ファースの扱い
「何よこのノロマ!」
聞き慣れた言葉を背負いながら、ファースは歩く。
四人分の荷物を背負いながら歩く存在に向かって随分な言い草だが、暴言の主であるクツノイを含め誰も気にしていない。
「お前本当に役に立ってねえよな!」
「でも敵の奇襲…」
「それで恩を着せて横からかすめ取ろうってのか、本当保険屋ってのはせこい仕事だよな!」
「「不死鳥の頭」の名が落ちますよ」
「保険屋」。それがファースのジョブだった。
「剣士」のコクチョ、「武闘家」のクツノイ、「魔導士」のアタムロ、そして「保険屋」のファース。
それが、「不死鳥の頭」と言うAランク冒険者パーティーだった。
「あ、敵だ」
「とっととやりなさいよ!ったく内心ではキャッキャしてるんでしょ!」
挨拶の様にクツノイの拳が飛ぶ。当たりこそしないが拳はファースの頬を掠め、血が流れる。三人とも気に留めない。
コクチョの五割増しほどの背丈の豚の顔の魔物、要するにオークが次々と出て来る。
数はおよそ十。
「四匹じゃなくて良かったわねぇ」
「それより…」
「あーはいはい、わかってるから、強くなってるからって言うんでしょ!本当に恩着せがましくて!」
「だから…」
「文句なら後でいくらでも言えばいいんですよクツノイ、正しい事である以上耳を貸すのが正しいのです」
クツノイが目の前の魔物をほったらかして嫌味ったらしく言葉をこねくり回し、アタムロも擁護しているようでしていない言葉をぶつける。
「あーはいはい、俺らがやってるから後ろでおこぼれでももらってろ」
「リーダーの言った通りにしな、この役立たず!」
そしてとどめのようにコクチョも心無い言葉を吐きながら、オークへと向かって行く。
Aランクパーティーのリーダーらしい、見事なほどの太刀筋が光る。
「遅いんだよ!」
ついさっき大きな竜を倒して来たとは思えないほどに疲労の色はなく、オークの首があっさりと舞う。
「そいよ!」
続くようにクツノイの拳と蹴りが飛び、オークが吹っ飛んだり大の字に倒れたりする。
仲間たちをやられたオークは当然ながらさらに激昂し、何も動かずにいるアタムロを目標と定めたか突進して来る。
正確な整列、正確な行動。敵ながらあっぱれと言う言葉が似合いそうなほどの挙動だった。
だがその正確さを、アタムロは哀しみを込めた笑みと共に見下ろしていた。
「消し炭となりなさい……!」
炎の波が広がる。
その波はオークたちを正確に飲み込み、一匹残らず焼き尽くす。
いや、一匹だけ出遅れた故に巻き込まれないのがいたが、その一匹もまたコクチョの刃により生命体としての終わりを告げた。
「死体の供養を」
「無論今からやりますので」
アタムロは言われるまでもないとばかりに、消し炭にならなかったオークの死体に向けて軽く浄化魔法を唱える。オークの遺体はチリとなって消えて行き、後にはオークの使っていた斧や棍棒などが残る。これを換金して資金を得るのが冒険者の「バイト」であり、放置して行く冒険者もいる。と言うか、Aランクパーティーともなれば他の初心者パーティーのために少しぐらい放置するのが作法だった。
「ちょ、ちょっと!」
「おこぼれを分けてやってるのに文句言う訳?」
「そうじゃなくて他の冒険者たちに!」
「何よこのぐうたら野郎!」
しかしその作法を話す権利など、ファースにはない。少しでも文句を言おうものならば、さっきと同じ事になる。それでもとばかりに口を挟むが、返答は拳だけだった。
「あう!」
「本当、大して役に立たないくせに口ばっかりうるさいんだから…!いいこと、とっとと回収して追いかけて来なさいよ!全部!」
「全部…」
「十二本のはずよ!」
「そうだな、追いかけて来ねえと置き去りにするぞ!」
コクチョもクツノイと同じ調子で、アタムロはファースの方を顧みようともしない。
ファースが必死にオークたちの得物を搔き集め、さらに重くなった背中の荷物を抱えていると言うのに、まるで気にする素振りもない。
だがかと言って晴れやかな顔をしていると言う訳でもなく、三人して苦虫を嚙み潰したような面相を浮かべていた。
(((「また、あの保険屋野郎が調子に乗る……!」)))
その事で、三人とも考えは一致していたのだ。
このオークとの戦いだけで、三人にはふたつの「保険」がかかっていた。
「奇襲保険」→不意討ちを受けた際に防御力と敏捷性がプラス
「多勢に無勢保険」→相手の数が多い場合能力全体がプラス
そしてこの「保険」を使うのが、「保険屋」であるファースの役目だった。
「保険屋」と言う役目に、何が必要か。
それは「保険」を契約してくれる存在と、「保険料」だった。
その「保険料」の存在こそ、三人の顔面をしかめさせていたのである。




