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アリシアの仮初の結婚  作者: 砂臥 環
番外編

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12/19

クロードの仮初の婚約③


いつの間にか出て行ったアリシアが戻らず、最も焦ったのはやはりクロードだった。


御者の話から急ぎ大神殿に行くも、神官は『いらっしゃいましたが、だいぶ前にお帰りに』との一言のみ。


この国の信仰する宗教の教義に於いて、自死は大罪である。

たとえ貴族であれ……むしろ貴族だからこそ、神に仕える身の神官がわざわざその可能性がある女性を、問題の場所まで戻すような真似などしない。

この時点で神官はアリシアの行方を把握してはいなかったが、レオンを信頼していた。なにしろこういう時のための権力こそ、矜持高い高位貴族子息が聖騎士を務める理由のひとつなのだから。


「金になりそうな物は持っていなかったようだ。 おそらく遠くへは……周辺を探し、聞き込みを!」

「わ、わかった」


オロオロするだけの伯爵に捜索指示を出させ、クロードは自らもアリシアの行きそうな場所を必死で探した。


(……クソッ、そんなにショックだったなら何故抵抗しなかった(・・・・・・・・・)んだ!)


クロードの知る今までのアリシアは、いつも彼を立ててはくれたものの、自分の意見はきちんと伝えることのできる女性だった。

なのにこれではまるで、察してもらうことを望む子供の家出のようではないか。


本気で心配してはいるからこそ、クロードはこのような愚かな選択をしたアリシアに、酷く苛立った。

東奔西走するも、既に保護されている彼女が見つかることはなく──


代わりに伯爵邸へ手紙と書類の控えが届いたのは、日付が変わる少し前のこと。




娘は怪我をしたが『責任を取る』と言った先が侯爵家であったことに、喜びを隠しきれない父。

娘の嫁ぎ先が自分より格上であることに納得できないことを、持ち前の演技力で誤魔化し『不幸だ』と位置づける母。

最も姉を追い込んでおきながら、さも家族想いの妹気取りでぬけぬけと『心配だから家に戻そう』と他人任せの提案をする妹。


茶番のような家族ドラマが繰り広げられる中、それを冷めた目で見ながらクロードはこれからどうすべきかを考えていた。


(よりによって奴とは……)


レオン・グランシール。

彼は今までのクロードにとって、いつまでも取るに足らない、子供のような男だった。


最初から失礼な態度を取ってきたまだ少年のレオンの気持ちを、ふたつ歳上のクロードはすぐに察した。

代わりに謝るアリシアに悟られないよう、やんわりと彼を遠ざけるように誘導するのは難しくなかったけれど、侯爵家嫡男で美丈夫に成長していくアリシアの幼馴染みに、ずっと警戒はしていた。


しかしそんな心配に反し、他の女性には紳士だというのに、彼女への好意を皮肉や嫌味でぶつける様はまるで子供で。

対外的に好ましいモノではない態度しか取れない彼は、滑稽ですらあった。


──アリシアとレオンが繋がっている様子はなかった。

聖騎士というレオンの立場とアリシアの行動を考えれば、自ずと答えは出る。

クロードにしてみればそれは不幸な偶然で。

こうなるともう、望みはないに等しい。

失策となった保身から道を残しておいたことが最早、救いになるくらい。


だが──


(できることはする)


このまま諦めるには、アリシアはあまりにも得難い女性だった。





「怪我の状態は私達にもよくわからないのです。 ただ、若奥様は臥せっていることが多く、お部屋からお出になりませんのであまりご容態はよろしくないのでは、と」

「そうですか……」


侯爵家のメイド達は予想以上に口が軽く、簡単に情報は手に入った。


クロードがアリシアを愛しており、彼女を最も評価している人間であることは事実である。

ただし彼の価値観もまた、アリシアとは異なっているだけで。


クロードにしてみれば、怪我だけでなく既成事実すらあったって構わない。ただ妊娠していては困るし、できればどちらもないに越したことはないというだけのこと。


たとえ歪だろうがなんだろうが、伯爵夫妻には娘への愛情がある。彼等の納得する(・・・・・・・)娘の幸せのため、今はむしろ、アリシアに瑕疵はあった方がいい(・・・・・・・)

それでも白い結婚なのは僥倖だった。


レオンがどうあれ、アリシアが流されただけならまだチャンスはある。





ようやく会うことが叶い、すげなくされて『記憶喪失』と聞かされたクロードはひとり呟く。


「厄介なことになったな……」


実はこの言葉が、彼の知らない彼自身を物語っている。

まだクロードはアリシアを諦めることができず、どうにかしようと思っていた。


──クロードはどこかで信じていたのだ。

アリシアが自分を裏切ることはない、と。


仮にそうだとしても、少し冷静に考えればアリシアを取り戻すことはあまりにも難しく、また非合理的な判断でしかない。

外面という仮面を取り払った、彼自身が認識する『クロード・ヴェルナー』は、そんな感情的で無能な男ではない筈なのに。


それでも、それには気付かないフリをした。


「ヴェルナー、それは貴殿の幻想のアリシアだ」


再びアリシアに接触しようとしてレオン・グランシールに呼び出され、そう聞かされるまで。


ご高覧ありがとうございます!


描かれていることをクロード視点でなぞる部分が、長くなってしまって申し訳ないです。

ようやく次話、本編で触れていない部分の話になります。


な、長かった……_:(´ཫ`」 ∠):_


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― 新着の感想 ―
「アリシアが自分を裏切ることはない」ってどの口でー?笑
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