第1話
特に今日は強めに雑巾くさい雨が降る、ネオイーストシティ北西部に位置する政府公安局。
その上層階にある、政府公安局特殊部隊・通称〝0課〟の武器庫兼オフィスにて、出動後恒例の総員武器点検が行なわれていた。
そこは、入って奥と左右の壁際に、壁面収納付き机のような作業台と引き出しがいくつも付いた武器のラックがそれぞれ3セット計9人分あり、現在はそのうち6人分が使用されている。
中央部には会議にも使える、ホログラム画面が表示できるテーブルが本来置かれているが、使わないし邪魔なので奥側の誰も使っていないラックの前に追いやられていた。
「しかしクサナギ。お前さん、なんたってそんな骨董品なんか使ってるんだ?」
「君ぐらいの若い子は皆スマートアシストの自動式使ってるよぅ?」
右側の一番手前にある作業台で、丁寧に大口径リボルバーを分解して整備している、若手隊員のクサナギ・タケルに、オオグニとアマハラの中年男コンビが絡みに来た。
とにかく面倒だから、という理由で、一般公安局員と同じ制式採用装備を使い、点検も整備部門へ丸投げしているので、この2人は書類仕事も片付け暇を持て余していた。
「武器は信頼性が1番大事なんですよ? その点で言えば、数世紀の間使用され続けた実績のある物を使うのがベストだと思いますけどね」
最近はウザいおっさんらにもう慣れたクサナギは、顔も向けず作業を続行しつつ、鬱陶しそうに眉間へしわを寄せつつ愛想無く答える。
「そりゃ信頼性は大事だけど、そのためにアシストを使わない縛りプレイすることもないだろうに」
「進歩を拒絶してるだけ何じゃ無いのかなあ?」
「単にパイソンが好きで使ってなんか悪いんですか?」
それでもまだ絡んでくる2人へ、放っておいてください、と後頭部付近で虫を払うように右手を振ってクサナギは追っ払う。
「だそうですぜ」
「主任はどう思います?」
からかって悪かったと言いつつも、左の一番奥の台で作業している、女性型全身義肢の女で現場指揮官のシチシ・ツルギへおっさん2人は話を振る。
彼女のショートカットの髪は、今は気分転換という事でいつもの黒ではなく金になっている。
「アシスト使ったところで、あんた達クサナギより下手くそなんだから、暇があったら射撃訓練しなさい」
だが、ツルギは話には入らず、おっさん2人がぐうの音も出ない、痛いところを容赦なく突いていった。
「大体、こんな物撃って当たればなんでも良いのよ。ねえ、カガミ」
「ああ。最悪、相手の頭を吹き飛ばせれば十分だ、な」
その隣で作業している、巨躯の女性型全身義肢の女・カガミへ訊いたツルギは、なんかやたら物騒な答えを返してきた部下へ、やや口元を引きつらせて二度見する。
「……あんた、その50口径使ってる理由それなの?」
「? ああ」
辺りを見回し、全員の視線が自身を向いている事に、カガミは不思議そうな顔をしつつ頷く。
「全身義肢は頑丈だ。パッと見分けがつかない以上、テロリストは一撃で射殺できる方が、結果ア――周囲の市民の安全を確保出来るから、な」
「そ、そう」
セミロングの黒髪を雑に後ろで縛る彼女が、あまりにも饒舌に物騒な発言をするので、
「……ギボシ、アンタ義妹に何を教えてるわけ?」
ツルギはカガミの左隣にいるギボシへ、ジト目を向けつつ電脳通信で詰める。
「ぬ、濡れ衣……」
忍者めいたフルフェイスヘルメット頭のモニターに×を表示して、ギボシはかぶりをブンブン振る。
「……」
ちょっと引かれてるな、というのをカガミは同僚たちのリアクションで察し、すまない、と少し小さな声で言って作業に戻る。
その後、銃器の整備が終わり次第、アマハラとオオグニ以外も各々書類仕事へと移っていった。
ややあって。
「では、お先に失礼する……」
「はい、お疲れ」
「ああ」
しょんぼりしたままではあるが、書類仕事を猛烈な速度で片付けたカガミは、そのしんなり具合とは思えない速度で退勤していった。
オオグニとアマハラは先に宿舎へ帰り、クサナギは庁舎内にある立体ホログラムで状況を再現できる訓練室で、今日の現場の振り返りを行なっていた。
武器庫兼オフィスには、次のいかがわしい店に対する囮捜査の資料を確認するツルギと、〝0課〟長のヤタ・マサミから書類の差し戻しを喰らって直し中のギボシだけが残される。
「――あの子、なんていうかこう、感情もしっかり見える様になってきたわね」
金属製の自動ドアが閉まったところで、ツルギは姪っ子の成長を見るように目を細めつつギボシへ言う。
「然り。以前は何をしていても暗い目だった。会話も自分へ丸投げだった」
物理キーボードを叩きながら、ギボシは顔に表示しているモノアイを楕円形に細めて、しみじみとした声色で返す。
「昔は、自分がどこへ行くにもついてきて、後ろにいたものだが」
「へえ、カガミにも可愛い頃があったのね」
「然り。今でこそあのサイズだが、研究所にいた頃は自分の腰丈ほどだった」
「あらそう。でもそれ、言いふらすな、ってカガミに言われてないかしら?」
「……」
腕組みをして父親面な発言をしていたギボシだったが、気分がよくなりすぎて、かなりの剣幕でカガミから釘を刺されていた事を言われて思い出し、!マークを表示させた。
「くれぐれもオフレコで頼みたい……」
「んー。どうしようかしら」
ちらっとカガミが出て行ったドアを見やり、冷や汗のドット絵を表示しながら、顔の前で合掌してへこへこ頭を下げるギボシへ、ツルギは少し意地の悪い笑みを浮かべて返した。




