プロローグ
例によって今日も雑巾くさい雨が降る、悪徳巨大企業がはびこる巨大都市国家・ネオイーストシティ。
その東部に存在する外工業地帯地下にある、有害な化学物質の漏洩事故が発生し、人員が避難してもぬけの空になったとある研究所内にて、
「……」
蓋の開いたシェル型のポッド内にいた、空色の髪をした少女が目を開け、半身を起こすと感情が抜け落ちた様な無表情のまま当たりを見回す。
「――おねえちゃん、どこ……?」
近くにあった、ライトグリーンの貫頭衣を着た緑色の瞳の彼女は、寂しげにそう独りごちる。
ベッドになっているそこから降り、少し頼りない足取りで特殊合金の床を裸足で歩き出した。
途中、ドアが開きっぱなしのオフィスに転がっていた、屋内履きのサンダルを発見して履いた。
外部に出るまでは本来、油圧式の隔壁扉で通路が隔てられていて、非常時には人員退避を確認すると開かなくなる警備システムが作動するはずだった。
だが、頻繁に起こる誤報を煩わしがった研究員が、システムをオフにしていたせいでフルオープンのままとなっていた。
何にも邪魔されずに、出入り口の地下鉄の配管用トンネル内に出た少女は、非常口ランプだけが10メートルおきにポツポツとある、ほぼ暗闇のそこを何の不自由もなく進み始めた。
街を環状に走るトンネルは半周するだけでも数十キロもあるが、10代前半程度の見た目にもかかわらず、彼女は一切休みも速度を落とすこともなく進む。
点検用トンネルは、4分の1ずつの区画に分かれていて、彼女が歩いているのは北部と東部を繋ぐもののため、その北端で分厚い鉄ドアに突き当たって少女は足を止めた。
だが、ドアがここも施錠されておらず、それに気がついた少女はドアを開けて外に出ると、その先は階段の踊り場のようになっていた。
そこから、縁にらせん階段が設置された縦坑が上に、地下鉄トンネルに繋がる縦坑が下に、北西区画へのドアが正面へ続いている。らせん階段には入り口に金網ドアが設置されていた。
「おねえちゃん……、こっち……?」
管理会社が違う後ろ2つの入り口はしっかり施錠されていて、少女は仕方なく上へと登っていく。
さらに、地上部に出る鉄扉も施錠されていなかったため、少女は雨が降りしきるD1-50ブロック付近の裏路地に出た。
濡れるのもいとわず、未明の人気が無い道を西の方へと歩くと、無秩序にバラック小屋と薄汚れたコンクリート製の建物が建ち並ぶスラム街へ到着し、彼女はその中へと紛れ込んでいった。




