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風待ち港で、君を待つ  作者: 風間 絆
第4章 離れ離れ

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追いかけて愛媛

坂越に帰省して翌日。


いてもたってもいられない大珂は美久母に愛媛の祖母宅の住所を聞いておき、早朝出発した。

再び相生で岡山行き新幹線に乗り換え、特急しおかぜで松山まで行き、そこから特急宇和海に乗り換え愛媛県八幡浜市まで。

ここは良質なみかんの産地で、北側は瀬戸内海に面している。


「あの子デジタルデトックスとか言って最近スマホあんまり見いひんからねぇ、なかなか連絡つかへんのよ。若いのに珍しい子やわ」

「いいよ、おばさん。こうなったらとことんサプライズしたいから」


ずっとここで、私は風待ち港坂越で、大珂が戻るのを待ってる。


そう言うたくせに、おらん。


あげく愛媛やと?八幡浜やと?

おばあちゃん家のみかん畑に行ってるなんて…

そりゃ、みかん農家の仕事にそない真剣に向き合ってるのはえらいんやけど…


何なんやろな、この逃げると追われ追うと逃げられる謎現象とジレンマ。


マスクを着用しソーシャルディスタンスを保ち、閑散とした岡山駅を乗り継ぐ。



遠征行った時や鷲羽山ハイランド行った時はあんなに賑わってたのに…


楽しかった高校時代の記憶がよみがえる。

ずっとあのままでいられたらよかったのに。

人は、風向きのように変わっていくものだから。



瀬戸大橋を渡り四国へ。瀬戸内海の南側をぐるり。

昼には八幡浜へついた。

駅の天井に大漁旗が飾られた八幡浜駅。

バスの本数が少ないので、タクシーを使う。

今は少しでも早く、美久に会いたい。


コロナ禍ということもあり、外出を控えているのかすれ違う車もまばら。

バスが1台通ったくらいだ。


美久祖母のみかん畑は、山を少し上がったところだった。

話には聞いたことがあったが、訪問するのは初めてだ。



ドキドキドキ…


やっと、やっと美久に会える…



ピンポーン…



「ごめんくださーい」


「はーい」


お年寄りの声がした。美久のおばあちゃんか。

出てきた人は美久母とよく似た感じの、優しそうなおばあちゃん(といってもそんなにお年じゃない)

足首に包帯を巻いている。


「あ、あの。オレ坂越の牡蠣漁師の息子の若松大珂と言います!美久さんとは幼なじみで…」

「まぁ!あの若松さんとこの大珂くんか!大きうなったねぇ。美久が生まれたあと、うちも坂越行って子守手伝うてたんよ。大珂くんのほうが2か月くらいあとやねんね?生まれたの」

「そうです、はい」

「ふたりともそれはもうかわいくてねぇ、なんだかよう似とって同じ星の元に生まれたなんか運命みたいなんを感じたんよ」

美久母と似てとめどなくしゃべるタイプのようだ。

申し訳ないと思いつつ本題に入らせていただく。

「それで美久は畑に?ちょっと事情があってすぐにでも会いたいんですが…」

「それがねぇ、お昼のバスで行ってもうて」

「えっ?」

「その後坂越の娘から電話があって、多分美久の幼なじみの大珂くんがそっち行くと思うからよろしく言うとったんやけどねぇ。入れ違いになってもうたねぇ」

「そんな…」

急いで美久に電話してみても、つながらず。


ほんまにデジタルデトックスとやらやってんのか??

せめてメッセージくらい気づけや


どよーん…


わかりやすく落ちこむ。



せっかくここまで来たのに…


すれ違うなんて…


「あっ!?」


もしかしたらさっきすれ違ったバス。

あれに乗っとんたんか??



運命のいじわる

風は気まぐれ、まだ良い風向きは来そうにない。



グウ



こんな時なのに腹が空くなんて

いくら朝から何も食べてなかったからって…


「フフッ、焦ってもしゃあないけん。美久なら坂越帰る前にどこぞへ寄り道する言うとったわ」

「ほんまに!? どこっ?」

「それを今から思い出すけん、お昼食べて行きなはれ」

そう言うと、美久祖母は台所へ向かった。

「…おじゃまします」


ダイニングキッチンの向こう側には和室があり、立派な仏壇があるのがみえた。

写真はこの家のおじいさんだろうか、穏やかにほほえんでいる。

そこに、小さなおにぎりをお供えする。

「今日は削りかまぼこ混ぜたおにぎり作ったんよ。おじいさん、これが好きでねぇ。美久にも持たせたんよ」

削りかまぼこは、八幡浜の特産品。

薄くスライスしたかまぼこの乾物で、お祝いごとのときなどよく使ったらしい。

赤と白があり、紅白でめでたい逸品。普通にスーパーなどでも売られている。


「いただきます」

おにぎりとお漬物。焼いて生姜醤油をつけたじゃこ天。

コロナの後遺症で味覚が鈍くなっていたが、これはおいしい。ちゃんと味がわかる。

塩と米が、生きている。

「育ち盛りの男の子には粗食過ぎて物足らんかもしれんね」

「そんなことないです。めちゃめちゃおいしい」


東京でのひとり暮らし、男の自炊なんてほんと雑で安くて腹いっぱいになったらいいっていうくらいの考えだったから。

良い素材で丁寧に作られた食事というのは、からだ喜ぶだけでなく心にも染みる。


美久の作る料理もそんな感じやった

そうかそれは、おばあちゃんから伝わってるものなんやな

祖母から娘へ、そして孫へ

受け継がれる味と想い


普段はひとりゆえ、人と話せるのがうれしいのだろう。美久祖母はにこにことおおいに話す。

コロナ禍でその気持ちは痛いほど味わったので、存分につきあう。

「まるで孫がもうひとり増えたみたいやわ」

気がつけばコーヒーとおやつまで出てきて、調べるともう今夜中に坂越に帰るのは絶望的なようだ。

どちらにしても、美久の寄り道の場所を思い出してもらわなければ、また風待ち港に彼女はいない状態。それは嫌だ。

「今夜は泊まっていき」

その申し出を快諾した。

つい朝方まで美久もいた空間。

それを体感したいのもあった。

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