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機械仕掛けの悪魔 -Ghost_Writer-  作者: 赤魂緋鯉
ドラゴンフライ
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第8話

 決選投票の日。


 自身の引退会見の場という事もあるが、ジンノ飯店の店主は知り合いのコネをフル活用し、店の新たな旅立ちにふさわしい、派手な会場を用意した。


 そこは、最大4千人が収容可能である大ホールを持つ、暴食通り中心部にあるコンベンションセンターで、ロビーから廊下に至るまで贈られた花まみれとなっている。


 客席正面の舞台上には、かなり広めのキッチン4つが設けられ、ジンノ飯店本店をさらにグレードアップした、ド派手な見た目のセットの上に、巨大な竜が自由自在に動き回れる、巨大なホログラムスクリーンが設置されている。


 その右にはけた所にある控え室で、ジンノ姉妹は中央のテーブルを挟んで、最初のプログラムである開会宣言での出番を待っていた。


「姉さん緊張しすぎだって」

「ききき、緊張してなないないからら……」

「説得力が無いよ姉さん」


 ミコの方は修行で鍛えた精神力でどーんと構えていたが、こういう場に出るのは相当久しぶりのカノコは、脂汗を滲ませながらガチガチになって自分の身体を抱きしめていた。


「大丈夫?」

「わ、私はお姉ちゃんなんだからっ、このくらいなんてこと無いっ。これも武者震いだからっ」


 ミコが心配そうに眉を寄せている様子を見て、カノコはメチャクチャ引きつった顔で無理に笑って空元気を見せる。


「もし何かあっても、ミコには恥かかせないからねっ!」

「別にそんな恥とかなんとか――ん? 誰だろ。どうぞ」


 なんか見当違いの方向に責任を感じている姉を、ミコはどうやって落ち着かせたらいいか、と考えていたところ、控え室のドアがノックされた。


「――おう嬢ちゃん方」

「あれ、探偵さんだ」

「こにゃにちわんっ!」

「おうガッチガチじゃねえか。せめて猫か犬かはっきりしろ」

「ちなみに助手もいるです」

「用心棒も、だ」


 ミコが入るように促すと、スタッフの黒ティーシャツに、カーキのカーゴパンツ姿のアイーダ達が入ってきた。


 カガミだけは顔が割れている可能性があり、男性型のパーツをポン付けした素体と、フレームが太い眼鏡にマスクで変装していた。


「そういやセット見たけどよ。――ちょっとやり過ぎじゃね?」

「わ、私もそう思います……」

「おじいちゃん派手好きだったんだね……」


 親指でステージのある方を指し、アイーダはそう言ってわざとらしく肩をすくめて言う。緊張はしていなかったが、少し肩に力が入っていたミコはそれで緩んだ。


「なんでここに?」

「この施設を委託管理してるとこの社長と知り合いでな。どうも社員寮で風邪が蔓延まんえんしてるもんだから、穴埋め要員を頼まれたって事だ」


 どっこらしょ、とミコの隣にあったパイプイスに座り、アイーダは2人に断りをいれて差し入れの煎餅とペットボトルのお茶を1つ拝借する。


 その後ろの壁際で立っているナビとカガミが、ゴソゴソと身じろぎして何かをやっていたが、視野が狭くなっているカノコはアイーダと妹しか目に入っていないので気付かなかった。


