2話 何故世の中は便利になるのか
足は沈み、日差しは強い。そろそろ水も尽きる。
完全に舐めていた。砂がこれほど厄介なものだったとは。極めつけは……。
瞬間、思考に稲妻のような刺激が走る。僕は地面を蹴り後ろに飛ぶ。
「このサンドワームの襲撃。死亡率が高いのも納得だよ。」
僕はさっきまで立っていた場所から飛び出てきた自分より数十倍も大きい魔物を見上げ、汗を拭った。
さて、狩りを始めよう。
即座に距離を詰め腰の鞘から長剣を抜いた。他の魔物と比べて、比較的柔らかいワームの腹を幾度も斬り裂く。
ワームが砂へと落ち始める。表面だけ傷つけても駄目だな。今度こそ仕留めきる。踏み込み、斜めに剣を振る。
刃先が深く肉を抉り途中で止まってしまう。
くそっ。無駄にでかい。臓器が斬れない。
なら……。
僕は刃先をワームの肉の中で、無理やり上へと動かす。宙から砂へ落ちるワームの腹を、そのまま切り裂いた。黒い液体が周辺に飛び散る。ワームは砂の中へと姿を消した。
逃がしたか。惜しかったな。これで3体目。次は倒せるか?
僕は血液を被った自分の体を見る。温かいと言うよりは熱い。なにより臭え。腐った肉と泥やカビが混ざり合った匂い、剣で倒すような魔物じゃないな。
さて、どうする。バッグパックの横ポケットから地図を取り出す。
「オアシスに寄るか? だけど、この匂いと水を我慢すれば今日中に『パンドラ』に着きそうなんだけどなぁ。」
うん。決めた! 早く『パンドラ』に行ってしまおう。1秒でも早くユリウスさんに会いたい!
僕は地図を元のポケットに入れ直し、砂漠を再び歩き出す。
小さな音。なんだろう。何か来る。魔法は反応していない。敵ではないか。
だんだんと大きくなる音、それは後方から聞こえてきた。
ドスドスとなる足音、同時に車輪の音が耳を刺す。
竜車か。僕は後方を確認し、音の正体を確認した。
地竜。馬よりもスピードこそ落ちるが砂漠や湿地といった走りにくい地域を馬の代わりに運搬を担うドラゴンだ。
竜車が自分の横を通り過ぎる。その刹那、地竜を操る商人と目が合う。
なんだよ。その哀れみの目は。
商人は振り向くこともせず、すぐに見えなくなっていく。
地竜か。あんだけ音が大きければサンドワームから襲われるのも格段に減るんだろうな。
僕もお金があればこんな辛い散歩はしなくていいんだけどな。
日も下がってきた。昼を過ぎたな。少しは楽になるだろうが、砂漠の夜は恐ろしい。
盗賊やサキュバス、サソリ、もちろんさっきのサンドワームまで多くの脅威が活発になる。その上、気温も驚くほど下がる。昨日は大変だった。
早くパンドラへ向かおう。僕は強く足を踏みしめた。
日が沈んできた頃だった。
すっかり暗くなってしまった。もうどこを見ても暗闇だ。そろそろ着くはずなんだけどなあ。
刹那——強い殺意を感じ取る。全身が毛立つ。即座に振り向く。頭の中で何度も稲妻が走る。
頭が割れる!!
今、何かが横を通り過ぎた! 魔法が遅れた? 高速移動をしていたわけじゃない。真横を歩かれるまで気づかなかった。
「やめておけ。君がその意思を前に出せば僕は容赦しない。」
通り過ぎた何者か。男の声だった。その声からは殺意は感じられない。何故か魔法が警告を出す。
暗闇の中で目を凝らす。人の姿だった。何かを背負った男の姿。喉が枯れる。声を出せない。
「なんで気づけたの? 悪魔でもないのに。」
男の声は穏やかで殺意なんて感じない。魔法は変わらず警告を続けている。闇に目が慣れ、男の輪郭が見えてくる。背負っているのは子供?!
「何も言わないか。まあいいよ。君が敵意を見せない限り僕はどうもしない。」
そう言い、男は歩き去っていく。
息を吐く音。自分の声だ。心臓は激しく鳴り、頭の中はまだ警告を知らせていた。
なん、だったんだ。あいつ。




