家族会議
孤独なオンライン授業のコロナ禍も過去のこととなり、順調に単位を取得し卒業は確実。
誰しも大珂がいよいよ坂越に帰ってくる、結婚式の準備も考えないとと浮かれきっていた折。
「話がある」
と帰省中の当の本人が両家を招集したので、皆ウキウキで集まった。
そこへ、神妙な顔つきの大珂と美久が横並びに座り、話を切り出した。
「今日集まっていただいたのはお願いがあって…、おとん、おかん、オレを大学院まで行かせてください!」
「はっ?」
これには大人たちが絶句。
「あと2年!やってみたい研究があるんだ。これをきわめたら、必ず坂越の牡蠣養殖や今後の水産業の役に立つんで!どうかお願いしますっ」
深々と、頭を下げる。
「はっ?何言って…4年で帰ってくる言うたやないか!それに美久ちゃんどないするんやっ。4年も待たせてこれ以上無理さすんか??」
「おじさん、いやお義父さん。私のことはいいんです」
「いやしかし…(お義父さんと呼ばれうれしそう)」
「私は、何年経っても待てます。この気持ちはずっと変わらないから。大珂との未来を信じています」
ここまで来ると、娘が言い出したらきかないことを知っている高田家は、もうあきらめているようだ。
「そりゃあ、美久ちゃんがいいならしょうがないけども…」
義娘に甘い若松父は、高校時代のように意地張ってしゃべらなくなったり、出ていくようなまねはしなかった。
「必ず2年後には坂越に帰って、挙式する。だから、そのプランを両家に伝えておきます」
パンフレットを提示すると、皆驚きの声をあげた。
「大珂くん、ほんまにこれやってくれるの」
美久母、感動。
「美久がこれをしたいって。オレは、美久の喜ぶ顔がみたいから」
2026年、正月。午年
有言実行、約束通り大学院2年通い修士号修了予定。
3月には東京の住まいを引きはらい、大珂は坂越に帰り若松水産の正式な跡取りとして、修行を始める。
4月には挙式し、幼なじみふたりは晴れて夫婦となる。
初詣に、大珂と美久は岡山県浅口市寄島の大浦神社へ出かけた。
ここは古式ゆかしい競馬神事が行なわれる神社で、勝運のご利益があるとされる。午年にピッタリの神社だ。
倉敷の先、里庄駅からはタクシー。
地元の浅口交通の黄色いタクシーには『幸運号』と記されており、乗るだけでなんだか幸せになれそう。
「ここ寄島あたりは牡蠣の名産地で、海沿いは牡蠣小屋や直売所が多いんですよ」
運転手が言うように、道路沿いには牡蠣と書かれたのぼり旗がたなびいている。
「これは…坂越も負けておれん」
ライバル心に火がついたようだ。
馬に縁のある神社ゆえ、今年は特に参拝客で賑わっていた。
巫女経験もある美久は神社好きなので、この本殿が素晴らしいとか歴史がすごいとか、由緒書を読んで感激している。
九頭の馬でうまくいく、とか
落ち葉で作ったハートと馬とか、
境内は見所が満載。
お守りにはかわいい水引がついたものや金色の勝守りとか、目を引くものが多い。
「これお願いします」
美久は水引と馬のアクセサリー的なお守りを、色違いで青とオレンジで買った。
「はい、これ。大珂はやっぱり青が似合うから」
「おっ、ありがとう」
「お揃いのお守り♪うれしいなぁ。この神社来てみたかったから」
ここも、瀬戸内の爽やかな風が吹いている。
神社特有の清浄な空気が、心機一転気持ちを新たにしてくれる。
おみくじを引いてみた。
「やった、大吉。えーっと、待ち人来たる、だって。来てるきてる神様すごい、なんでもお見通し〜」
美久がうれしそうにころころ笑う。
あぁ、この笑顔だ。
オレの好きな美久の笑顔。
ずっと守りたいもの。
「大珂は?」
「中吉。縁談、すすめて良しって」
「よかった、神様に止められなくてw」
「なぁ、美久」
「何?」
「幸せに、なろうな。あの風待ちの港町で」
ギュッ
かたくつないだ手に力が入る。
「…うん。私達が生まれ育った坂越で、海も山も、美しい自然と文化を守りながら暮らしていきたい。せとうちの海のように、穏やかに」
そしていつか子どもが生まれたら、私達の過ごしてきた時間の出来事を、話してあげたい。
お父さんとお母さんは家も近所の幼なじみで、まだ言葉も話せない時からずっと一緒で。
家族みたいに育って、思春期になったらギクシャクしちゃったり、お父さんは遠い東京に行っちゃったりしたこともあったけど、順風満帆じゃなく嵐を乗り越えたからこそ、絆が深まったんだよって。
「あ、その顔。またなんか良からぬこと考えてるやろ」
「ううん、別に」
クスクス
想像すると笑けてくる。
「ねぇ大珂」
「ん?」
「…子ども、好き?」
「えっ、まぁ弟の面倒もみてたし」
「よかった。私3人くらいほしいなぁ。こういう人生設計も今のうちにはっきりしといたほうがね。ほらよくドラマとかでもあるじゃない?価値観とか考え方のズレとか、子ども望む望まないとか夫婦のかたちも多様化してるから」
純情青年はリアルな話にちょっと照れているが、女は現実的に強し。
「若松家家族会議でした。私ももうすぐ若松美久になるんよね、ふふっ。新しい印鑑作らなきゃ」
幸せいっぱいの初詣。
大珂は思った。
オレはきっと一生、美久に頭あがんないかも。
惚れた弱みと、泣かせたお詫びにで。




