攻防戦-攻
一水戦大活躍の巻
第一艦隊隷下、第一水雷戦隊旗艦『最上』は四隻の駆逐艦を従え、戦場を駆けていた。
現在第一水雷戦隊は、『最上』、第六駆逐隊と第二一駆逐隊、第二七駆逐隊に分かれていた。
「目標、右二○度の重巡。」
第一水雷戦隊司令官、大森仙太郎少将は命令を下した。
「目標、右二○度の重巡二隻。砲撃始め!」
『最上』艦長、有賀武夫大佐の命令を受け、『最上』は主砲を右に向ける。
『最上』の後方で『暁』『響』『雷』『電』も、主砲を旋回させる。
『最上』前部の一五・五糎三連装砲三基九門が火を吹いた。暫くして、六駆の四隻も敵艦を射程に収め、前部の一二・七糎連装砲一基二門を斉射する。
『最上』の主砲は一五・五糎砲とは云え、口径は六○糎有る。並の重巡よりも射程が広い。
敵艦は『最上』が撃った少し後から射撃している。併し、そこは赤軍兵。反航戦と成っていることも災いして、砲弾は悉く六駆の後方に落下していた。
『最上』、六駆は既に三六ノットの最大船速を出しており、彼我距離はみるみる縮まってくる。
「針路其の儘。右魚雷戦用意! 敵重巡とすれ違い様に発射!」
大森少将から新たな命令が下された。
各艦艦長から水雷長に命令が下ったのだろう、
「魚雷発射準備よし」
の報告が上げられた。
「命中!」
の報告が上げられたのは距離七○○○米を切った時であった。
『最上』の砲弾が敵一番艦に命中し、火焔へと変貌した。爆発で破損した鉄屑だろうか、黒い塊が空中に舞い上がる様子が見てとれた。
「良いぞ!」
大森少将はほくそ笑んだ。
敵弾はまだ遠い。この後の射撃で敵の主砲でも壊したら、圧倒的に有利になれる。
併し、大森少将の願いは叶わず、敵艦は相変わらず発砲して来る。
そして、彼我距離が四○○○米に成ろうかという時、不意に『最上』後方から爆発音が聞こえてきた。
「『電』被弾!大火災!」
後部見張員から、報告が上げられた。
「魚雷に誘爆したか……」
有賀大佐の呻く様に言った。
敵艦に当たれば水線下部を抉り、多大な損害を与える魚雷だが、発射以前に誘爆をすれば、自艦を沈めかねない諸刃の剣である。
それを防ぐ為に、『電』は魚雷上部に防御板を付けていたのだが、敵艦の砲弾はそれを貫き、爆発したのだろう。
恐らく『電』は沈没をまぬがれ得ない。
「艦隊、針路三○度」
艦内の暗い空気を破るように、大森少将から新たな命令が出された。
『暁』『響』『雷』が、少し遅れて『最上』も、僅かに艦首を左に振る。
四隻が取舵を取った途端に、『雷』の右舷側に、水柱が上がった。敵弾が落下したのだ。
もう少し転舵が遅かったら、被弾していたかもしれ無い。と『雷』艦長、戸村清少佐は背筋が寒くなる思いをした。
「距離三○-三○○○米-」
「針路四○度」
転舵し終える前に、『最上』の周囲に水柱が乱立する。幸い全て至近弾に終わった。
「針路二○度」
高森少将は小まめに針路を変更させる。一瞬でも気を抜けば、少しでも運が悪ければ、敵重巡に喰われてしまう為、目は真剣そのものである。
「距離二○」
「此処が限界か……針路三五度!魚雷発射始め‼︎」
高森少将は矢継ぎ早に命令をだす。
操舵士の石川充一等兵曹が、左に切った舵を中央に戻すと同時に、
「魚雷発射完了!」
の報告が上がった。
六駆の三隻からも「魚雷発射完了」の報告が上がってきた。
高森少将はそれを受け、
「針路三一五度!」
の命令を出した。
『最上』『暁』『響』『雷』から発射された計二四本の魚雷がスルスルと、敵艦へと向かう。
『最上』と六駆が敵重巡に丁字をえがいたが、それも一瞬のことで、敵艦は直ぐに面舵を取り、反航戦となった。
別に敵艦は丁字を描かれるのを嫌った訳では無い。魚雷に対して、艦首を正対させ、被雷面積を最小にしたのだ。魚雷を回避するにはこれしか無い。
六駆が発射した魚雷は九○式魚雷である。これは後に開発された九三式魚雷-俗に云う酸素魚雷-とは違い、混合空気を推進力として使っている為、航跡がはっきりと見えていた。
そして高森少将はこれを狙っていた。敵艦が艦首を振るのを見るやいなや、新たな命令を出した。
「左舷魚雷発射‼︎」
先だって、「左魚雷戦用意」の命令が来ていたこともあり、『最上』は直ぐ様、魚雷を発射した。
発射された魚雷は僅か八本已であったが、距離が一五○○米という至近距離であった為、敵一番艦に二発、敵二番艦に三発が命中し、命中率六割越えという驚異の数字を叩き出した。
先に一番艦に二本の魚雷が当たっていたこともあり、敵重巡二隻は瞬く間に海の藻屑となった。
『初春』率いる二一駆、二七駆は、『最上』と六駆が敵戦艦に張り付いていた重巡と戦闘していた隙を付いていた。
また、両駆逐隊は両方とも初春型駆逐艦四隻で構成されている。
敵巡洋艦や駆逐艦は他の味方艦との戦闘に忙殺されている様で、二一駆と二七駆は全く戦闘をせずに敵巨大戦艦-『ソヴイエツキー・ソユーズ』-の側まで接近していた。
警戒していた敵戦艦からの副砲による迎撃は無かった。恐らく『紀伊』『尾張』との戦闘で既に、潰されているのだろう。
「右魚雷戦用意。距離四○で発射」
『初春』艦長、牧野担 少佐の声が響く中、二一駆、二七駆は最大船速の三五ノットで海面を駆ける。
「距離四○」
「雷撃準備。一分後に発射」
余りに順調に進んでいるので、少し欲が出てきたのである。
「距離三○」
「魚雷発射始め‼︎」
二一駆、二七駆の八隻から二四本の魚雷が発射された。
『初春』は魚雷を発射した後、敵艦から遠ざかっていた。
魚雷発射から約二分後、敵艦から数本水柱が上がった。
「命中!四本……いや、六本!六本命中‼︎」
観測員が嬉しさを隠しきれない様に、興奮して伝えてくる。命中率二割五分の好成績である。
敵艦は然程時間を置かず、赤い腹を晒して転覆し、行き脚は完全に止まった。
『初春』艦橋内が、歓声に包まれる。
初春型駆逐艦は、三連装魚雷発射菅二基を装備しており、まだ各艦とも三本の魚雷が発射可能だ。
更に初春型は自発装填装置という、魚雷をものの数分もたてずに装填できるという素晴らしい装置があるので、加えて六本の魚雷を発射出来る計算になる。
「二番艦を狙うぞ!」
牧野少佐の声はあくまで勇ましく、二一駆、二七駆は面舵を取った。
誤字、脱字、此処がおかしい、という所がありましたら教えていただけると嬉しいです。




