あ、早速
「なめられプラン?」
なめられプランと言う全く耳慣れない言葉に、ギルドの隅っこでノジローは固まった。
対オーク保険とか言う言葉の意味はまだなんとなくわかったが、なめられプランとは一体何なのか。
「平たく言えば、ノジローの事を甘く見ている相手に遭遇すると能力が上がるって保険だ。効力は相手がノジローの事を甘く見る事がなくなったら切れる。
具体的な数字を言えば攻撃力は2倍ぐらい、防御力は4倍ぐらい、機動力は3倍ぐらいになる。ただし可変だけど」
相手が強かったと思って挑んで弱かったと言うのは笑いごとだ。
だが相手が弱いと思って挑んで強かったのは冗談では済まされない。
「鎧袖一触って言葉を知ってるか」
「知らない」
「文字通り一撃で相手を倒すって事だ。一撃でやれると思っていた相手が思った以上に強かった場合動揺は大きい。だから防御力を中心に高める。攻撃力を防御力ほどに高めないのは一撃で倒してしまうと相手にまぐれだと思わせてしまう可能性が高まるからだ」
「でもそれならずっと甘く見てくれる方がありがたいんじゃ」
「誰も見ていない戦いならそれでもいい。でも衆人環視ともなればその戦いぶりは人の口から口へ伝播される。一度でも敗北は敗北である以上、それを顧みないのははっきり言ってバカだ。もちろん、たった一度の勝利を声高に喧伝するのもバカだけどな」
—————一度でも失敗すれば終わりなのが冒険者だとか言うが、一度の失敗から生きて帰って来た奴はそれだけで英雄だ。ただし二度同じ失敗を犯せばそれはバカだ。言っておくが違う失敗を犯す分にはバカではない。
冒険者たちの間で語られる教訓の一つだが、冒険者たちだけでなく一般的にも語られている理屈だった。実際にはその同じ失敗を二度も三度もやるバカが多いのは先刻承知だが、それでも相手を甘く見てはいけないと言うのが一般論でありファースもそう感じていた。
「いつまでも相手が自分の事を甘く見てくれていると言うのもまた甘えだ。そんな甘えが通じるのは一度だけだ」
「……」
「もしこの保険が二度も三度も通じるんならばそんなのはもう相手にする必要はない」
「やった事あるの?」
「一度だけある。でも二度目からはもう要らなくなった。誰もなめてかかってはくれなくなった」
不死鳥の頭にこの保険をかけたのは三年前、それこそデビュー戦の時だ。その時は甘く見ていた山賊たちをあっという間になぎ倒し華々しいメジャーデビューを飾った訳だが、次の任務の時にはもうその名が広まり過ぎていて保険は意味をなさなかった。
いや、実の事を言えばこの「なめられプラン」自体は初対面であってもそれなりに有効ではあるが何度も何度もなめられるに値する事情を作っている相手の方がより効果は高くなり、攻撃力2倍防御力4倍機動力3倍と言うファースが口にした数字は初対面の敵に対する「下限」であって「上限」ではなかった。
「この契約は有効な限りノジローが稼いだ経験値の5%を俺が受け取る事になる。それでもいいか」
「もちろん!」
「わかった、じゃあこの右手の上に自分の手を合わせてくれ」
契約を結ぶ事となったノジローはファースの右の手のひらに自分の右手を置き、目を閉じてじっと動くのを止めた。そして十秒後、ノジローの体は僅かに輝いた。
「これで契約は完了だ。次からはもっと早くできるようになるから安心していい」
「ありがとう!」
別にその必要もないのだが、ノジローはファースの手を握る。中指の所でもノジローの手のひらまでぐらいしかない手だが、その力強さは負けていない。
「言っとくけどノジロー、この保険があればお前は俺より強くなる。と言うか保険がなかったとしても俺とお前の強さは大差がない」
「だからこそ保険があるんでしょ」
「まあそうだな」
「それで今までやって来たんだからね、ボクも頑張るよ!」
そして現実的な問題として、不死鳥の頭からほとんど経験値をもらっていないファースの戦闘能力はノジローと大差ない。
いざとなれば保険プランによりパワーアップしたノジローを盾に逃げ回るのが関の山であり、コクチョたちの言う通りおこぼれをもらうようなお役目だった。
「まあこんな所では戦闘なんて起きないからね、まずは小さなお仕事からでしょ」
「そうだな、まずは……」
そう思いながら仕事の並ぶコルクボードへと向かった二人の下に、いきなり木片が飛んで来る。
「あっと!」
誰かが投げ付けた訳ではない、ヒモで吊るされた初歩的な罠と言うかいたずらの道具だった。
「アッハッハッハ!相変わらずマヌケだなノジロー!」
「背伸びしてもノジローはノジローだっての!ギャハハハハ!」
あわてて腕で受け止めたファースではなく、後方にいたノジローに向かって投げ付けられる嘲笑の声。
「あ、マセイ、シギチャ……」
次回、いよいよざまぁのターン!え?不死鳥の頭?それはじっくりと……




