ファースの攻撃力は300上がってた!
「アーッハッハッハッハ!」
ノジローの手が宝箱を開けたと同時に、そこからダンジョン中を支配するような笑い声が鳴り響く。
「新人がまた引っかかったのか…ハッハッハッハ…!」
「だから言ったんだよ!」
ファースの悲鳴も聞かず、宝箱は笑う。
それこそ、宝箱そのものがそういう存在だと言う何よりの証明だ。
「あーもうなにこれ!」
「偽装宝箱だよ!」
偽装宝箱。
宝箱に模した存在を仕掛けておきうっかり開けてしまった間抜けな冒険者を同行すると言う代物。
毒や睡眠ガスなどのケースもあるが、中には宝箱そのものの姿のモンスターもいる。
いわゆるミミックだ。
「こちとらちょっと退屈してたんでね、少しばかり暴れさせてもらおうかなって」
「この!」
持ち上げて叩き付けようとしたノジローの手から離れ、高く飛び上がる。
ミミックの背丈はノジローの五分の一しかないがそれゆえに捉えにくく、さらに速度も速い。これまでずっと偽装していたうっぷんを晴らすように飛び回り、ノジローをもてあそぼうとする。
「ったく、やめとけって言ってるのに人の話を聞かないから…!」
「うるさい!」
「おっ、意外とやるじゃねえかよ!でも!」
ミミックは必死に自分を追いかけ、と言うか付いて来るノジローに感心するように飛び回る。
そして隙ありとばかりに肉体を高速でぶつけに来る。
「チャンスだ!」
だがノジローは懐へと飛び込んで来たミミックを絞め殺してやろうと抱きかかえにかかり、ミミックも狙いを見切ったかあわててブレーキをかけて逃げ出す。
「マジかよこれ、本当お前強いんだな!」
「ファースがいる限りボクは負けない!」
「ファースがいる限り…か…!」
ファースがいる限り。
その文でノジローの力の源を見切ったミミックは頭を回す。
そしてその答えはあまりにも簡単だった。
「お前からやってやる!」
「まずい!」
予測してなかった訳ではないと言えファースは荷物を抱えており、レベル差からしても俊敏には動けない。
ミミックの強烈な体当たりを受けたらどうなるか。答えは分かりたくないがすぐわかってしまう。
「危なーーい!」
ノジローは剣を振る。
コボルトから奪ったばかりでまだ手に慣れていないはずの剣を振る。
その一撃は正直上手な物とは言えず、ミミックをはっきりと捉える事は出来ずかすっただけだった。
かすった、だけだった。
「どべええええ!!」
「よくもよくもよくもぉ!!」
「な、あべっ、ぐじゃ、ばきゃ、なぁ!」
その一撃で、ファースの頭部を狙っていたミミックはダンジョンの床に叩き付けられる。
かすっただけの部分が粉々になり、そこから派手にヒビが入りそれだけでも自壊しそうなところにノジローの乱暴な剣の振りが飛んで来る。当たらない一撃も多いがかすっただけでも先ほどと同じようにミミックの体が砕け、悲鳴を上げながら粉々になって行く。
その姿はもはや、アリを踏み付けにする巨人だった。
「だから言ったんだよ…」
「でもボクはファースを信じてたし!」
先に言ってくれと言いきれないのが、ファースの立場だった。
何せダンジョンに入る前に「生存保険」と「ダンジョン保険」でも余った経験値でさらに施したのが、この「ミミック保険」だったのだ。
—————宝物などに偽装したモンスターに襲撃された際、攻撃力+300、守備力+500、機動力+50、さらに同行者全員の守備力+200。
将にこの上なくピンポイントな保険を施したのは、初心者向けダンジョンとは言えその手のトラップは仕掛けてあるかもなと言うファースの万が一の予想であり、それ以上にどうしても何かやって欲しいと言うノジローのお願いを聞いた結果だった。
「でもこれ、きっと野生種じゃないぞ」
「え?」
「目的を達成する事が大事だと言う事を教えるため、欲の皮の突っ張ってしまった存在に対する戒めのつもりで置かれたのだろう」
「って事はギルドってモンスターも飼い慣らしてるとか」
「詳しくは俺も知らないが、わざわざ「初心者向けダンジョン」と銘打っている以上ギルドもそういう風に仕上げていると言う事だ。職員だっているぞ、たぶん」
実際ギルドの中にはダンジョンを整備する職員もおり、このミミックも冒険初心者に油断大敵だと言う事を教えるための存在だった。
だがその油断大敵を教えるための教材が、別の備えがあったとは言え油断して引っかかった「初心者」の手により粉砕されたわけだ。
「もしこれ、負けてたら……」
「痛い目を見たから次からは懲りる事だなで終わった、と思いたいよ」
「どうする」
「真っ正直に言うしかないだろ」
「ボクのせいにしていいからね…」
情けなさを背負いながらも、ノジローの顔に悔しさはなかった。
ついでに言えば、他のモンスターたちの顔に、戦意はもはやなかった。




