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4話 ケモミミの女戦士



俺が村を旅立ってから、少しして。



俺は文字通り山登りをしていた。



前の章でも言っていた通りで、ストラギウスに行くには山を一つ超えなければならない。



めんどくさがりの俺にとってはギルドで仕事する前に山登りなんて本当にめんどくさい。



しかも一人、暗い山道を登るとか、いくら俺でも寂しい。何より興が乗らん。



まあそんな時に限って俺には--





「キャーッ!!」





更に面倒事が舞い込んでくるわけだが。




--------



俺はすぐに悲鳴のあった方に向かった。



既に日は沈んで、辺りは暗かったが、叫び声が近くに聞こえたために叫び声のした所に行くのはたいして苦労はしなかった。



森を進んでいくと、少し先に明かりが見えてきた。木が焼けるような匂いがする。



(野宿していた所を山賊か魔物に襲われたって所か…?)



前者か後者かはすぐに分かった。



現場に着くと、焚き火があり、その近くに女が一人と男が三人いた。



(どうみたって仲よろしくやってるようにはみえねぇな…)



三人の男はそれぞれ手にナイフや剣を持って女に少しずつにじりよっている。



一方、女の方は特徴的な耳以外なにも持っておらず、三人の男を代わる代わる睨みつけているだけだ。



すると、男の中で一番体格のいいリーダー格が口を開いた。


「ククク。こいつは驚いたぜ。まさかこんなベッピンさんに夜で出会えるとはなぁ」



それに男の中の三人の中で一番弱そうなガリガリ君が答える。



「見たところこの女、いやメスか?獣人みたいっすよ?とっつかまえて奴隷商に売っちまおうぜ……まあその前に味見でも…ヒャハッ…」



(…クサレ外道が)



