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機械仕掛けの悪魔 -Ghost_Writer-  作者: 赤魂緋鯉
セル・ディビジョン
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第2話

「さてと」


 1人と1体のグダグダとしたやりとりをアイーダは手を叩いて止めた後に、猛烈な速度で50ページ近くある捜査資料を読み込んでいく。


 事件を要約すると、加害者に突然ナイフで襲われたホームレスの被害者が、深夜の巡回をしていた巡査に背中から血を流して助けを求め、瀕死だった被害者は死に際に現場と加害者の特徴を伝えて息絶えた。


 その特徴とは、全身黒ずくめでパーカーのフードを被っている、中肉中背の若い男、というあまり珍しくもない特徴だった。


 だが、義肢に換装した脚部が馴染みきっていない、腕の振りより歩みの方が若干早いリズムを刻む歩容を覚えていたため、カメラをリレーするのは簡単で巡査はすぐに追い付いた。


 すると酩酊通り(ドランクストリート)の西隣にある、スラム街の北入口前を通る道路のアンダーパスで、加害者はこめかみをピンポイントで蹴り払われて脳を揺らされ、失神した状態で発見された。


 アンダーパスは周囲よりやや低くなっている構造で、左端に開渠の用水路が通っているので、水量が増えすぎると冠水する構造になっている。


 所轄署は状況証拠から男が加害者であるとは確信していたが、被害者には身寄りが一切いないせいで感謝料が期待出来ないので、前述の通りのやっつけ仕事で送検していた。


「シンプルに経路をたどって探すっきゃねえな」

「犯人さんそれ用の処分業者を使う程、お金もコネもないっぽいですしね。こちら、被疑者が通ったとされるルートの地図です」

「サンキュー」


 ナビが電脳空間の仮想会議室のモニターを手で指すと、カメラに映っている加害者の画像が上に表示されるピンと、その立っている点を繋いだ線を足した地図が表示された。


 資料から読み取れる、鑑識が探した範囲も薄い赤色で表示されていたが、犯行現場と加害者の発見現場周辺・半径10メートルだけにしか表示されていなかった。


「ふむ。殺し屋として公安局が把握している人物でもない、な」

「まあ、死んだのを確認しない程度には殺しに慣れてもねえとなると、単なるチンピラが強盗に手を出したってのが関の山かもな」

「1つ、発見時に被疑者が失神した状態? というのが気になるんだが」


 話を聴きながら捜査資料を読んでいたカガミは、小さく首を傾げてその不可解な点を指摘する。


「別の強盗に襲われたとかじゃないのです?」

「それ見ての通り、本人が黙秘もくひして一切わかんねえみたいだな。防犯カメラも近くのは故障してたらしいし」

「建設局は何をやってるんですかねえ。まったく」

「面目ない……」

「お前が謝ったって仕方ねえだろ」


 まあアタシも気になるから暇ならついでに調べるか、とアイーダが言うと、ナビが地図の左上に〝サブクエスト・失神の謎〟という吹き出しを表示させた。


「なんだこれ」

「分かりやすいかなと」

「ああそう」

「……。まあいい、か……」


 ちょっと不謹慎なのでは、と指摘しようとしたカガミだが、被害者は人を殺している事を思い出して自分の中で納得した。


 ああでもないこうでもない、と被疑者が気絶していた理由を推測しているうちに30分経って、アイーダはヤマダを起こして彼女を見送った。


 それと同時刻。


 アイーダが凶器探しを請け負った事件で被疑者を発見した、若い男警官のコトウは、自身が配属されているCブロック第6交番内で報告書を書いていた。


 その交番はスラム街周辺を管轄するもので、よく発生する暴行や窃盗、強盗を処理している。

 だが、被害者と加害者の大半が貧困層であるため、所属する警官たちの士気はかなり低い。


 そんな中、そんなことお構いなしに職務に当たるコトウは、同僚から変人扱いを受けていた。


「おいコトウ巡査。まーたお前さんそんな金にならん仕事請け負ってどうすんだ?」


 コトウの右側に位置する、受付カウンターにどかっと座り、小さな酒瓶を片手に絡んでくる中年女警官へ、


「いえ、給料分は働いているだけであります」


 彼はもう何人もに何度言ったか分からない、うざ絡みをかわす言葉を愛想笑いで発する。


 幼少期に自宅周辺を管轄する交番に勤務し、数年前に殉職した老年男性警官の姿に憧れて警官になったが、新人時代にそれを言って冷笑されたので編み出したものだった。


 最初はややムキになって反論したりもしたが、上官も含めて誰も共感してくれる人がいないので、もう諦めてしまっていた。


 真面目だねえ、と、女警官が酒を煽ったところで、交番内のスピーカーから迷子を保護しているという通報が入ったので、現場に臨場する様にという本部からの指示だった。


 面倒くさがって、最悪聞かなかったことにする警官もいる中、コトウはそれに応えてすっくと立ち上がり出動準備を始める。


「ちょっと、私も行かないといけなくなるんだけど……」

「やー、すいませんアライ巡査長。ご足労をおかけするのであります」


 ものすごく嫌そうに顔をしかめる、アライと呼んだ彼女へ、コトウは爽やかな愛想笑いを貼り付けて敬礼し、そのまま無言の圧をかける。


「あーはいはい……」


 ペアを1人で行かせるのは罰金のため、アライは渋々酒瓶に栓をして制服の上着を着た。


 現場に到着すると、人のものとは思えない空色の髪をした少女が、廃業して放置されているパチンコ店の出入り口にポツンと座っていた。

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