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最終話 未来は続いていく 

 砂漠を抜け、森を抜けた。もうすぐだ。僕は戻ってきたんだ!

 道なりに進むと、そこには大勢の人影があった。

 あり得ない。一番前にはハフリの姿があった。

「久しいな。ユリウス。ずっと待ってたんだぞ? こいつらがな。」

 そう言い、ハフリは手で合図を出す。女性二人が前へ出る。僕を追放したとき、ハフリの横にいた女だ。

 手になにか持っている? 女二人はそれを前へ投げた。

 それは転がる。生首だ。その目がこちらを向く。見覚えのある顔だった。パーティメンバーの顔だ。

 声が出ない。視線が釘付けになる。

 嘘だ。幻覚だ! 洗脳だ! そんなはずない。

 咆哮。――いや、男の悲鳴が耳を刺す。ユリウスさんだった。ユリウスさんはハフリに斬りかかる。

 ねじ曲がる空間。気付けばユリウスさんは元居た場所に戻されていた。

 何度も何度も向かうユリウスさん。一向に届かない。味方も敵も動こうとしない。ただユリウスさんの声がその場を轟かせる。

 ハフリはユリウスさんを見て軽く笑い、一言「やれ」と呟く。敵が一斉に動き出す。

 僕は即座に後方を向く。

「来るぞ! 戦え!!」

 味方も動き出す。その場所は戦場と化した。僕は腰の剣を抜く。ハフリを睨む。地面を蹴り、距離を詰める。

 しかし、人影がそれを遮る。大剣、大男だった。片手で僕の剣を受け止める。大男は防いだ大剣を前へ突き出す。相手との距離が空く。即座にそれは詰められる。

 頭の中の稲妻が危険を告げる。相手は速すぎた。間に合わない。大剣が振り落とされる。

 大剣の男の顔の真横で小さな爆発が起こる。ミカの爆発だ。大剣の勢いは止まる。即座にジョンが男に斬りつける。男はジョンの攻撃を受け止めた。

「大丈夫か。シグマ!」

 ジョンは下がる。僕はすぐ立ち上がる。

「うん。大丈夫、予想外だっただけ。まさか、『銀色の鷹』のリーダーが相手なんてね。相性最悪だよ。」

 軽口をたたく。しかし、返事が返ってこない。相手の動きも止まっていた。

「なぁ、シグマ。少し話がややこしくなってきた。」

 ジョンはそう呟く。

「まさか、『銀色の鷹』のリーダーが兄ちゃんだったなんてな……。ラック。こんな近くにいたのか!」

 ジョンは大剣を構えた。ラックと呼ばれた大男は冷たい目でジョンを見ていた。

 ジョンがラックに距離を詰める。迷いなく斬り込むその姿に違和感を覚える。

 なんで、兄だぞ。ジョンの目的は家族に会うことじゃなかったのか?

 いや、考えてる時間はない。今は早くジョンのアシストを!

 即座に背後に回る。彼らの斬り合いの中、僕は長剣を振るった。

 背中で剣が止まる。相手は気にもしてない。

 固い、鋼鉄化! ジョンと同じ魔法か。つくづく相性が悪い。

「いい。行け! お前はユリウスを助けるんだ!」

 ジョンが大剣を交えそう言った。

 くそっ。

「悪い! ジョン。」

 僕はそう言い戦場を走った。

 どこだ! どこに行った。ハフリ!お前だけは許さない!

 妨害するホーチミンのメンバーを僕は剣で斬る。

 それは抗争だ。自分に言い聞かせる。

 近づく敵。僕は無心で斬り裂いていく。

 また近づく。敵の姿。頭の中に電撃が走る。

 敵に刃が近づくほどにその音は大きくなる。

 斬る。瞬間、魔法の警告音が、聞いたことのない音に変わる。それは警報ではなくただの騒音だった。

 目の前の敵が地面に落ち、黒いものが広がっていく。

 なんだったんだ、今の。

 それよりもユリウスさんを、ハフリを探さなきゃ。

 走る

 斬る

 騒音

 さっきから何かがおかしい。魔法が機能しにくい。ユリウスさんがアイテムを使ったのか?

 いや、使えなくなってるわけではない。一体なんなんだ?

 すると、見えてきたのはハフリの姿。その奥にはユリウスさんの姿があった。

 背後を取っている。……背後なら攻撃が通るかもしれない!

