第2話
事情聴取など、諸々のやりとりを終えてすっかり日が落ちた頃、アイーダ達は公安局の公用車に送られて事務所に帰ってきた。
すると、裏手にある住居部分の玄関前に女公安局員が立っていて、防水袋に包まれたアイーダの衣服を手渡して帰っていった。
カガミを連れてアイーダはそのまま事務所部分まで移動して、ナビは素早くクローゼットにそれをしまってから、いちいちメイド服を着て小走りで自分も移動した。
すると、事務所側出入口から入って左側の窓際にある、応接セットの長ソファーにアイーダはどっかりと腰掛け、カガミは窓のブラインドを下ろしているところだった。
「クリーニング、一晩かかるってお話でしたよね?」
「シチシ・ツルギが急がせたそうだ。こちらの不手際のお詫びと思ってほしい、と言っていた」
部屋の隅にあるロッカーから、モップと絞り器付きのバケツを取り出しつつ、ナビがやけに早かった理由を訊くと、カガミは申し訳なさそうに重ね重ね頭を下げて答える。
「なるほど。まあ、それが普通の対応ってものなのです。ねー、アイーダさん」
「……。……そこは人によるだろ」
ナビは当然の事のように言って、アイーダからつっこまれようと話を振ったが、アイーダはどうも浮かない顔でキレ味が悪いツッコミを返すだけだった。
「……どうされました?」
彼女にしてはあまり覇気が無い様子に、ナビはモップとバケツを置いて、てこてことその前まで移動して小さく首を傾げながら訊く。ナビの隣にカガミもやってきて心配そうに見つめる。
「お前らさ、何があってもアタシは死なねえ、とか思ってる節があるよな」
「はい」
「ああ」
「迷いがなさ過ぎんだろ……」
「えー? だって実際そうですし。ねえ」
「ああ」
コンマ1秒ぐらいで肯定した1人と1体へ、アイーダは呆れた様子で額を抑えるが、両者ともキョトンとした様子で顔を見合わせる。
「自分で言うのもアレだけどよ、白兵戦だろうが電子戦だろうが、命の取り合いしたら即死するぐらいにはクソザコなんだぜアタシ」
「存じてます」
「右に同じ、だ」
「ちったあ手心をだな」
「だって事実ですし」
「嘘を言う方が不誠実、だ」
「マジでこういうときだけ息ぴったりだよなお前ら……」
そんなことは無い、と建前ででも言ってくれると思っていたアイーダは、一切否定してくれなかったので前の方にずり落ちた。
すかさずナビがアイーダの脇の下に前から腕を潜らせて引っ張り上げ、元の位置に彼女を戻す。
話を戻すけどな、と言ったアイーダは、
「そんなんでもくたばらずにやって行けてるのはさ、全部お前らのお陰なんだよ。アタシは単に運ゲーを上手いこと成功させてるだけでな」
自虐的にそう言って小さく肩をすくめ、いつもありがとうな、とナビとカガミへ小さく頭を下げる。
「だからよ、運ゲーに持って行くまでの所をキッチリ頼むぜってこった。じゃねえと、アタシはその前段階のとこであの世送りだからな」
顔を上げたアイーダは、薄く微笑んでナビとカガミへ信頼の眼差しを向けるが、その様子はどこか儚げで、1人と1体は思わず彼女を抱きしめた。
「なんだ。いきなり」
「なんか電子の海に溶けてなくなりそうな気がして」
「アタシは人魚姫か?」
「風にさらわれそうな気がしたんだ」
「転がる草か?」
両サイドからホールドされているので、身動きが取れない状態で目線を左右に動かして困惑するアイーダだが、特に嫌がる様子は一切無い。
「その辺はご心配なく。なのです」
「ああ、例え脳髄だけになっても時間稼ぎはしてみせよう。――まあ、既にそうだ、が」
「……」
「その冗談、笑っていいのか迷うので止めて貰えます?」
「すまない……」
アイーダを放したナビは腕組みをして力強く頷き、カガミもそれに倣ったが、彼女は自身の地雷原で踊らせる様な冗談をかまし、アイーダとナビの顔を引きつらせた。
その後、デリバリーで遅めの夕食を摂ったところで、アイーダへ緊急で行方不明の老人捜索依頼が入った。
「防犯カメラどうだ?」
「アクセス出来るものだとどこにも映ってないですね」
「路地裏を通ったのだろうか」
「じゃあ出かけるしかねえなこりゃ。お前ら支度しろ」
「あの、一応言っておきますけど、明日でいいのでは?」
「色々疲れているだろうし……」
「そういうわけにもいかねえだろ。転んで頭打ってたらどうすんだ」
「あー」
「それもそうだ、な」
色々疲れた身体に鞭打って深夜の街に繰り出してあちこち探し回り、自称・運ゲー探偵と電子と物理の暴力装置な相棒1人と1体の夜が更けていった。
――ちなみに、その老人は自宅の地下に籠もってうどんを打っている所を発見され、アイーダらの早朝まで歩き回った労力は完全に無駄となった。




