直島の夜からホテルリマーニ
日本のエーゲ海と呼ばれている、岡山県瀬戸内市牛窓エリア。
まるでギリシャのような白い建造物や、澄み渡るどこまでも青い海と空。
その美しさはきっと、誰をも魅了する。
美久も、その中のひとりだった。
初めてネットマップのおすすめスポットとして出てきた写真をみて、一瞬で心奪われた。
「大好きな人と、いつかここに行きたい」
その時隣にいた彼のことを想い、心に誓った。
そこで紹介されていたのが、このホテルリマーニ。
昨日は八幡浜を出て松山経由岡山方面、瀬戸大橋を渡り児島から茶屋町駅で宇部みなと線、宇部港へ。そこからフェリーに乗りアートの島、直島に到着。
夜は島内の一棹貸しコテージOHANAで、旧友たちと女子会。
まゆみは神戸の調理専門学校、洋子は大阪の写真専門学校の学生。春からひとり暮らしをしているが、夏休みなので坂越に帰省中。
美久が愛媛に行っているのを知り、帰り岡山を通る日に合わせ、
「みんなで直島遊びに行こーか」と。
「夏休みの課題でさ、自分が行ったアートスポットのレポート書かなあかんねん。それもあるし、やっぱおもしろそうやから行ってみたくて」
洋子の提案に、皆賛成。あっという間に話がまとまり、女子会決定。
手配しておいた食材で海鮮バーベキュー。
火起こしは不慣れな人間にはなかなか難しい。
「そういえば1年の時の弓道部3年送別会のバーベキュー!火起こしはうまかったのにねずみ花火でボヤってあほやん!」
「いっつも大珂くんが場を盛り上げてくれて…って今どうなん?美久ちゃん」
親友ふたりは、ずっと幼なじみカップルのことを気にかけ、見守っていた。
だからこそ、美久が部活もやめふたりがよそよそしくなっていくことに、胸を痛めていた。
「東京でコロナなって大変やったらしいよ」
「えっ、やばっ」
坂越の海で見送ってから約4ケ月。こんなに会わずに離れているのは、人生で初めてのこと。
今までは疎遠ではいても、窓から向かいの窓の明かりもみえたし、近所ゆえ顔をみることくらいあった。
「連絡とかしてるん?」
ううん
静かに首を降る。
「コロナなったって聞いて、ひとりで困るやろしって食品とか送った時お礼のメールが来て…それくらいかな」
「美久ちゃんから連絡せえへんの?」
「…想いがこみ上げちゃいそうで。それに、信じて待つことにしたから。また会えるのを。今度は、高校生の時とは違う気持ちで」
不安で、やりきれなくて、側にいるのに気持ちがすれ違って。
あの頃とは違う私で、会いたい。
ただしがみついて、重しになる自分じゃなくて。
広い海原を渡ってきて、帰ってきた時笑顔で受け止めれる私でいたい。
バーベキューの火が消えた後の夜空は、星がたくさん瞬いていた。
晴れ渡る空を眺めるたびに、オレは晴れ男やから、なんて得意気に話していた大珂の姿が思い出される。
岡山から在来線に乗り換え、美久はひとり邑久駅で下車。
「ちょっと思い出に浸ってくるね」
思えばこんなふうに、長い時間ひとりで過ごすことはなかった。
いつもまわりには家族や友達がいて、大珂がいて。
ひとりになることで、自分の心の深いところを、見つめることができる。
子どもの頃から一緒にいた大珂の存在。
面倒見もいいし、ついあまえて頼んだりやってもらうことが多かった。
あまえるのは末っ子の特権、なんて気楽に考えていたけど…
小さい頃は、なんでも一緒、どこでも一緒
それで特に問題はなかったが、大人になるとそうはいかない。
いずれ、自分のことは自分でやり、進むべき道くらい自分で決めれるようにならないと、誰かに委ねていたら相手に負担を強いることになる。
それは己の人生の責任逃れをしていることに他ならない。
依存の弊害は、いつかその関係が崩れることだ。
寄りかかられているほうが、必ず潰れる。
潰れるか、逃げ出すかのどちらか。
そのことを教えてくれたのはよかったけど…
「言い方は他にあったんちゃうかな」
しかしあれ以上厄介なこと、泣きながら行かないでとしがみつくか、本気で家を捨て勝手に東京までついて行くとかしなくてよかった。
そんなことしたらおそらく完全にシャットアウトされ、修復不可能だっただろう。
踏みとどまれたのは、あそこであえて強く言ってもらえたこと。その点では、感謝しかない。
ひとりで旅をすると、日常を離れると、そんなふうに頭が冴え、霧が晴れたように思考がクリアになる。
予約をすると、邑久駅からホテルまでの送迎がある。
夕方、駅から海のほうへ。
いつか大珂と行きたい。
だから、今回は下見ね。
今夜はゆっくり泊まろう