 僕は足に魔力を込めて全力で距離を詰める。

 剣の刃先がハフリの服に触れる。魔法が警報を鳴らす。

 いける! 届く。

 直後、背中からハフリを突き刺した。

 騒音が頭に響く。

 もう! なんなんだ! うるさい。

 手応えがあった。確実に心臓を貫いた。僕は剣から手を離す。

 倒れるハフリ。

「やった。やりましたよ。ユリウスさん!」

 僕はユリウスさんに駆け寄る。直後、倒れたハフリのそばに戻っていた。

「え?」

 僕はハフリに視線を落とす。奴の姿だ。間違いない。でも、違和感。さっきからの騒音はなんだ? なぜ、ここに戻っている……。

 ハフリの手になにかが握られていた。僕はそれを見た瞬間、点と点が繋がった気がした。

「35層の報酬?」

 まさか!

 僕は報酬をハフリの手から奪い、使用した。

 結界のような領域が張られる。瞬間、倒れたハフリの姿が変わった。

 僕は目を疑った。

「ユリウス……さん。」

 なんで倒れて……。だってさっきまであそこに!

 ユリウスさんが立っていた場所に視線を向ける。

 そこにはハフリの姿があった。

「どうした? シグマ、俺は最初からここにいたぞ。」

 あ……あぁ。あぁぁ……。

 思考が理解を拒む。信じたくない。信じられない。同時に魔法の騒音の意味に糸に針が通る。

 敵を倒したときの騒音の正体は……仲間を殺したとき?

 ずっと違和感があった。騒音が起きたとき、彼らはいつも攻撃をしてくるのことはなかった。姿は敵。頭に響く稲妻がそれが斬る決め手なっていた。

 違う。魔法を知らせていたんだ。仲間が『洗脳』によって敵の姿に変えられていると!

 僕は自分の手で仲間を殺していた……。

 男の笑い声。妬ましい男の声。ハフリの声だ。

「やっと消えてくれたよ! ユリウス!! あははっ。」

 僕はユリウスさんの亡骸に近づく。胸に手を当てる。鼓動がない。即死だ。

「名前といい、死に方といい。お前は最後まで『ユリウス』だったな。」

 僕はハフリを睨む。

「どうした? ブルータスことシグマくん。」

 奴が何を言ってるかなんて分からない。ただ不快だった。

「なあ、なんで俺はお前たちの奇襲に気づけたんだろうな?」

 靴を鳴らし近づくハフリ。いつでも剣が届く距離までハフリが近づく。僕は剣を握り直そうとする。

「やめておけ。どんなに近かろうとお前は俺に届かない。例え、今俺が魔法が使えないとしてもな。」

 ハフリは僕を見下ろし笑いながら言った。

「俺はずっと見ていたぜ。なんで世の中は便利になると思う? それはこの世の中が不便だからだ。」

 ハフリはユリウスさんの回りをゆっくりと歩く。

「やっぱり信じたものは一度疑ったほうがいい。それがお前の居場所かもしれないし、違うかもしれない。この世界で居場所がない奴なんて存在しない。」

 回る。また回る。ハフリの足は軽かった。

「なんで人は流されてしまうのだろうな。やっぱり自分の理想に近づきたいからか?」

 耳を塞ぎたかった。奴の声が気持ち悪い。不快感だけが心に残る。

「もう完成した人間関係に割り込むのは難しい。でも、勇気を出せば意外と受け入れてもらえる。」

 黙れ! 一体なんの話をしてるんだ!

「大きな一歩を踏み出した時、人はその人に惹かれるんだ。ついて行きたくなる。でも、その一歩を踏み出すのは大変だよな。一歩を踏み出せる人ってのは努力してきた人にしかできない。だから人は勝手に気づくんだよ。お前が努力をしてきたってことに。」

 ハフリはしゃがみこみ、僕と視線を合わせた。

「俺はずーーーと見てたぜ。お前の目でお前の人生を。」

 ハフリは人差し指を自分の視線に置き、僕に近づけた。

 理解ができない。言葉は分かる。でも分かりたくない。

「監視カメラ、お疲れ様。そしておかえり。俺の人形。」

 そうだ。ジョンが、ツバキが、生きてる仲間がまだいるはずだ! 今すぐ撤退を!!

