9話 大願成就
「奴を殺せ」
「安心しろ。嘘はない。」
——迷宮パンドラ35階層
晴天の空、木一つない平原。いくつかの巨影が空で舞う。
僕は腰の長剣を抜き、空に突き立てた。
「みんな、やっとだね。今日この日をもって迷宮パンドラ攻略の幕引きとしよう。」
その言葉を合図に炎、氷、水、あらゆる魔法が空に飛び交う。総勢約30名。クラン総出でこの攻略。
敵は五体のスカイドラゴンだった。空という生態系における王者。それは一体でさえ、中位のシルバーランクで構成されたパーティを崩壊させるほどだった。
スカイドラゴンに無数の魔法が直撃する。しかし、それは僕らの存在に気づかせるだけだった。
直後、頭の中に電撃が走る。
「全員伏せて!!」
僕は声を張った。平原に声が響く。クランメンバーが伏せ始めた時だった。
赤い光の片鱗が視界に映り込む。刹那、轟音が鳴る。
空が爆ぜた。僕はそれを見る。
「ははっ……。やっぱイカれてる。」
失笑。僕は後方に目を向ける。
「ミカ! 魔法を使うときは報告してって何度も言ってるよね?」
僕はローブを纏うミカに詰め寄る。すると、メガネをかけたシンが間に入る。
「まあ、いいじゃないか。今回も怪我人は出ていないんだ。」
そう言う問題じゃないんだよなぁ。
「シン! 甘やかしすぎ。怪我人が出なかったじゃなくて出るかもしれないで考えてよ。報告、それだけしてくれれば文句は言わないからさ。お願いね。」
ミカはフードを被り「ごめん。」と呟いた。
言い過ぎちゃったかな? あとで謝らないと。
肩に手が置かれる。ジョンだった。
「おい。リーダー。それより。」
ジョンが指を指す。
「空の王者が地に落ちたぜ。」
スカイドラゴンは平原の真ん中で焦げ暴れていた。
「そうだね。まずはあれを優先しよう。」
僕は剣を握り直し前へ出た。
僕を含め、近接の役割を持った者たちがそれぞれ五体のスカイドラゴンを仕留めに行く。
僕が羽を切り落とす。それでこいつはもう逃げられない。
即座にコガネが小さな結界を無数に作りだし、ドラゴンに飛ばす。突き刺さった結界は弾けて腹が抉れた。しかし、まだ息はある。
僕は身の丈よりも大きな首を斬り落とした。
コガネが近づく。
「シグマー! いえーい。」
手を前に出す。コガネ。僕はそれに応えパチンッとコガネとハイタッチを交わした。
さて、他は大丈夫かな。僕が周囲を確認する。僕は口角があがる。
「心配するまでもなかったな。」
目の前に広がっていたのはもう処理に入るクランメンバーたちだった。
「シグマ心配してたの? 知られたらみんなに怒られるよ? こんなことで心配されるなんてーって。」
そうだな。パンドラを攻略する目標だったとはいえ、心配するほどのことじゃなかったな。
僕は口元に人差し指を持っていく。
「みんなには秘密にね。」
そう言いドラゴンの解体に移ろうとした時、ユリウスさんを見つける。
「コガネ、少しユリウスさんと話してくる。先に解体しててくれないか? すぐに戻る。」
「りょーかい。」
僕がユリウスさんに一歩足を踏み出した瞬間だった。平原の真ん中に白い一本の光が立った。
誰もそれを見ようとしない。僕とユリウスさんだけがそれを見ていた。
僕はユリウスさんに駆け寄る。
「あぁ。シグマか。やっとだ。二年も経っちまったな……。あれが俺たちが求めていた報酬だ。」
僕たちは歩く。光の柱に向かう。近づくと次第にそれは消え、一つのアイテムが平原に落ちていた。
「拾えよ。リーダー。」
ユリウスさんは僕を見てそう言った。僕は横に首を振る。
「これから行くのはユリウスさんが集めた人たちを助けに行く戦いだよ。ここで拾うのは僕じゃない。」
そうだ。僕じゃない。こうして僕がリーダーになったのも最高の仲間に会えたのも全部ユリウスさんがいたから。この人が僕を拾ってくれたから。
いまから行く戦いのリーダーは僕じゃない。
「そうだな。ここからはこのクランとしてじゃなくあのパーティのリーダーとして、これは俺が預かるよ。」
ユリウスさんはそれを拾い上げる。
僕はユリウスさんと顔を見合わせる。
「ここからが本番だよ。リーダー。」
僕はユリウスさんにそう言った。
——翌日 砂漠が暑くなり始めた頃だった。
僕とユリウスさんは砂を踏みしめた。振り向くとそこにはクランメンバーたちがいた。
僕は息を大きく吸う。
「皆! 聞いてくれ。僕たちはこれから『集う者』と抗争を行う!」
僕は拳を握り締めた。
「いや、違うな。抗争なんかじゃない。奇襲だ。一気に攻め落とす。このやり方を汚いと言う者は、下がっていい。これはクランとしての行動ではない。個人としての奪還、そして復讐である。
だからお願いだ。どうか僕に力を貸してほしい。そして誓おう。必ずこの『集う者』に戻ると!」
誰も下がらない。代わりにジョンが前に出る。
「下がる者なんているものか! このクランは最初からそれを目的にしてきたんだ! 奇襲だ、復讐だなんて気にしないさ。誰もシグマやユリウスを責めやしない!」
歓声、武器が掲げられる。ジョンの言葉にクランの人たちが声を上げる。
よかった。僕は本当に、仲間に恵まれたな。
——僕の心の中でハフリの笑い声が響き渡る。二年と半年、間に何度もあった。その度、魔法がそれを伝える。僕の中で奴はまだ恐れなければならない存在だった。
僕は拳を握り締めた。