俺の中で何かがキレる音がした。



「お前達…!男ならば正々堂々戦え!!こんな武器も使えない状況で…」



ようやく口を開いた女だったがそれはすぐに遮られた。



ドガッ



「ウッ…!?」


リーダー格の男が女の顔を殴ったのだ。



「まあ無駄に抵抗されても仕方ないからなぁ。気絶して貰うぜ、獣人の姉ちゃん」



「ハァッ…ハァッ…」



女は立ち上がったがさっき殴られたせいで、口からは血が滴って足元はふらついている。



「おや?あれで気絶しないとは……気絶すればさらに痛い思いせずにすんだのになァッ!」



さらにそこに拳を入れようとした所で、俺は男の前に立ちふさがった。


「…!?」



男は一瞬驚いたが、拳の勢いは止めなかった。



俺は腰にかけてあった木刀とノアから貰った刀のうち、刀に手をかけて、引き抜きざま男の右の手首を切った。



「あ…」



ボトッ



地面には拳を握ったままの男の手が落ちた。



最初男は何が起きたか分からない様子だったが、自分の右手首から先がないのに気付いた途端に発狂しだした。



「アアガァァァッ!!?」



「兄貴!!クソッ、こいつめ!」



とっさにガリガリがナイフを持って向かってきたが俺は刀をしまい、木刀を出すとそれをガリガリのナイフを持つ手に振り下ろす。



グシャッ



何かが砕けるような音がしたと思うと、ガリガリはあらぬ方向に向いた手を抑えて地面にうずくまって悶絶した。



「あんまり貧弱そうだったんで手加減したつもりだったんだけどな…」



そう呟いた後、木刀を構えて最後の男を見据える。



男は何かブツブツ言っていたかと思うと体が淡く光った。



「魔法か…っ!!」



「凍れ!!」



男が言葉を発した後、男の前の地面が下からつららを出しながら俺目掛けて凍結していく。



氷が俺の所まで来た所で俺は空中に跳んだ。そして降りる所で男目掛けて、木刀を振り下ろす。



ガキンッ



しかしその一太刀は分厚い氷の壁に遮られた。



「チッ…」



次の一撃に備えて後ろに大きく俺は後退した。



男は更に詠唱して、無数氷のつららをこっちに飛ばしてくる。



俺は攻撃を避けながら、ぼーっと突っ立ている女にたまに向かうつららを弾いて、女に聞く。



「おい!女!」



「それは私の事か!?」


俺の言葉に気付いた女が俺に答える。



「当たり前だろ!女なんてあんた以外にだれがいんだよ!あんた炎系の魔法使えるか?!」


ヒュンっとこっちに飛んでくるつららを木刀で割ると女を振り返る。



「一応には使えるが…」


「あいつをとっちめたいとこだが、あの分厚い氷の壁のせいで攻撃がとおらねぇ。悪いが、その魔法をあの壁にブチ当てて溶かしてくれ!」



「だがどうやって近づく!?」



男は詠唱し終わったのか、魔法陣を展開している。その数は数十。



「こんなの…近づけないだろう?」



諦めたように女が静かに呟いたが、俺はニヤリと笑って答えた。



「今のうちに詠唱しとけよ……」



そう言って俺は男に向かって駆け出す。



俺が動いたと同時に魔法陣からつららが怒涛のように発射されたが俺は、それらを木刀で叩き落とし、男に詰め寄る。



「すごい……!!」



後ろから女の感嘆の声が聞こえる。



「今だ!!女ぁ!!」



「分かった!!…いけぇ!!」


俺の合図で女は俺が突っ込んでいる間に展開した魔法陣から炎を飛ばす。


ドシュゥゥッ



炎は氷の壁にぶつかると勢いよく氷を溶かしていく。



「おぉぉ!!」



気合いを込めて、男の首元に木刀を振り下ろした。



その一撃で男は気絶した。



「終わったか…」



俺は辺りを確認した。リーダー格の男とガリガリは痛みで既に気絶していて、魔法を使う男は倒した。


俺は女のそばに近寄ると身の安否を確認する。



「怪我は……ないみたいだな」



女は頷く。



「それは私が聞きたい所だが……聞くまでもないか…」


女の行った通り、俺は確かに無傷のままだ。強いて言えば最初の男の手を斬った時に返り血を少し手についた以外変わったところは何もない。



「お互い無事で何よりだな。…そうだ、名前を言ってなかったな。俺の名前はルイ。ルイ・ヴェルヘンだ。ルイでもヴェルでもどっちでもいい」



俺が自己紹介すると、女も名前を言う。



「私の名はフィオネ・ツォーレ。……人にあまり名前を呼んでもらう事がないから好きに呼んでくれ」



フィオネは俺に自己紹介をした後、倒れている男達を見る。



「木にでも縛っておこうぜ。フィオネ、手伝ってくれよ」



俺が彼女をフィオネ、と呼んだ瞬間、肩をビクッとさした。



「フィオネ?」



フィオネはぎこちなくこちらを見ると、返事をする。



「あ…ああ…名前を呼ばれるのは久しぶりだからな。でも…いいのか獣人の私なんかが手伝って?」



フィオネが目を伏せて聞いてくる。



「?…あっ!悪ぃ。こいつらの事さわりたくねぇか」



俺はフィオネの質問の意味を理解して、さっさと一人で男共を木の方へ引きずっていく。



「別にそういう意味で言った訳じゃない…!もうっ…」



溜め息をついて、フィオネも男を木に運ぶのを手伝い始める。



その時の彼女の顔は嬉しいのか呆れているのかどっち付かずの顔をしていた--








--------



「…起きろ」



暗い闇に女の声が聞こえる。



「ん……」



目を開けると、光と共俺の顔を覗き込むフィオネが映った。



「あれ…?なんで俺…」


そうだ。



昨日ストラギウスに行くために山を登っている途中でフィオネが襲われているのを助けたんだ。



そしてフィオネと一緒に山賊共を木に縛り付けた後に、その場から移動してそこで一緒に野宿して。



--そのまま眠った。



「悪い!」



俺は咄嗟にフィオネに頭を下げる。



「本当は俺が寝ずの番をしなきゃならなかったのに…」



フィオネは困ったような顔をした。



「頭をあげてくれ。私の方こそヴェルに感謝をしなければならないのに…そんな…」



「いやいや、俺が謝んなきゃ--」




---10分経過




「いや私の方がヴェルに感謝しなければならない。命が危なかったところだったからな」



「だからといって、女より先に寝て、寝てる間に何かあったらどうもしようもないだろ?」



「「だから「俺」「私」が--」」



そう同時に言うと俺らは言葉をつぐんだ。



「フッ…アハハハハッ」


何かが切れたようにフィオネが笑い始める。



「わ…悪い…フフ…急に可笑しく…アハハハハ!」



つられて俺も笑った。俺達は腹が捩れるくらいに笑った。



「あー…こんなに笑ったのは初めてだ…」



ようやく笑いが収まったフィオネが頬を紅潮させていう。



(改めて見るとやっぱり可愛いな)



