地下二階
トリックオアトリート!
「こんなに簡単に階段が見つかるだなんて…」
「余計な戦闘は要らない。戦いに来るのとダンジョンを踏破するのは違う」
「でも不意打ちとかあるし」
「今のお前は保険で不意打ちにも反応できるようになっている。実際そうだっただろ」
ファースとノジローが地下二階へと続く階段にたどり着いたのは、入ってから十五分後の事だった。
決して狭い訳ではなく、全てをなめ尽くせば一時間半は下らない場所をだ。道中モンスターと出くわさなかった訳ではないし、最短ルートを通ったゆえの不意打ちもあった。
だが全て、ノジローの手により鎧袖一触だった。
「生存保険」と、「ダンジョン保険」だ。
元から「生存保険」により身体能力が桁外れに上がっていたノジローだったが、そこに「ダンジョン保険」が加わってますます強くなっていた。
ノジローと言う小さいとは言え人間の肉体が、狭いはずのダンジョンを鋭敏に駆け巡ってこちらを攻撃して来る。単純に目の前に立ちふさがったモンスターも奇襲を企んだモンスターたちも次々とその刃にかかって果てる。その圧倒的な力を前に感覚の鋭いモンスターたちは戦いを挑む事こそバカだとばかりに道を開け、あるいは素知らぬふりをする。
ノジローではなくファースを襲えばいいではないかと考えるかもしれないが、ノジローとファースの関係を少しでも観察していればそんな事など出来ないのはモンスターたちにもすぐわかった。
と言うかダンジョンに二人が入って来た途端、荷物を抱えていたファースに向かって来たモンスターがいた。動きが重いゆえに与しやすくさらに抱えている荷物を奪えば得だと言う至極真っ当な発想だったが、その狙いを感知したノジローの動きは初心者向けダンジョンとか言う枠を超越したそれであり、首が飛ぶどころか全身なます斬りにされた。文字通り四肢がバラバラになったその姿はノジローと言う存在の力を思い知らせると共に、ファースに手を出してはいけないと言う教訓をこの地の存在に植え付けるには十分すぎた。
「でもあくまでも半分なんでしょ」
「半分じゃない、三分の一だ。地下二階の奥まで行き、階段に戻り、そこから地下一階に戻り、さらにギルドへと戻る」
「わかってるって。でもゆっくりと進まないと」
「どうもいけないな…でも地下二階は地下二階だ。地下二階は地下一階ではない」
そんな二人がまるで日常の様に言葉を交わすのだから、いつの間にか彼らはこの地における圧倒的な強者となっていた。
「やっぱり来たか!」
「ファースに手を出す事は許さない!」
そしてその地下一階の空気が地下二階と言う場所に伝わらない程度には、ダンジョンと言うのは閉鎖空間だった。
地下二階に入って来た「新米冒険者」と言う異物を叩き出すべく、地下一階のモンスターたちがどのような目に遭ったのか分からないまま戦いを挑む。
これはもう知能がどうとか言うより、モンスターと言う存在の習性だった。
地下一階と地下二階と言う風にフロアが分かれる度にモンスターは顔触れが変わる。異種だけでなく同種でも顔触れが変わると行動が変わり、存在に対する経験は受け継がれない。何も負の一面だけではなくまたその強さを思い知らさねばひるまないのかとなり心理的な疲弊を生む。また敵が厄介な存在であり苦労して強さを示したとしても文字通りやり直しであり、それもまた当然ながら厄介である。
だから賢い冒険者は自分の強さを刻み込むまで倒そうなどとせず、必要最小限の先頭だけをして目的を果たす。レベル上げのための戦闘は、レベル上げのためだけにやる。それが合理的な行いと言う物だった。
だが、相手に強さを思い知らせるのには数を倒す必要はない。
圧倒的な勝ちぶりを見せ付ければそれで十分だ。
実際にはそんな機会などなかなか巡って来ないだけであるが、今のノジローにはそれが出来た。
「………………」
ああもうともまたかとも言わず、無言で剣を振る。
モンスターの首が飛ぶ。
続けてやって来たモンスターにも同じように剣を振る。
また首が飛んで倒れる。
この二発だけで、地下二階のモンスターたちも怯んだ。
これこそモンスター除けにとっての切り札であり、一流冒険者にとっての作法だった。
もっとも、本来そこまでの実力差があるのならばこんな所には来ないからほとんどの人間に取っては空論と言うより理想論だ。
それが出来るのは保険の力であり、ファースの力だった。
そしてその一撃により、ノジローのレベルが8に上がった。
なおこの「初心者向けダンジョン」の推奨「攻略」レベルは7、と言う事になっている。
あ、お菓子下さい(甘党)。




