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風待ち港で、君を待つ  作者: 風間 絆
第5章 これからのふたり

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36/39

記念日

「えっ…?うそっ…」


こんな映画みたいなこと

ドラマみたいなこと

あるわけない。


「………」


ホテルのエントランスから入ってきたのは、背の高い青年。

大珂だった。


「…美久…、やっと会えた…」

3月、坂越で別れてから初めての再会。

コロナに感染したせいかひとり暮らしの不摂生か、随分痩せた。

白いTシャツ、細身のデニム、ネイビーのシャツを羽織って、立っていた。


「大珂…!」

人気のないロビー。

ふたりはかけ寄って、抱き合った。

「ソーシャルディスタンス…」

「そんなの関係ない」


ギュッ


夢じゃない。

ちゃんと感じる、温もりと骨格。

結構筋肉質なんだよね。

弓を引いていた腕、たくましかった。


「なんでなんで、大珂がここにいるの?」

「デジタルデトックスとかいうんもうやめて。ちゃんと連絡みろ」

「あー…大珂の通知オフってたから」

「とりあえずゆっくり話したい。積もる話があるから。美久まだ坂越帰らんでええやろ?もう1泊延長」

「ええっ、そんな、勝手に決めんとって…」

「嫌なん?」

薄い茶色の瞳で見つめられると、もう断れない。

「嫌なわけない…」


フロントでもう1泊延長と追加もう1人可能か尋ねると、コロナ禍で客も少ないため快く引き受けてくれた。


部屋に入り、冷たい飲み物を用意し、ソファに座る。

「いい部屋やな」

「オーシャンビューが最高なの」

窓を開けると、爽やかな風が室内に吹き込む。

「えっと、何から話そう。まずは大珂がなんでここに?」

「コロナなって、重症化して入院しとったんや」

「えっ、そんなにひどかったん??」

「せやから全然連絡できひんくって、その間美久からも連絡ないからタイミングに悩んで悩んで…もうこうなったらサプライズで坂越帰ろうと思って。戻って速攻高田家行ったら愛媛のおばあちゃん家や言うから住所聞いて、翌日行ったらすれ違っちゃって。1泊泊めてもらっておばあちゃんから美久が次行くところのヒント聞いてここやろうと。友達と会ってからってことやったから前日別の場所にいたとしたらギリ間に合うと思って。で、まさかの電車遅延で足止めくらって、仕方なく岡山駅前のネカフェで仮眠とって、朝イチの電車で邑久駅まで移動してバス乗って、今。チェックアウトする前に間に合ってよかった…」

「お、おつかれさま」

もうそれしか言えない。

「そもそも、なんでオレからのメッセージ見ようとせえへんの?電話もつながらんし…」

「理由は、2つです」

顔の前でVマークを作り、答える。

「ひとつは願掛け。大珂が早く元気になって、会えますようにと祈りをこめて、大事なことを断つことで祈ってた。もうひとつは…想いが溢れて止まらなくなって、それをぶつけてしまいそうやったから。さみしい悲しい会いたい大好き、でもそんなんしたらまたうっとうしいって思われたら嫌やから、我慢してた。あれは私の中で結構トラウマレベルの言葉やって…だからあえて、連絡控えてた。大珂が東京行ってても平気やから、大丈夫やからって。安心して勉強に専念してほしくって」


ギュッ


「ごめん、あれは本心やない。あん時、なんであんなこと言うてもうたんやろ…自分が情けない」

抱きしめて、気持ちを伝える。

「ううん、私は知らん間に大珂に負担かけとったと思う。彼女になってからは尚更あまえてばかりで…。好きだから一緒にいたいは、自分の気持ちの押しつけでしかなかった」


あの時の気持ちのすれ違いは、決して無駄ではなかった。


「もしあの時大珂が私が東京くっついて行くこと認めてくれたとしても、きっとうまく行かなかったよ。何の目的もないまま上京し、ただ好きだからで一緒にいても…」

「オレコロナなって苦しくて心細かった時、美久からと荷物の中に詰まってた坂越の空気や香り、美久の手紙がすごいうれしくてうれしくて…オレあんなひどい態度とって冷たく突き放したのに、なんでこんなに優しくしてもらえるなんて…」

「当たり前やん。大珂も私が熱中症で倒れた時、ものすごい心配してすぐ病院きてくれて、手握って寄り添ってくれた。その時の恩返しよ」


おたがい泣いて、流した涙が今までのわだかまりを心の中から消していくようで。


「あぁ…今人生で一番幸せ。生きててよかった…」

泣き疲れたのか安堵したのか体力が落ちてるのか、大珂はそのまま爆睡してしまった。


「ふふっ…大移動やったね。東京から坂越、八幡浜、岡山経由で牛窓。大冒険やん」


美久は、願掛けで閉ざしていた大珂からのメッセージを確認する。

通知何十件。


『今どこ??』

『電話出て頼む』

『会いたい』

『話したい』


「言葉、短っ」

単語に込められた必死の想い。



ねぇ、大珂


今日は記念日だね


ふたりの気持ちが重なった日。


一度は心すれ違い


住む場所も離れ


確かに、私坂越で待ってる言うたけど


ほんとたまたま留守やって。


でもまさか


愛媛にも岡山にも追いかけてきてくれるとは思わなかった。


瀬戸内海ぐるりまわってるね


私たちの背中を押してくれる


いい風がずっと吹いていたんだ


そう思えば、辛かったこと悲しかったことも


ギスギスしてた時期も


今日という日のためにすべて意味があったんやね。



一生忘れない


この場所で、大珂と再会できたこと。







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