肩の少しまで伸びて巻いている金色の髪。


出ている所は出ていて、締まっている所は締まっている体。



何よりも特徴的なのは人間とは違う耳と、端正な顔だろう。



「…ヴェル?」



心配そうに聞いてくるフィオネの言葉で我に返る。



「ああ、悪い悪い。お前があんまりにも可愛いいんで見とれちまってた」


俺の言葉にフィオネは紅潮させていた頬をさらに真っ赤にさせた手をパタパタさせる。



「そ…そんな事ないっ…そんな事ないぞっ…!」


フィオネは焦って立ち上がろうとしたが、立ち上がる拍子でそのまま俺に倒れこんできた。



ふにゅ



何やら柔らかい感触が顔から感じる。



「わ…悪い!!ヴェル」



慌てて俺の顔から胸を離すと俺の顔を覗いてくる。



ちょっと残念だと思いつつ、言葉を返す。



「ああ、大丈夫。フィオネこそ怪我してないか?」



「あ…ああ…だい…じょーぶ…だ…」



フィオネはそう言うと、俺の胸に顔をうずめた。フィオネの肩は震えている。



「…フィオネ?疲れてんのか?休んだ方が…」



「…違うんだ」



俺の言葉を遮ってフィオネがポツリと呟く。



「フィオネ…?」


俺の胸から顔を上げた彼女の目に浮かんでいたのは涙だった。



「どうしてお前はこんなに獣人の私に優しくしてくれるんだ…?私の事をすごく心配してくれて、守って、獣人とじゃなく、名前で私を呼んでくれて…」



涙を流してフィオネは続ける。



「今まで私を見る人間は皆軽蔑の眼差しで見てきた。あるいは、物を見るような目で…」



昔から続いている獣人差別。誰かがやり始めたのかしらない奴隷商という商売。そんな外道な商売のターゲットにされたのは獣人だった。



「れが…した」


それが--


「……?」



泣いていたフィオネが顔をあげる。



「それがどうかしたのか?」



「…!!」


別に獣人が差別を受けていたことを知らなかった訳じゃない。



俺はゆっくりとフィオネの頭を撫でる。



「お前が獣人?俺から見たらただのか弱い女だね。周りの目なんて気にすんな。誰がなんと言おうとフィオネはフィオネだろう?」



ぽんぽんとフィオネの頭を叩くと、ぎゅっとフィオネを抱いてやる。



「俺はお前をお前としてみる。フィオネ・ツォーレとして…」



フィオネはその言葉を聞いて俺の背中に手を回すとまた泣き出した。



「ヴェル゛ッ……ヴェル…!」



「好きなだけ泣くといいぜ。ぜんぶ俺が受け止めてやるから」



フィオネはその後俺の胸の中で暫くの間泣いていた。



------



「どうだ、落ち着いたか?」



「ああ…本当にすまない」



あれから10分程してからフィオネはようやく泣き止んだ。



「人の胸って…暖かいんだな」



顔がまだ泣き止んだ後の赤い顔で笑う。



フィオネの事を可愛いと思いつつこの年まで愛を知らなかった事に胸が少し痛む。



「ああ…そういえばフィオネってなんの為にこんな山に入ったんだ?」



このままだと暗い話ばかりなので話を切り替える事にする。


「私はストラギウスのギルドで働いていて、ある任務で遠出をしていたんだ。任務を終えた後、報告に戻る為に山賊の情報が少ないこの山を超えようとしたが、荷物と武器を置いて少し離れた隙に、山賊が私の荷物を奪い、あのような状況に……」



フィオネは悔しそうに目を伏せると葉を食いしばった。



「もしもヴェルが通りかからなかったら、私は今頃……本当にありがとう」


そう言うとゆっくり頭を下げた。



「ヴェルは何しにこの山へ?」



フィオネは顔を上げてから、首を傾げて俺に聞いてきた。



「実は俺、村からでたばっかで。これからストラギウスのギルドに行こうかと思ってたんだ。…そうだ、ストラギウスまで一緒に行こうぜ。自分で言うのもなんだけど、俺って世間知らずだからさ。向こう行っても多分道に迷っちゃうだけだから」



自分がどこから来たのかを説明した後俺はぐいっと身を乗り出してフィオネに提案した。



フィオネは困ったように目をキョロキョロさせると恐る恐る口を開く。



「でも私といるとお前は…」



フィオネの言葉を聞いて俺は溜め息を吐くと、フィオネの目をじっと見つめる。



「そういうのはなし。それに俺に感謝してるんなら、借りがあるだろう?ギルドまで連れて行ってくれたらなしにしてやるよ」



フィオネは頭を抱えて悩んでいたが、やがて諦めたかのように笑った。



「本当にお前は…物好きなやつだよ…」



「そんな事ないぜ?」



俺らはそんな事をしゃべると、また笑顔で笑いあった。




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