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帝国の矛  作者: 芥流水
遊号作戦
21/22

義勇兵、初陣

 九月六日一二時

 寺西中佐は英国南東の洋上を飛んでいた。独軍の爆撃機が英国へと向かって来ていることが電探によって分かったのだ。そこで寺西中佐らに出撃命令が下ったのであった。


 英国の電探技術は日本の数歩先を行っており、その目は大不列顛(グレートブリテン)島の南部及び東部を完全に覆っていた。そのお陰で、独軍を本土上空に来る迄に探知、迎撃が可能となっていた。

 これが無ければ独軍は早々に英本土攻略出来るであろうと迄言われている。


「あれが独逸の戦闘機か……」

 寺西中佐はその目に単発機を捉えていた。液冷式発動機特有の細長い機首を備えたその戦闘機はメッサーシュミットBf109Eであった。

 その翼には独逸民主主義共和国軍の印である、赤い縁取りに、黒い十字の鉄十字が描かれている。


 ソ連が独逸を手中に収めた時、その科学技術の高さをスターリンは高く評価した。その為、独逸では科学者は比較的優遇される職業となっており、その発展も著しいものがあった。


 この戦闘で、義勇部隊が第一に命じられていたのは、敵双発爆撃機の撃破である。そして、それは独戦闘機部隊の少し後方にいた。


「事前の打ち合わせ通り、爆撃機を集中的に狙う。行くぞ!」

 寺西中佐は無線機で僚機にそう伝え、スゥと機体を滑らした。


 寺西中佐ら欧州義勇部隊が操る零戦二一型は、その繊細な舵の効きに定評の有る戦闘機である。


 Bf109が寺西中佐らの接近に気付き、牽制の銃撃を仕掛けるが、そうと分かれば大した脅威でも無い。銃弾は見当違いの方向へと飛んで行くばかりである。


 寺西中佐は距離が十分に縮まったと見るや、操縦桿を押し、高度を下げ、一撃離脱式に上空からの攻撃を仕掛けた。更に機首を翻してもう一発叩き込む。

 これは鈍重な双発機に有効な攻撃方法として、昨日、バリントン大佐が義勇部隊に話したのであった。

 事実、この攻撃で義勇部隊は爆撃機二○機撃墜をしたのである。


 護衛する対象を失い、怒りに燃えるBf109が零戦に向かって行った。零戦を照準いっぱいに収めて、七.七ミリと二○ミリの機関銃を放った。だが、そこでBf109の搭乗員は不思議な光景を目にした。突如視界から零戦の姿が消えたのである。

 何処に行った?と探すも、その時には既に遅かった。機体が鈍い振動に襲われた。何が起こったか理解出来ずにその搭乗員は深い闇の中へと意識を落としていった。



 ふぅ、と寺西中佐は息を吐いた。自身 へと向かって来る敵機を見た瞬間、寺西中佐の体は自然と訓練通りに動いていた。機首を上げ、上方へクルリと旋回し、敵機の上に付き、必殺の二○粍機銃を敵機へと撃ち込んだのだ。


 空戦中に思わず気を抜いて仕舞ったことに気づき、慌てて周囲を見渡すも、寺西中佐へと向かって来る敵機はいなかった。Bf109は例外無く、零戦やスピットファイアに追い回されていたのであった。そして、十数分もすると、すごすごと引き返していった。


 こうして、欧州義勇部隊は爆撃機二一機撃墜、戦闘機一三機撃墜という非常な好成績で初陣を飾ったのであった。いや、それよりも素晴らしいのは被撃墜数が零という所だろう。因みにこの空戦で英国はスピットファイアを三機失っていた。


 併し、寺西中佐はこの戦果に余り良い顔をしなかった。寧ろ彼はこう考えていたのだった。今日の戦果は敵が重戦闘機同しの戦いに慣れており、格闘戦で不意を突いたというのが正しいだろう。特に速度では零戦はあの水冷式戦闘機には一歩譲る。そこを突かれれば、此方もひどい損害を負うに違いない。



 飛行場に降り立つと、非常に大きな白人男性が、寺西中佐の方へと歩いて来た。


「素晴らしいですね。正直最初にこの機体を見た時にはそれ程期待をしていなかったのですが……こちらの予想は完全に外れたようです。これなら英国を守るのに強大な力となるかもしれません」

 大男は英語で話しかけてきたが、寺西中佐も海軍士官であり、英語ぐらいは出来る。


「そう言われると嬉しいです。遥々と英国まで来たかいが有りました」

 寺西中佐がそう答えると、大男は驚いた顔をした。


「何と云うことだ。いや、完璧な王国英語ロイヤル・イングリッシュですね」

「そりゃ、帝国海軍の師は英国海軍(ロイヤル・ネイビー)ですから」

 寺西中佐が冗談めかして返答すると、大男は失笑を隠しきれ無い様子であった。


「道理で綺麗な英語をしている分けですね!申し遅れましたが、私はリチャード・ストーム海軍大尉です」

「欧州義勇部隊隊長、寺西行人海軍中佐です」

「おや、貴方の方が階級が上だ。これは失礼しました上官どの」


 ストーム大尉は笑いながら敬礼をした。


「いえ、お互い空を駆ける者同士です。その様な物は無用でしょう。それに、貴方の方が此処では長いのでしょう?出来れば敵機の情報などを教えてくれると有難いのですが」

 寺西中佐が返礼をしながらそう言うと、ストーム大尉は大きく頷いた。それから寺西中佐が右手を差し出すと、ストーム大尉はその手を力強く握ったのであった。


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