(5)
部隊長室を出た二人がまず向かった先は、部下になる牙隊のメンバーが集まっているであろう演習場だった。
ーーのだが。
「牙隊?そんなの都市伝説だと思ってたけど」
「機動部隊に所属されて1年になるが、そんな隊は見たこともないぞ?」
演習場で訓練していたのは機動部隊の一般兵士達ばかりで、牙隊に所属している者は誰一人いなかった。
「えーー……、どーゆーことっすか、隊長」
「知らん」
途方に暮れるレイと、何かを考え込むセレスティア。
たしかにセレスティアは『特殊機動部隊牙』に配属されたはずだ。
間違いはない。
(だからこそ、存在しないわけがない)
何となくあたりを見渡すセレスティアは、ふと森の中で反射するように光る何かを見つける。
(…なんだ?)
セレスティアは、不規則に光る反射光に近づいていく。
「隊長?」
レイも動き出したセレスティアの後ろに続く。
光の発生源の近くまで来たときだった。
『ガサッ』
「!!おい!」
草の根が音を鳴らし、人影が森の奥へと走り去る。
最初に反応したのはレイで、次いでセレスティアがその人影を追って森へと入った。
「くそ、早くて追いつけない!!」
吐き捨てるようにレイが溢す。
人影のようなものは人外の速さでどんどん森の深くへと進んでいく。
ただ、二人が見失うほどの速度ではない。
(………。)
セレスティアは、ほんのわずかな違和感をその対象に向けて抱いた。
人影は追いかける二人と見失われないが追いつかれないくらいの間隔で、森の中を走り抜けていく。
しばらく走っていると、木々がなく開けた空間にでた。
そこで人影は姿を消してしまった。
「どこ…いったん、すかね……」
肩で息をしながら両膝に手を置き、腰を曲げるレイは苦しそうだ。
セレスティアも少なからず息は切れているが、周りの警戒の方が彼女の中での優先事項だった。
二人の周りには姿を隠す障害物が何もない。
戦場であればこの絶対的不利な空間に、誘導されるように入ってきてしまった今。
完全に囲まれている。
(数は10…いや、20はいる)
セレスティアとレイを囲むように生える木々。
ひらけた部分である場所から、日の光が当たらないギリギリのライン。
そこから複数の人数の気配がする。
こちらを注意深く観察し、息を潜める気配が。
(強い敵意…は感じられないが、歓迎はされてないな…)
「レイ。覚悟しておけよ」
「…はい?」
やっと息が落ち着いて、自分が置かれた状況を飲み込めたレイが、セレスティアの言葉に頬を引きつらせた、その時だった。
シュッ…
二人の間に、上から影が降ってきた。
(仮面…?)
その人影の正体は、仮面をつけた人だった。
反射でその陰から距離を取るように、二人は後ろ方向に飛び退く。
しかし、着地したその先にまた別の人影が、今度は地上から攻撃を仕掛けられる。
(間に合わない)
ヒュッ…ガッ!!
「っ隊長!!」
セレスティアは飛んできた蹴りを両手で防ぎ、その力を受け流すように自分の体ごと吹っ飛んだ。
そのまま受け身をとったため、大した怪我はない。
レイの方を見ると、彼も同じようにまた別の仮面をつけた人間から攻撃を受けている。
だが、彼らには武器はおろか、暗器すらももっていないように見える。
(殺す気はなさそうだな)
明確な殺意を向けられたならレイと組み、ツーマンセルで戦った方がいいと考えただろうが、殺す気がないなら個人戦でもいいだろう。
いい演習になるか、と呑気なことを考えながら、セレスティアは次に仕掛けられる攻撃に集中した。




