚げ足を取れそうな質問に自分なりに誠実に答えるノジローに対し、ファースは申し訳なさそうにしながら舌を動かした。
「これはな、あくまでも初心者向けダンジョンへと進む道だ。そんな場所にいる相手にそんな強力な相手はいない。見ての通り小川の先は視界が開けている。そこから出て来るのはよほど動きの速い相手か姿を隠す事の出来る相手しかいない。もちろん狙撃と言うのもなくはないが、もう一回言うがここは初心者向けダンジョンへの路だ」
「なるほど、ね……」
確かにそうなのだ。
ぱっと見で言えば視界の悪い林の方が厄介だがその事を相手も知らないはずがない、だから小川の奥からやって来るような敵こそ警戒すべきだと言うのは理屈としては間違っていない。
しかしそれをやるには視界が良すぎる。
そんな所からやって来るのは見られても構わないと考えている強者であり、そんな存在はこんな「初心者向けダンジョン」にはいない—————。
「お前が頭がいい事は分かった。でも場をわきまえる事も重要だ。確かに冒険者なんてもんは何が起こるか分からないお仕事ではある。でもその可能性を少しでも削り、その可能性があったとしても少しでも打撃を減らすために俺がいる。まあ戦闘ではカバーできないから保険があるんだけどな」
「ありがとう」
ノジローがどれほどの物なのか、正直な所ファースにもわかっていない。
だがこの言葉を聞く限り、ノジローは少なくとも馬鹿ではない。
この「馬鹿ではない」事こそ、戦場で生き残るスキルだ。
「もし俺にくれた経験値の事を考えてるんなら、気にしなくていい。終わったら終わったでちゃんと話を進める」
「……」
「感覚が鋭敏になっているのはわかるがあくまでも立ち向かう敵を斬ればいい。今の目的はダンジョンだ。地下二階建ての小規模なそれでもダンジョンはダンジョンだ」
「うん……」
「どうしたんだ…」
そんな二人の前に林から躍り出て来た、三匹の魔物。
コボルト。初心者向けダンジョンへの道のりにふさわしい、初心者向けモンスター。
力と機動力はあるが今目の前に出て来たそれは毛皮一枚の姿にふさわしく装甲が薄く、剣が当たれば鎧袖一触だろう。
だがそんな事は、この際問題ではない。
「深追いするな!」
「わかってる、気を抜かずに行けばいいんでしょ気を抜かずに行けば!さあどっからでもかかって来ーい!」
「何やってるんだ!」
保険がかかっているノジローの力ならば三匹や四匹楽勝だろう。だが所詮この戦いは前哨戦と言うか、しなくていいならしない方がいい戦いでしかない。
力の使いどころが違う!
しかしそのはずなのにノジローはやる気になっている。
小さくて弱そうなノジローが余裕ぶっているのに腹を立てたのか三匹のコボルトたちの中で剣を持つ物が遠吠えをし、次々と仲間を集める。
三匹だったコボルトが四匹になり、十匹になった。
「ボクはファースを信じてるから!」
「お前…!」
それでもノジローは全く怯む事なく、コボルトへと切り込む。
その瞬間、最初にファースとノジローを発見した三匹のコボルトの首が飛んだ。
そしてそのまま、まるですぐそばの小川が流れるかのようにノジローの剣は舞う。
剣と言うには短いそれだったがそんな事など誰も気にする事もないまま、あっという間にコボルトたちは全滅した。
「……あのな!」
「どうせ向かって来るのは分かってたからいっぺんにやっちゃおうと、さあちょっと休憩」
「話を…!」
「どうせダンジョンの前に着いたら休むんでしょ?同じだって」
「お……まあ、そうだな……」
コボルトから奪った剣を笑顔で腰に挿すノジローと、棍棒を何本か回収するファース。
そのくせ、先頭はファースであってノジローではない。
この傍目から見れば奇妙な二人組が初心者向けダンジョンへたどり着いたのは、平均的な冒険者が費やす九割程度の時間を要した後だった。




