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帝国の矛  作者: 芥流水
遊号作戦
22/22

激戦の義勇兵

 英国において搭乗員不足は深刻であり、寺西中佐ら義勇部隊も連日の出撃を余儀無くされていた。

 空戦中は気の休まる時は無く、それは疲労となり、僅かずつに、だが確実に積もっていった。


 そして、最初の出撃から十日目にそれは起こった。


 一機の零戦がBf109に空戦を仕掛けた。欧州に来てからというもの、零戦の空戦性能も手伝って、義勇部隊は向かう所敵無しの状態と成っていた。そのせいか、五日目からは積極的に空戦を仕掛ける機体も出て来た。




「何時迄も爆撃機の護衛もままならないまますごすごと引き下がる我々独共軍では無い!日の丸の戦士よ、それを見せてやろう‼︎」

 Bf109搭乗員ハイヒマン・リーベンは零戦を睨みつけ、そう叫ぶが早いか、操縦桿を押し倒した。


 零戦の搭乗員はここ連日の戦果に有頂天に成っている。案の定、リーベンの機体と空戦を行おうとする機体が現れた。


 それは端から見れば、美しいとも言える戦いであった。リーベン機は機首を下げ、零戦の機銃を交わすとそのまま零戦の追尾を振り切った。これは零戦がその空戦能力を実現させる為に、華奢な機体で有った為下降速度に制限が有った為であった。リーベンはこれ迄の数少ない出撃でそれを見切り、実戦にてそこを突いたのだった。


「矢張り、この角度では下降して来ないか……。ならば、これはどうだ⁉︎」


 リーベンは、操縦桿と踏板を巧みに操り、Bf109にとっては信じられない程の半径の小ささで旋回をすると、先程の零戦小隊に下から突き上げる様な形で攻撃を仕掛けた。




 零戦小隊隊長、門林少尉は突如下から現れた敵機に不意を突かれた。

 -このままではぶつかる‼︎

 咄嗟に左に旋回をして、かわそうとした瞬間であった。敵機の発砲炎を確認するのと同じに彼は意識を失った。




 リーベンの放った七.九二粍のMG17機関銃は彼の狙いを寸分違うこと無く、敵一番機の操縦席へと吸い込まれていった。敵機はその姿を保ったまま落ちて行く。いや、それだけでは無い。リーベンが続け様に放った弾丸は敵二番機にも命中し、こちらは炎上し、墜落していった。




 正しく一瞬の出来事であった。

「あまりにも呆気ない……」

 寺西中佐のその呟きがその場にいた日英軍の兵の心情を表していた。無敵を誇っていた零戦が欧州で始めてそれも二機も撃墜されたのだ。


「あれをやるか……」

 場が凍りつく中、寺西中佐小隊は大きく旋回し、太陽を背にして先程零戦を撃墜したBf109に攻撃を開始した。




「奇襲ならともかく、その様な丸見えな攻撃が、例え太陽を背にしてだろうと私に通じるか!」

 リーベンは、仲間の仇とばかりに新たに襲いかかってくる零戦を目に捉えていた。


 必ず貴様を撃墜してやる!敵機からヒシヒシと伝わる殺意とも闘志とも付かぬものにリーベンの口は自然と歪んでいた。




 矢張り最初は下方に離脱するか。敵機の動きを見た寺西中佐はそう思い、操縦桿を引いた。零戦は上方へと旋回し垂直落としの格好となった。

 敵機を真下に捉えた寺西中佐機は七.七粍機銃を発射する。



 上方からの機銃を難なく躱したリーベンであったが、それでもその顔は余裕の有るものでは無かった。


 今のは牽制か。あの距離では私の技量では当たらん。彼奴はそれを知っていた?次は--

 めまぐるしく思考を回転させるリーベン。だが、彼の目の光はそれでも衰えていなかった。


「墜とせるものなら墜としてみよ!名も知らぬ空の戦士よ!」

 リーベンは操縦桿を捻り、機体の高度を上げた。


 寺西中佐は旋回を繰り返し、格闘戦に持ち込もうとするが、それが零戦の得意とする戦法であることはリーベンも承知している。そこでリーベンはフラップを下げ、機体の速度を落とした。


 寺西中佐機は勢い余ってリーベン機の前に出てしまう。


「そこだ!」


 リーベンの放った八粍弾が寺西中佐機に吸い込まれていった。左水平尾翼に命中し、方向転換舵を弾き飛ばす。そして、零戦は段々と高度を下げ始めた。


「然らばだ。貴様は生き残っていれば嘸かし強き者になっていただろう。だが、私も独空軍としてその様な者を生かす訳にはいかないからな……」


 もう引き上げの時間だ。Bf109の弱点は航続距離の短さである。そのせいで、空戦時間は僅か一五分と成っていた。驚くことに、リーベンはその一五分の内に、三機の零戦を次々と屠ったのであった。




 左水平尾翼を吹き飛ばされた寺西中佐機であったが、右水平尾翼と垂直尾翼は生きていた。

「海面に……何とか不時着出来るか?」

 寺西中佐は機体を出来るだけ水平に持って行く様にし、ともすれば左に回転しそうな機体を何とか押さえつけていた。


 高度はグングンと下がって行き、既に五○○米は切っていた。

 幸いにして海面は穏やかな方である。


 寺西中佐は発動機を絞り、機体の速度を落とすと、スゥと綺麗に不時着をした。


「併し、強敵だった。あれは死んだかと思ったが、何とか生きていられたな」

 寺西中佐は機外に這い出て、胴体に座った。

「必ずこの借りは返す。覚えていろよ、独逸野郎」


 寺西中佐の目には炎が燃えていたが、その口は不思議と笑っていた。

これで第二章完結です。


これから欧州戦線は各章末に書いて行くつもりです。

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