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(7)

「っ!!」


死角からいきなり現れた敵影に反応が一瞬遅れ、セレスティアはその蹴りを頬に掠った。


「っは……」


バランスを崩した態勢をすぐに立て直し、その蹴りを放ったウサギ仮面の男を見つめる。

頬に温かい液体が流れる感覚がして、それを拭うと赤が手の甲についていた。


(…重い。いい蹴りだな)


先ほどまでの相手たちとは、違う空気を纏った男。

さっきまで向けられていたのは恨みや怨念という感情が混ざった、試されているかのような感覚だった。

だが、目の前の相手はそれらよりも、殺気のほうが強く現れている。

そして、それはどこか楽しそうなーー言うなれば快楽犯が持ち合わせている雰囲気と近かった。


「ねぇ、オネエサン。なんで僕たちに攻撃してこないわけ?」


初めて相手側から声をかけられる。

その言葉からは温度を感じない。

どこか無機質なその声は、まだあどけない少年の声だった。


「………。」


「僕たちのこと、舐めてるの?」


セレスティアは何も答えない。

ただ粛々と、目の前の仮面の男の動きを目で追う。

次の攻撃に反応できるように。


「まぁいいか。少し痛めつけて本気出してもらえ、ばっ!!」


(っ!!速い!!)


一瞬で直近まで迫った仮面に、今度はしっかり反応するセレスティア。

しかし、それは以前と同じようにただ拳や蹴りを受ける避け方ではなかった。

しっかりと繰り出される攻撃を腕で受け、相手の動きが止まったコンマ1秒に自らの蹴りを放った。


ヒュッ…ガッ!!


「うおっ!!」


仮面の男もセレスティアが本当に反撃するとは思わなかったのか、間一髪のところでその蹴りを避け、バランスを崩した。

そのチャンスを、彼女は見逃さない。

重心が不安定になった身体をそのまま地面に叩きつけ、その身体の上に馬乗りになる。

手を出されそうになる前に右足で男の左手を、左手で彼の右手を押さえつけ、空いている右手でセレスティアは暗器を取り出した。

反撃する暇も与えず、小型ナイフのような暗器を少年の首元へ触れさせる。

表情は見えないが、彼の確かな小さな焦りと感嘆を仮面の下から彼女は感じた。


「…怖いね。女が暗器を忍ばせてるなんて」


「女だからって舐めてかかると痛い目見るぞ」


セレスティアに殺すつもりは毛頭ない。

向こうが少し本気を出してきたから、こちらも同じように本気を出したまでだ。

首元にあてた暗器は“殺すためのもの”ではなく、“ちょっとした脅し”をするため。

要するに「茶番はもう終わり」と示すものだった。

それを相手もわかっているのだろう。

しばらくは体に力を入れていたが、やがて力尽きたようにパタリと筋肉を弛緩させた。


「あーーやめやめ!なんか萎えたわ」


反撃の意思は感じられない。

もとよりそうするつもりだった拘束の腕を緩め、意識をレイの方へと移そうとしたーーーその時だった。

 

ヒュッ…


「っ!?」


自分の後方からわずかな風の乱れを感じ、振り向いたとき。

その人物はすぐそばにいた。

セレスティアに向かい、手刀を振り上げた状態で。

 

ガッ!!


それこそ戦闘の勘というやつで、間一髪のところでそれを避ける。

態勢を立て直す前に、その人物は二手、三手と次々に攻撃を繰り出してきた。


(速い……それにこの動き…!)


先ほどまでの戦闘とはまた違う。

セレスティアは、この相手がかなりの手練れであり戦い慣れていることを感じる。

なんとも言い表せないが、不気味で、どこか戦いにくい。

手を抜いたら、即無力化されてしまうだろうということも。


シュッ…ガッ…ドン!!


真紅の外套を羽織ったその人物から繰り出される攻撃を全て防ぎつつ、セレスティアも攻めの姿勢を崩さない。

彼女特有の身体の使い方で、握っていた暗器を使いながら応戦していく。


(この攻撃……それに受け方、どこかで……?)


その人物は、仲間と同じように片目から涙を流しながらも口元は笑っているピエロの仮面をつけていた。

体格から察するに、おそらく男。

この相手は、戦闘では珍しい身体の使い方や戦い方をしていた。

ただ、セレスティアはこの組み手を知っている。

脳内では反応しきれない身体の動きでも、体はこの攻撃パターンを何故か知っているのだ。

現に、初見では予測すらできない攻撃をされても、セレスティアはギリギリ反応できているのだ。

ーーさすがに完全に防ぐことはできず、傷は増えていっているのだが。


(問題はーー体力がどれだけ残っているか、か…)


さっきのウサギ仮面の男の相手をしたせいで、体力がかなり消耗していた。

正直、いつ自分が倒れてもおかしくないほどに。

対して、相手の攻撃はゆるまることはない。

だんだんと自分が追い詰められていくのがわかる。

どうすべきかセレスティアが考えはじめたとき、その限界は突然訪れた。


ガクンッ…


「っ!?」


急に膝に力が入らなくなる。

想像していたよりも早かった身体の悲鳴に、セレスティアは初めて焦りの表情を浮かべた。


(まずい…!!)


避ける直前だった蹴りに反応しきれない。


シュッ…ドゴッ!!


「ぐっ…!!」


鈍い音が響き、セレスティアは諸に蹴りを受けて、森の方へと飛ばされた。


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