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帝国の矛  作者: 芥流水
十勝沖海戦
11/22

新鋭艦の意地

紀伊型の出番。第六話の続きの様な感じです。

『ソヴィエツキー・ソユーズ』が中々、直撃や狭叉を出せない一方、『尾張』が第六射撃目に、直撃弾を得、斉射を開始した。


『紀伊』と『尾張』の、計二○発もの砲撃に曝され、さしものネーバも恐怖を感じずにはいられなかった。


「硬いな……」

『紀伊』艦橋で、山本大将は焦った様に呟いた。


『尾張』の第二斉射も終わり、彼此、十発以上の直撃弾を与えていた。併し敵一番艦は、艦の至る所から黒煙を噴き出しつつも、まるで堪えた様子も無く、主砲を尚も撃ち続けている。


 おまけに敵一番艦の主砲弾も段々と、精度を増しつつある。

 敵一番艦の第七射目。山本大将にはその飛翔音が、とても不吉な様に聞こえた。


 直後、『紀伊』の右舷側に一本、左舷側に二本の水柱がそそり立った。右舷側の水柱は第二砲塔付近に噴き上がった。

 左舷側の水柱は煙突付近と、第四砲塔付近に直立した。


「とうとう来たか……!」

 山本大将の口から呻き声が漏れた。

 次からは敵艦も斉射に移る。それは即ち、史上最大の四六糎砲戦艦である敵艦の全力が、『紀伊』に向けられる、と云うことだ。


『紀伊』続いて『尾張』から斉射弾が放たれる。しかし、それが敵一番艦に届くよりも早く、敵艦が斉射を放った。


 山本大将は最初、敵艦が爆発したのではないか、と思った。それ程巨大な火焔が敵一番艦に見られた。


 少しして、『紀伊』『尾張』の射弾が落下した。


「命中二、『尾張』命中三」

 計五発の弾が敵一番艦に命中した。これで主砲塔の一基でも潰れればめっけものだが、既に放たれた敵一番艦の第一斉射は止めようも無い。


 敵弾の飛翔音が『紀伊』に迫る。

 それが最大に成った時、先程とは比べものに成らない程、凄まじい衝撃が『紀伊』を襲った。


「砲術より艦長。第四砲塔付近に被弾。第五砲塔使用不可能!」

 敵一番艦は第一斉射から『紀伊』の主砲を一つ奪ったのである。



「もう、主砲を一つ潰したか」

 敵一番艦の一○門から八門に減った主砲からの、斉射を見て、ネーバはほくそ笑んだ。


 ソヴィエツキー・ソユーズ級戦艦は主砲に四六糎連装砲三基六門、基準排水量六万八○○○瓲、速力二三.二ノットを有する世界最大の戦艦である。

 水上機搭載能力は持たないが、その分の小型化と軽量化に成功している。

 又、主要部位を集中防御し、その他の部分の防御を減らし、更に軽量化したが、流石に六万瓲を超える数字と成った。


 ソヴィエツキー・ソユーズ級の資金、資源、の大半は米国から出ている。また、建造技術も基本的に米国のものであり、「ソ連がソヴィエツキー・ソユーズ級戦艦建造に必要としたのは、ドックだけだ」とまで云われる始末である。(そう皮肉ったソ連将校の一部はその後姿を見せなくなった)


 建造したのは殆ど米国のようなものでも、所属するのは赤色海軍である。米国が何を企んでいようが、ソ連が最強の戦艦を手に入れたのは間違いない。


 斉射の衝撃が『ソヴィエツキー・ソユーズ』を揺るがす。これで新たに敵艦を潰せるだろう。ネーバはほくそ笑んだ。



「砲術より艦長。第五砲塔付近に被弾。電路を切断された模様」

「機関より艦長。第一主機室、三番、五番缶室に浸水!」

 敵一番艦の第二斉射は『紀伊』の主砲を一基使用不能に陥れ、缶室や主機室にまで被害を及ぼした。


「恐ろしい威力だな」

『紀伊』艦長、高柳儀八大佐はあまりの衝撃に、そう言う以外に何も出来なかった。

 それも止むを得ない。何せ敵一番艦はたった二度の斉射で、『紀伊』の戦力を三割に迄落としたのだから。


『紀伊』は残された六門の主砲で尚も勇敢に斉射を放つが、その威力はそれ迄に比べると明らかに劣っていた。


 しかし、『尾張』はまだ無傷でピンピンしている。此方は一○門の斉射を放つことが出来た。


『紀伊』『尾張』から放たれた一六発の四○糎砲弾が敵一番艦に向かって飛翔する。これが何と五発が命中。敵一番艦から、艦橋を超える大きな炎が上がった。


 しかし敵一番艦の弾も『紀伊』に向かって落下した。これは又もや一発が命中した已に留まったが、今度は一番砲塔が破壊された。


 そして、敵一番艦は異様にしぶとかった。驚いたことに、巨大な火焔を引きずりつつ、第三斉射を放って来たのだ。


「今の発射炎は小さいな。どうやら敵艦は主砲を破損した模様!」

 観測員から連絡が入る。それと前後して『紀伊』から斉射が放たれた。斉射であるが、主砲は今や四門にまで減らされ、最初の交互射撃の方が五発と、寧ろ弾数が多いという有様であった。



『駿河』『近江』と『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』の戦闘は一方的なものであった。


『近江』が第五射撃目、『駿河』が第七射撃目で命中弾を得て、それぞれ既に斉射に移っているのだが、『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』は一発も命中弾どころか、狭叉も得ることが出来ていなかった。


『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』はソヴィエツキー・ソユーズ級戦艦が一隻である為、世界最大の破壊力を持つ四六糎砲を装備していたが、当たらなければどうということも無い。


 それもその筈、というのも『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』は俊役してから二月しか経って居らず、『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』の乗員は圧倒的に練度が足りていなかった。


 それは『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』の乗員も重々承知しており、少しでも命中率を上げる為、初弾から斉射を放っているが、結果は既に記した通りである。


 これというのも、太平洋艦隊司令であるネーバは反対したのだが、何せヨゼフ=スターリンからの命令である。


「総統は碌に海戦に詳しく無いのに過干渉過ぎて困る」

 実際に声に出してはいないのだが-出していたら粛清されている-心の中で愚痴をこぼしたと云う。


『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』も俊役二月にすれば、善戦していたが、既に『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』は艦全体から幾条もの黒煙を棚引かせている。


 しかし、『駿河』艦長、小林謙吾大佐はこの状況に満足していなかった。寧ろ焦っていた、と言った方が正確かもしれない。『尾張』に隠れる形にはなるが、『紀伊』が大打撃を受けていることは彼も承知していた。


「どうやら敵一番艦(あちら)はやる様だな。早く敵二番艦(こちら)を片して、加勢をしなければ……!」

 小林大佐の声に応える様に『駿河』は第六斉射を放った。

イメージとしては、紀伊型は八八艦隊計画にある同名艦の強化版、ソヴィエツキー・ソユーズ級は大和型の弱体化版みたいな感じです。


次回は、今話のそのまま続きです(予定)


誤字、脱字、ココがおかしいと云う所ありましたら教えてくれると嬉しいです。

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