「保険屋」ファース、追放される
「はいよ……」
「おいお前ら!」
コクチョはせっかくの任務達成の気分を害されたとばかりに、報酬の1割の入った袋をファースに投げてよこす。
ギルドマスターであるドッターが声を荒げると、アタムロが馬鹿にしたような顔をしながら此度のクエストの報酬の4分の1が入った袋をゆっくりと置く。
「全く、本当いい御身分ね、なーんにもしないでこんなにぼったくって!」
「保険を」
「保険保険って、一体何のつもりなんだか!いい加減恩着せがましいのよ!」
「だいたい」
「だいたい何ですか、お人好したちに囲まれて。紋章もないのに」
「何で」
「お前に持たせたら確実になくすからだよ!コストがコストが言ってる奴の言葉かねぇああ図々しい図々しい!」
「元々紋章なんか持てないような雑魚の癖に…!」
テーブルに足を乗せながら胸をそびやかすコクチョと、クツノイ、それとやはり胸を反らしながら立っているアタムロの胸には、「不死鳥の頭」の紋章が輝く。
紋章を持つ事こそ冒険者パーティーの証であり、それを奪われる事は冒険者として屈辱である。さらに言えば冒険者パーティーの格が高ければ高いほど紋章も重くなり、屈辱も重くなる。ひとりでも紋章を失えば一発で降格などと言う事も珍しくない。
彼らからしてみれば、戦闘力も何もない「保険屋」などに紋章を持たせて奪われるような真似は出来なかった。
「紋章保険ってのが」
「ああ解約解約、毎月銅貨十枚か経験値1%で紋章の耐久力100%アップだなんてんなもんぼったくりじゃねえか。戦闘職でもねえ分際でよ!」
そして「保険」には、「保険料」が必要だった。先払いと後払いがあり、当然だが先払いの方が「保険料」が安くなる。
「保険料」の支払いは金銭か先頭で得られる「経験値」かであり、不死鳥の頭が与えていたのは全て金銭だった。
と言うか、経験値を与えなかった。
レベルと言う事で行けばコクチョもクツノイもアタムロも40前後だったのに、ファースは3だった。
「はっきり言ってやるよ、お前もう要らねえ!」
「そんな」
「本当に口うるさい癖に役に立たないし、弱虫のくせに生意気なのよ!」
「でも」
「手切れ金を受け取ったら勝手になさい、だいたいあなたのせいで我々は時間をかなり潰されたのですから、保険とやらで時間を戻してくれたならば飼ってあげてもいいですけど。はあ、高い買い物でしたね…………!」
そして三人して、はっきりとファースを「追放する」と宣言した。
コクチョもクツノイも容赦なく、アタムロの言葉はそれ以上に嫌味ったらしい。
ドッターが顔をしかめるのも構う事なく公言するその背中は何とも清々しく、長年の病が快癒したかのような笑顔はどんな氷魔法よりも強かった。
「いいのかおい」
「三対一の権限だ、っつーかギルマス様はなんでまたここまで肩入れするのかね」
「不可解よ、アタムロ、説明してくれる?」
「わかりませんね、とにかくお人好しのギルマス様」
「どうぞご自由に」
「不可解な事ってあるんですね世の中って、ではさようなら」
「どうぞご自由に」
ドッターの諫言さえも、三人の心を揺るがす事は出来ない。つい先ほどまでファースに向けていた笑顔をドッターに向け、堂々と移籍宣言する。
Aランクパーティー「不死鳥の頭」を失うと言う事がどういう意味なのか、ギルドマスターとして分からない訳ではない。優秀なパーティーはギルドにとって優秀な仕事を持って来るお宝であり、憧れてやって来る次のパーティーを生み出す財産である。
自分たちでここまで持って来たんだからこんな奴を大事にするんならばギルド共々沈んでもらいますよと言いたげな交渉戦術であり、どこでも引く手あまた何ですよと言うアピールだった。そのアピールをドッターが受け流すと三人は全く笑顔を崩さないまま、ギルドから出て行った。
「……すまなかったね。一応俺なりに説明はしてたんだけど」
「一応尽くして来たつもりだったんですけどね。まあ、とりあえず金だけは残りましたから」
「しかし経験値を金で買う事も出来ねえからな…本当、不死鳥の頭としてこの三年間、あんたを見てると辛かったぜ…」
不死鳥の頭がギルドにやって来たのは三年前。
その時からコクチョ、クツノイ、アタムロ、そしてファースの四人組でずっと活動して来た。
そしてその三年間、ファースはほとんど経験値を得られなかった。「保険料」として入るのは経験値ではなく金ばかりであり、その金の大半も「不死鳥の頭の金だから」と言う理由で奪われた。レベルの差は戦闘力の差に直結し、文字通りカツアゲのように奪われて行く。レベル3と言うのは最初の頃にファース自体が魔物を倒して稼いだそれのおかげであり、ここ二年以上経験値は1ポイントも入っていない。
それこそ、金だけはあるレベル3のFランク冒険者と言う存在が出来上がっただけだった。