「た、たた探偵さんなのに、ですか?」

「まあアタシは割と何でも屋寄りだからな。貧乏暇無しとはよく言ったもんだ」

「案外地味なんですね……? もっとこう、警察形無しみたいな感じかと」

「がっはっは。んなもん作り話だよ。現実は身辺調査かバイオ猫探しが九分九厘のジミーなお仕事さァ」

「は、はあ……」


 気安く話しかけてみたが、カノコの緊張は全くとれていなかった様子を見て、


「おいおい、なんだそのシケた面は。別にやるこた普段と一緒だろ? 妹と二人三脚で仕上げることだけ考えときゃいいんだよ」


 ポン、とアイーダはカノコの肩に手を置いて、アイーダは目線を彼女の実妹にやった。


「見た目だけでも頼りになるでしょ?」

「まあ、ちょっと格闘技的にだけどね」

「ええー」


 エッヘン、と胸を張ったドヤ顔で自画自賛したミコは毒舌を喰らったが、目を細めているカノコの緊張はすっかり無くなっていた。


「――で、どうだ?」


 姉妹はもう大丈夫そうだ、という事を確認したアイーダは、電脳通信で後ろにいる1人と1体に訊く。


「はい。バッチリ映像押さえましたー」

「これは……、ソレでまず間違いないだろう」


 ナビは無駄に巨大なグッドアイコンを自分のアバターの真上に出しつつ、カガミは比較画像と見比べて確信めいて頷く。


 姉妹を勇気づける事と同時進行で、ナビ達にムスカベのいる隣の控え室へ、換気ダクトを伝って超小型ドローンを侵入させ、その様子を1人と1体に探らせていた。


「みてえだな」


 それを電脳内で確認したアイーダは、残っていたお茶を一気飲みして、じゃあ頑張れよ、と言ってジンノ姉妹に背を向けつつ手を挙げ、ナビ達を連れて退出した。


「じゃあ後は現物の回収だな」

「いや、ちょっと待て。まだ早い」

「なんだって?」

「今やっちゃったらマスコミさんはどうすると思います?」

「……あっ、十把一絡げにされてしまうか」

「ご名答」

「……あと、改心はしてて努力してたのに、騙されて使わされてたんならかわいそうだろ」


 万どころか兆が一の可能性ですけどねー、と、わずかな可能性でもそうあって欲しいと拳を握って願うアイーダへ、ナビは毒を吐きはするが暖かい目をしていた。


 だが、


 これで私もまた返り咲ける……! スパイス程度で評価が変わる、たかが料理なんかで、っていうのがシャクだけど。


 アイーダの願いも虚しく、ムスカベの性根はどうしようもなく腐っていた。


 風味に合わせたスパイスが入った小瓶がいくつか入った、小さめのアタッシュケースから赤系のスパイスを取り出し、口の端をつり上げた笑みを浮かべる。


 ミコが帰ってきた事で、カノコ陣営はあっという間に2位へと駆け上ったが、それでも10%の差があり、ムスカベは完全に慢心していた。


「ん? ――え?」


 にやけ顔のムスカベが瓶をしまったところで、参加者への一斉通知の電脳通信が入った。


 それはセットに用意されている材料と調味料のみを使う様に、レギュレーションが突如変更になったというものだった。


「――とのことです。直談判しなくて良くなりましたね」


 当然、クラッキングしてその情報を掴んだナビは、店主に呼ばれていた、と嘘を吐いて会おうとしていたアイーダの手を掴みつつすぐ共有した。


「おう、そうか。じゃあ、あとは中身回収して解析だな」


 関係者専用通路へ忍び込もうと考えていたアイーダは振り返ると、後の諸々は頼むぞ、とカガミに言って、本当に頼まれていたゴミ拾い係へとナビを連れて戻っていった。


 ややあって。


 結局のところ、料理をそもそもナメていて、味以外の要素は平々凡々だったムスカベは、2位どころか最下位まで一気に転落してしまった。


 それ以外の2組は悔しそうに顔を歪めながらも、ジンノ姉妹の実力を実際に試食して認め、彼女らに惜しみない拍手を贈っていた。


 だが、ムスカベはふてくされた顔で腕組みをしていて、それを指摘してきた相方の言葉も完全に無視していた。


 そんなムスカベは、スペシャルスパイスを使えばあんな出来損ないに勝てたのに、という、優勝者のジンノ姉妹への悪態を吐いた。


「あなた今、なんと言いました?」


 拍手やらざわめきで聞こえない、と思っていたムスカベだったが、なぜかマイクが拾って会場全体に流れた。


「な、何のことでしょうか?」


 現店主の知り合いである、インタビュアーの老年男が聞き間違いかと思って訊ね、静まりかえる会場にムスカベの裏返った声が響き渡った。


「……」


 その悪態は、ナビが秘密機能・指向性マイクで拾って会場の受信機に送ったもので、相手をたたえる発言を期待しての事だったが、しっかり裏切られたアイーダは伏し目がちに無言でかぶりを振った。


 彼女の左右にそれぞれいたカガミとナビは、同時にその背中へそっと触れて慰める。


「あー、その、違うんですっ。別に侮辱の意図はなくて――」


 会場全体からブリザードの様な視線を注がれる中、ムスカベは顔を真っ赤にしながらヘラヘラした顔をして、どう考えても無理筋の弁明を始めた。


「やれやれ、謝罪すらまともに出来ないのか。更生の機会を、と思ったが間違いだったようだ。申し訳ないが、今この瞬間からお前さんは部外者だ」


 登壇するのは閉会式が終わってから、という手はずになっていた現店主が、ひたすらに自己弁護を重ねるムスカベの前にスーツ姿で現れ、怒りを通り越した無の表情で告げた。


「待ってください! せめて、せめて私の編み出したスパイスだけでも使ってください! 使えばきっと店が繁盛するはずです!」

「コイツをつまみ出してくれ」


 ツカツカと去って行く店主に追いすがりながら、アリジゴク・スパイスのセールスをかけるが、駆けつけた警備員らによって容赦なくテーザーガンを撃たれて悲鳴を上げる。


 両脇を女警備員に捕まえられるムスカベは、怪鳥のようなわめき声で、なぜか社会学の話をまくし立てながら会場を追い出された。


「さあっ、改めて次期料理長となったお2人は、この大逆転の勝因を何だと思いますか?」


 元・国家放送局出身の、大ベテランアナウンサーだったインタビュアーは、何事もなかったかのように進行を続けた。


「まあ、決定打になったのは妹の天才的な味覚のおかげですね」

「いやいや、姉さんの調理技術があってこそなんで」


 2人とも満面の笑みでお互いを見やって手柄の譲り合いをしていると、どっちもすごいでいいじゃないか、と客席からヤジとそれに賛同する拍手が飛んで来た。


「でも――」


 偶然でもこの子を連れてきてくれたあの人達のおかげ、と言おうとしつつカノコは客席を探したが、探偵と助手と用心棒のトリオの姿はなかった。


 だが、彼女らが先ほどまでいた辺りに、もっと沢山いるだろ? というARの吹き出しが浮かんでいた。


「――でも一番は、私達がこの場に立つまでに、関わった人達のおかげあっての事ですかね」


 その見透かした様なカンペに、目を見開いてからクスッと笑ったカノコは、そう言い直し、ミコを促して社員達が集まっている2階席へ手を振った。

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