8話 努力は見られなくとも伝わる
——宿 シグマ離脱後
「な、なんでだ。なんで即答しない。俺はシグマに嫌われてしまったか?」
ユリウスは頭を抱えていた。するとローブの女性が言う。
「いつまでもあんたを見てくれる健気な子じゃないってことでしょ。」
メガネの男は続ける。
「彼も彼なりに考えているさ。僕が同じ立場ならユリウスの下にはつきたくないかな。なんでそんな大事なことを僕たちに黙っていたか教えてもらおうか。」
メガネの男とローブの女は立ち上がりユリウスに詰め寄る。
「それよりもシグマは放置していいのか?」
獣人の男は言った。
「いいんじゃないか? シグマは強い。きっとすぐにユリウスをも驚かす択を持ってくるよ。」
ツバキが言った。
「やけに彼を信用してるんだね。ツバキ。」
煽るようにローブの女が言う。
「シグマは私のなりたかった姿だったのかもしれない。憧れるんだ。あんな人になれれば良かったってね。」
ローブの女はそれ以上なにも言わなかった。
——夜 宿
「ユリウスさん。朝の問い。断らせていただきます。」
ユリウスさんはテーブルの向かいでジョンを睨みつける。
「この人は?」
ユリウスさんが問う。
「ともにパーティを組むジョンさんです。」
ジョンは軽くユリウスさんに挨拶をした。
「断るための理由も連れてくるとは……。そんなに俺と。」
僕はテーブルに手を置きユリウスさんに全力で思うことを伝えた。
「ユリウスさん! 僕はもうあなたの下には付きません。だけど一緒に行動はしたい! だからクランを作りませんか?」
ユリウスさんは時が止まったように動かない。
だめだったか?
すると、クスクスと笑い声が聞こえ出す。その方へ視線を向けるとユリウスさんのパーティメンバーが壁の影から覗いていた。
ローブの女性がユリウスさんに近づく。
「言ったでしょ。ユリウス。対等だってさ。ツバキが憧れるのも納得だね。」
ユリウスさんは下を向く。しばらくその時間が続く。
「ユリウス? やべ煽りすぎたかも。」
ローブの女性がそう言った瞬間。ユリウスさんは立ち上がる。
「シグマ。お前はもう子供じゃないんだな。分かった。その提案を受けよう。クランの名前はお前が決めろ。」
え? 今なんて。
「ユリウスさんが決めるんじゃないんですか?」
それを聞いたユリウスさんは真顔でいう。
「当たり前だろ。お前からの提案だ。リーダーはお前だろ。」
「当たり前だな。」
ジョンまでがそう言う。
助けて! ツバキ!!
ツバキに視線を向ける。
「何にするの? 名前。」
ツバキまでもがそう言った。僕に逃げ場がないのだと自覚した。
「じゃあ、クランの名前は——『集う者』なんてどうでしょう。」
沈黙が訪れる。
最初にそれを破ったのはツバキだった。
「フォーカス。いいね、私は賛成。」
ローブの女性を続ける。
「私も文句はない。」
ジョン
「文句なし。」
次々と賛成の意見が灯っていく。
気付けばユリウスさんだけが意見を出していなかった。
「勿論、賛成に決まってるだろ。本当に大きくなったな。シグマ。」
ユリウスさんは目に涙を浮かべていた。
「はいはい。面倒くさくなる前に寝ようね〜。そんじゃおやすみ、リーダー。」
ローブの女性はそう言いユリウスさんを連れて部屋に向かった。
「それじゃ、今日はもう遅いし解散にしようか。」
なんて、僕が言った頃には、メンバーたちは次々と自分の部屋に戻っていってしまった。
彼らとはまだ話したことないけど上手くやれるかなぁ。僕がリーダーなんてなんか不思議。
「おやすみ。シグマ。」
ツバキに「おやすみ」と返し彼女も部屋に戻っていく。僕は振り向く。
「今日はありがとう。ジョン。これからどうするの?」
ジョンは応える。
「俺は自分の宿があるから帰るぜ。明日にはここに引っ越さなきゃな。」
ジョンは笑う。
「いいよ。大変だろうし。」
「そうはいかないだろ。俺だけ仲間外れ感が否めん。明日には越す!」
なんだか、嬉しいな。
「今日は送っていくよ。」
「そうか。ありがとうな。」
こうして、二人は宿を出て夜の街を歩く。この間絶えることのない会話。それは凄く楽しくあっという間に終わってしまう。
「着いたぜ。ここだ。」
ボロい宿、外から見れば営業しているのかも怪しかった。
それは、確かに引っ越したいな。そんなことを思いつつもジョンと会話を続ける。
「俺さ。実は兄がいるんだよ。行方不明なんだ。生きてんのかも分かんねぇ。実はもうこの都市ともなんなら大陸からも出ようと思ってた。ここにはいないってそう思ったからな。」
それを聞いて僕の心が締め付けられるような感覚に陥る。
「まさか、無理に?」
ジョンは横に首を振った。
「違う。もういいって思ったんだ。お前と会って諦めようって。でも同時に唯一の希望が芽生えたんだな。もし、あいつが生きてたら、このクランが世界一有名になったら、俺らはまた巡り会えるんじゃねぇかって思ったんだ。
唯一の家族に会えるための手段に俺はお前を選んだよ。」
ジョン……。
「期待に添えるよう頑張るよ。」
「おう! じゃあまたな。おやすみ。」
ジョンはそう言い宿に入っていった。
温かい。僕はきっと恵まれる。救われた。
だから、いち早くパーティメンバーを助けてやりたい。僕はもう取り繕う必要なんてない。
宿に戻り高まる鼓動がベッドに向かおうとしない。僕は2階のテラスから外を眺めていた。
「やぁ。隣、いいかい?」
ローブの女性が背後から話しかける。
「寝たんじゃなかったんですか?」
僕はそう応え、首を縦に振った。ローブの女性が隣に来る。
「寝れないんだぁ。大きく環境が変わった時はいつもそう。」
暫し、沈黙が続く。
「あのさ。私たちはそのハフリって奴は知らない。でもさ、私たち兄妹にとってユリウスは大切なんだよね。まだ半年だけどね。」
兄妹? この人に兄がいるのか?
「いたんですか? 兄妹。」
ローブの女性はクスリと笑う。
「そうだ。言ってなかったね。あのメガネ、あれ兄ね。似てないでしょ。」
ローブの女性は続ける。
「それで、私たちにとってユリウスは英雄だったんだ。命を救われた。ツバキと一緒の理由で彼についてる。
でもどうしてだろうね。そんな英雄より私は一生懸命に頑張っただろう君に惹かれたんだ。
正直、君がこんな選択をするとは思わなかった。どうせユリウスについていくだけだと思ってた。まさか、本気で斜め上の行動に出るとは思わなかった。」
ローブの女性が僕の顔を見る。
「私は君を応援するし、ついていくと約束するよ。」
温かい。胸の内が凄くあたたかい。いいんだ。僕がリーダーをやっても僕にはこの人たちを引っ張れるだけの力がある。
「ありがとうございます。えーと……。」
ローブの女性が笑う。
「そうだ。君はまだ私たちの名前は知らないよね。私がミカ、兄がシンだよ。改めてよろしくね。」
ミカが笑顔を向ける。
「よろしく。ミカ。」
それから、二年の月日が経った。
僕たち、『集う者』は迷宮都市パンドラで一番名のあるクランとなっていた。
その噂はハフリの耳にも届いていた。
「頃合いだな。」