「なあ、シグマ。将棋って知ってるか? 知らねぇか。この世界ないもんな。」

 ハフリは立ち上がり、ユリウスさんの頭に片足を置く。

「将棋ってさ。相手の駒を仲間にできるんだよね。普通ならスパイとして送り込んで裏から破壊する、そういう解釈ができるんだよ。

でもさ。その駒にスパイだと知らせずに、そいつの行動を信じさせて自由にさせたらどうなるだろうって俺は思ったわけだ。『深層心理』俺の洗脳が効かなかった。邪魔だった。魔法を知られた。」

 ハフリはユリウスさんの頭を何度も踏みつける。

「お前はこれを確実に殺すための決め手だったってわけだ。」

 戦場の音が静まる。

「どうやら、戦いは終わったみたいだぞ?」

 ハフリが遠くに手を振った。奥から大男、ラックが歩いてくる。

 僕は目を伏せた。

 ラックはドスッと手から落とす。信じたくなかった。

 ジョンの亡骸だ。そして、もう一つ。ヘッダーの亡骸。

「おかえり。ラック。」

 ハフリが笑顔でそう言う。

「確かにお前の言っていたことは全部、正しかった。弟には会えた。俺の仲間は誰一人死んでない。何一つ、嘘はない。だが……」

 ラックが哀れみの目で僕を見る。

「あまりに残酷だな。」

 ラックは背を向けた。

「それは褒め言葉でいいのかな? あっ。そういえば殺してないよね?」

 ハフリが慌てる。

「安心しろ。ツバキと言う女だけは生かしてある。」

 ツバキ……。生きてる。

「だけ、ねぇ。」

 ハフリは口角を上げそう言った。

 あぁ……。

「行こうか。シグマ。立ちなよ。」

 ハフリはそう言い立ち上がる。僕は最後の力を振り絞り立ち上がった。

 ハフリはやはりまた笑っていた。不快、不快で仕方ない。でも今は従うしかない。

 歩く。すると、枷をかけられ、複数の見張りがついているツバキの姿があった。ツバキがこちらに気づく。

「シグマ!!」

 僕は彼女を見つめる。

「いいよ。好きにさせてあげて。」

 見張りがツバキの枷を外す。ツバキが俺に駆け寄る。同時にハフリが距離を離す。

「逃げよう!! もう二人しか残ってない。早く、お願いシグマ!」

 無理だ。逃げられない。だからツバキだけでも。彼女を逃がす選択を!

「ツバキ……。先に行ってて。パンドラに集合しよう。必ず戻る。」

 堪えていたツバキが涙を流す。

「何言ってるの! 駄目だよ。無理に決まってる。」

「いいや。ハフリは俺を殺さない。穏便に終わらせる。降参だよ。この抗争は僕らの負けだ。大丈夫、必ず戻るから。」

 僕がツバキに背を向け、ハフリを見る。ツバキは腕を掴む。

 お願いだ。早く逃げてくれ。

「なら、一緒に降伏しようよ。」

 ああ……だめだ。逃がせない。降伏なんて受け入れられるわけないのに。

「分かった。一緒に行こうか。」

 ツバキの手を握る。もしかしたらハフリの女としてなら助かるかもしれない……。

 そう思った刹那——ツバキの心臓が槍で貫かれた。

 は?

 ハフリの笑い声が空に響く。

「せっかくチャンスあげたのに逃げないんだ! クラン愛の力は凄いねぇ。まっ。どの選択をしようがその女は死んだんだけどね。」

 もう……だめだ。

 僕はツバキに刺さった槍を静かに抜く。

「なんで俺がそいつだけ生かしていたと思う? お前が一番仲が良かったからだよ。一番最初に受け入れてくれたもんなぁ。お前の目の前で殺してやりたかった。」

 僕のせいだ。僕のせい……なんで気づけなかった? 洗脳されていた。見られていた。この目で。

 僕が仲間、みんなを殺した。魔法はずっと教えてくれていたのに。

 僕はハフリを睨む。

 僕の目を通じて、お前はずっと嘲笑っていた!!

 僕は指に魔力を込める。両目をほじくる。視界が消える。世界から光が消える。痛みなど、今の絶望に比べれば無に等しかった。

 僕は見えない世界で正確に長剣を持つ。剣先を心臓に向ける。躊躇なくそれを進めた。心臓から剣を引き抜き放る。

 僕は冷たくなっていくツバキの身体をきつく抱きしめる。真っ暗な世界でハフリの、あの忌々しい笑い声だけがいつまでも、いつまでも響き渡っていた。


 クラン合併後に追放された僕は元クランリーダーと最強のクランを作ってざまぁしたい end

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