第1話
今日も今日とて、どこか雑巾くさい臭いが漂うネオイーストシティ。
自称しがない探偵・アイーダは相棒担当のナビと用心棒担当のカガミを連れ、地下街へただ買い物に来ただけにも関わらず、そこにサイボーグの男テロリストが逃げ込んできた。
トイレへ行こうとしたところでアイーダは犯人と鉢合わせ、うっかり人質にされてしまう。
カガミは自身が所属する、その男を追っていた政府公安局特殊部隊・通称〝0課〟の課長から、非番である事を謝られつつできる限りの足止めを指示された。
とはいえ、男が自分の世界に入ってなんか色々講釈を垂れ始めたので、立っているだけで特に何もしなかった様なものだったが、その間にナビが一般人の電脳をハッキングして逃がしつつ、その男のものもハッキングして動きを封じた。
当然、静かにブチギレていたカガミは、アイーダを奪還するついでに、動けない男を拳で制裁して10メートルは吹っ飛ばした。
そこまでは良かったが、その男テロリストのサイボーグ部分に、霧状で致死性のガスをまき散らす細工がしてあり、アイーダが駆け込む間もなくそれが放出された。
アイーダとナビをそれぞれ左右の小脇に迷い無く抱えたカガミは、アイーダの声にならない悲鳴と共に全力疾走で出口へと向かう。
どうにか脱出したタイミングで、明らかに有毒である、と言わんばかりにショッキングピンクな霧が、地下街の入り口から地面を這うように流れ出してきた。
宇宙服の様に見える、派手な黄色い防護服を着た、公安局対毒物部隊の人々がそこへ群がり、背中に担いだ噴霧機から一斉に中和剤を噴射していた。
ちなみに、その成分は捜査の段階で把握していたので、課長の判断で待機させていた事が功を奏していた。
そこから少し離れた場所にある、赤色の毒ガステロ対応設備テントの中へ、カガミは足を止めずに駆け込んだ。
白パーカーにショートパンツ姿のナビを普通に降ろしたカガミは、いつも通りどこぞの通りの探偵な服装のアイーダをそっとビニールで覆われたパイプ椅子に座らせた。
「やれやれ、なんとか脱出できて良かったのです……」
「ああ……。生きた心地がしなかった、な……」
中にいた防護服の職員に、毒の霧が付着していない事を検査機器で確認したところで、一同はやっと一息つく。
「アイーダさん、どこか具合お悪いところありませんか?」
「体調〝は〟すこぶる元気だぜ……」
「そ、それはひとまず良かった……」
「ま、まあ、死ぬこと以外はかすり傷ですから……」
「……」
ナビとカガミ他、対応する局員からも、いたたまれなさそうに目線を逸らされるアイーダはうなだれ、いっそ殺せ、と言わんばかりにしかめた顔を赤らめ、下半身にこれでもかと残された〝事実〟と向き合っていた。
ややあって。
公安局の備品である、軽トラックにポン乗せしたシャワールームで汚れを洗い流したアイーダは、安全を示す緑色のテント内にて、急遽調達された衣服を着て憮然としていた。
「……ありがてえけど、もうちょいマシなの無かったか?」
任されたカガミは完全にテンパって、その辺部屋着専門店で下着と灰色のスエット上下に、可愛いタヌキのスリッパを買ってきたのがその原因だった。
ちなみに着ていた衣服は、公安局内にあるクリーニング室に送られていて、翌日には事務所へ届けられる事になっている。
「焦ってしまったんだ……。すまない……」
「焦ってるとか以前に入った店が悪いんですよ。出るとかせずにそこで買うのです?」
「冷やかしは良くないと思って……」
「ええい、生真面目過ぎるのです……」
「とりあえず外用の靴買ってきてくれりゃいいからそんな落ち込むな」
必要以上に落ち込んで俯くカガミを見かね、アイーダは椅子から立ち上がって彼女の背中にポンポンと触れた際、ピープー、という間の抜けた音が足下からした。
「……なんでガキのサンダルみたいなギミックが入ってんだこれ」
「開発者が面白いと思ったんでしょうねえ」
そのなんとも言えないフニャフニャした音色に、アイーダとナビは困惑していたが、カガミはツボった様子で身体を震わせながら、今度はちゃんとしたスニーカーを買ってきた。




