風待ち港
大珂と美久、ふたり牛窓のホテルリマーニから坂越に帰宅すると、双方の家族が揃って大喜びで迎えた。
歓喜する家族に、ふたりは告げた。
「私達、結婚します」
「あ、大珂が大学卒業してからやけど…」
夕刻、目が覚めて。
つられて側でうたた寝している美久をみて、大珂は愛おしい気持ちが溢れてきて。
彼女が目覚めた後、日本夕日百選にも選ばれている牛窓のサンセットを背後に、告げた。
「結婚してください。美久無しで、オレの幸せはないって、わかった」
「……!はい…っ」
その夜。
美しい星空を眺めながら、肩を抱きながら語り合った。
「卒業まで何年も待たせてまうけど、ごめん」
「そんなんいいよ。言ったでしょ?私は風待ち港で、待ってるって」
「そう言うておらんかったやん…」
「あれはたまたまや」
笑いながら話す。
「これからずっと、何があっても大珂のことを信じてる。もう迷わないって、決めたから。どこにいても、大珂のこと想ってる」
「オレも…」
真っ暗な部屋で。
瞳を閉じて、キスをして。
今宵、永遠を誓う。
「やったー!こんなめでたいことはないっ。今夜は祝杯あげるぞー!」
突然の申し出だが、反対する者は誰もいない。
日本酒一升瓶が、あっという間に空になった。
婚約を告げると、弓道部の仲間たちも皆喜んでくれた。
コロナ禍ゆえ全員で集まることはしなかったが、結婚式でまた会おうという話になった。
「その頃には、コロナも落ち着いてるといいね」
夏休み中、大珂はずっと父親について家業を手伝っていた。
「味覚障害には亜鉛がええんやないか?しっかり牡蠣食べとけよ」
毎日食事には絶品の牡蠣。
「やっぱり、うちの牡蠣は最高にうまいわ」
一時グレていた少年は、素直になった。
「…当たり前や。お前が東京で学んできたこと活かして、さらに進化させろよ」
美久は大珂の帰省中は既に若松家に入り浸り、娘ができたと男三人兄弟のこの家ですっかり溺愛されている。
数年後。
コロナも落ち着き再び弓道部の同級生仲間達、地元で集まった。
まゆみと智之の関係も良好。こちらは結婚話はまだないようだが。
おたがい専門学校を卒業し、仕事が楽しい時期らしい。
皆少しづつ変わった。
環境もだし、見た目も。
制服や道着を着ていたあの頃と違い、既に就職している智之やノリはネクタイ締めたスーツ姿。
女子たちはメイクもするようになり、大人っぽくなった。爪にはネイルも光り、耳にはピアス。
まゆみは家の料理屋を継ぎ、ある程度自由がきくので髪色も明るく、華やかだ。
洋子もカメラマンとして就職し、動きやすい服装ながら上品なスタイルがよく似合っている。
「学生の大珂はなんか若々しくてええなぁ」
社会人組からはそんな野次が。
カジュアルなスタイル、やっぱりデニムの青がよく似合う。
美久はみかん畑で作業している時は完全に紫外線対策をしているので、白い美肌をキープしている。
「私畑で会ったら多分誰もわからないと思う。日除けのサングラスもして覆面してるからw」
「けどいいね、やっぱり。高校ん時の仲間でこうやって今でも集まれるの」
洋子の言葉に、皆しみじみうなずく。
「酒も飲めるようになったしな」
瀬戸内レモンのチューハイで、乾杯。
少しづつ、人は大人になっていく。
高校生の時間は、おそらく長い人生の中の、
わずか3年間。
子どもから大人になるまでのその間に、
悩み、苦しみ、喜び、恋し、
成長していくのかもしれない。
多感な青春時代。
その貴重な時間をここ瀬戸内の潮風を感じながら過ごした日々。
何年たっても色褪せることなく、それぞれの心の中で輝き、息づいている。
そして風待ちの小さな港町、坂越で生まれ育った幼なじみのふたりは、新しい船出を目指し、風を待つのだった。




