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アリシアの仮初の結婚  作者: 砂臥 環
本編:アリシアの仮初の結婚

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9/19

⑨アリシアの本当の結婚


──三年後。

アリシアとレオンは結婚式を挙げた。

誓いを立てたのは王都大神殿……レオンが聖騎士として働いていた場所だ。


あれからそれなりに色々とあった。

ただ実生活上の結婚らしさ(・・・・・)は、最初がアレとは思えないほどにスムーズに整っていったと言える。


実のところレオンはアリシアを保護した裏で、自分側の外堀だけは埋めていた。

まだ名目だけの妻と、『友人』としてすら接触できない鬱屈をぶつけるかのような、驚くべきスピードで。それでいて、彼女が選択できる余白だけはキッチリ残しながら。


なので当然ながら、領地にいる侯爵夫妻の許可もしっかりもぎ取っていた。


元々夫妻は息子(レオン)が幼い頃から変わらず、アリシアに並々ならぬ好意を抱いていることは理解していた。『彼女が18で結婚する』という話も耳にしいていたし、まだ若いということもあり、一途な息子のために婚約者の選定を見送っていたのだ。


息子からの手紙の内容……特にアリシアが継嗣ではなくなったことに驚きはしたが、息子が好きな相手でしかも優秀とあれば特に異論はなく、むしろ諸手を上げて喜んだという。


息子の判断で唯一、夫妻が怒りを露わにしたのは『三年の猶予と保護』という名目の『白い結婚』である。


「全く情けないったらないわ!」


──というのがその際の夫人の弁。


怒りの矛先はアリシアではなく、レオン。

理由は息子の不甲斐なさである。

故に、返事は『1年で口説き落とせ』であった。


それもあってか、ふたりは既に白い結婚ではない。





──ただ、ウエディングドレスはやはり白。


レオンはアリシアの美しいドレス姿に、感極まったように喉を詰まらせた後、とても単純で素直な褒め言葉のみを口にした。


「シア……綺麗だ」


母やマチルダの叱責のお陰で、レオンも大分マシになった。

今も、真っ白なウエディングドレスに身を包むアリシアに頬を乙女のように初々しく染めながらも、目を逸らすことなく素直に褒められるまでに成長を遂げるに至る。


叶わないはずだった初恋と、同時に好敵手でもあった相手に対する諸々の憤りから、大分拗らせてしまったレオン。

彼はそれまでの言動による癖もあり、裏では動けても、なかなか目の前のアリシアに素直になれずにいたのだ。


まあアリシア本人にしてみれば、一度理解してしまえばそんなモノただのツンデレでしかなかったし、上手く切り返せば表情と態度があからさまに崩れるので誤解の生まれようもないどころか、特有の愛情表現でしかなかったけれど。


とはいえ素直な称賛だって、やはり嬉しい。


「貴方もとても素敵だわ」


はにかみながら、アリシアもそう返す。



式が三年後になったのには、ふたりが話し合いの末に大神殿での挙式を望んだことや、アリシアがまだ社交界デビューを果たしていなかったことなどから。


デビュタントの白いドレスは、センスのいい侯爵夫人が張り切って用意してくれた品で。

殆どが自分よりも少し歳下の中、気後れすることなくアリシアは社交界デビューを果たすことができた。


初々しさでこそ他のデビュタントに比べ多少劣っていたとしても、継嗣である自負から学びに余念がなかったアリシアの所作は美しく、態度も堂々とした優雅なもの。

また、緊張する他のデビュタントを気遣うなどの余裕と優しさを見せた彼女は、確かに目立ってはいたものの、それは概ねいい意味であった。

少しばかり妹セリーナの存在が気になったけれど、どうやら今年は見合わせたらしく、伯爵家の者達はその場にいなかった。


人生で2回目の白いドレスを纏った、この特別な日もまた。


ただ、いないのはハートウェル伯爵家の者達だけではない。

荘厳な大神殿での式だが、結婚してから三年ということもあり人を呼んでいないのだ。

それでも結婚から1年後、任期を勤め上げたレオンが聖騎士を辞め、アリシアと共に必要な人脈作りに努めたので特に困ることもなかった。


この式は、記念のようなモノで。

挙式だけで特にパーティーも開くワケではない。ふたりの……どちらかというとレオンの我儘のような式だ。


『必要に応じて、別になにか催せばいい』とは言われたものの、侯爵夫妻も特に反対はしなかった。



珍しく緊張した様子の義父にエスコートされ、バージンロードを歩く。

浮ついたような高揚感はあれど、この場の主人公であるはずのアリシアはあまり緊張しておらず『レオンは義母似と思っていたが、こうして見ると案外と義父にも似ているな』とどうでもいいことを考え、フト家族だった人達のことが頭に過ぎった。



──あの後から今まで。


ハートウェル伯爵家に対し、アリシアは特になにもしていない。

レオンはクロードが来た際に苦情を入れたが、それだけだ……と、思う。多分。


とりあえずアリシアの知る範囲ではなにもしてないし、それを望まないことは伝えてある。

領民に罪はなく、自分も今までしてきたことを無駄にしたくない──そう言えばわかって貰えたので、おそらくレオンもなにもしていないだろう。


何度かセリーナから泣きつくような手紙が届いたが、返信はしなかった。

書いてはみたが、煽るだけのような気がして途中で破棄してしまったから。


両親である伯爵夫妻からは、今も時折手紙だけが届く。

察してほしいのかどうとでも取れる内容で、真意を探るのが嫌でいつも深く読むことなく仕舞っている。やはり返事は書いていない。


ただあれほど頻繁にパーティーや夜会に出掛けていた夫妻とアリシアが社交界で出会うことは滅多になく、極稀に顔を合わせても近付いてはこなかった。


更に意外なことに、あれからクロードは一度も接触してこなかった。



彼等のことを考える時、アリシアの胸は今も痛む。それがどういう感情なのか、自分でもよくわからないまま。



「「アリシア」」


エスコートを交代する義父とレオンがアリシアに小さく声を掛ける。

ベール越しに見たふたりの顔は、やはり似ているように思えた。


それはなにも不思議なことではない。

血が繋がっているのだから。


──本来は隣にいたはずだった父である男性とアリシアも、また。


ただ今はそれを思い出して胸が痛むよりも先に、アリシアの胸はじんわりと柔らかな幸福を感じている。


義父に小さく会釈し、少し離れた場所で涙が止まらない様子の義母に微笑み掛けた後、レオンの手を取った。



侯爵家に来てからというものの、あまりに幸せで。アリシアは時折不安から『全てが夢では』と、起きるのが怖くて眠れないことがある。


レオンが強く望んだこの式だが、きっとこれも自分のためなのでは──そうアリシアは思う。



ベールで少し霞んだ先。

緊張からか真面目な顔のレオンが、ゆっくりとアリシアの視界を開くようにそっとベールを上げる。


瞼を開けた瞬間に、この結婚が仮初でないことを祈りながら、アリシアは瞼を閉じた。



ご高覧ありがとうございました!


この後クロード視点番外編を一話追加予定ですが、本編はここで完結です。

火曜更新予定になります。(実はまだ書いてない)


妹の名前を間違えてたので直しました……

相変わらず名前を忘れがちですみません……


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― 新着の感想 ―
レオンが大分マシになったに笑いました。 この結婚の立役者は、マチルダかもしれませんね。よかった、よかった。 ぬとぬとしていそうなクロード編にいきたいと思います!
いえーい、ハッピーエンド! ツンデレレオン頑張った! 面白かったです!
本編一気読みしました! アリシアとレオンの結婚、まさかこんな真実があったなんて驚きです! 面白かったです!
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