多感な少女
今日が日曜日で、学校休みでほんとによかった。
美久は心からそう思った。
でないと、大珂とどんな顔して会えばいいのかわからなかったから。
泣き疲れて寝落ちし、夜中目が覚めて窓の外をみると、大珂の部屋の明かりは遅くまでついていた。
受験勉強してるのかな…
スマホを確認しても、あれから連絡はない。
こちらからも、何もメッセージを入れられずにいた。
このまま終わっちゃうのかな、私たち。
17年っていう長い時間も、こんな一瞬で崩れちゃうのかな
やりきれない気持ちで、母親が作っておいてくれた朝食にも手をつけず、外に出る。
ちょうど今の季節はみかんの最盛期。
農園ではみかん狩りも行っており、日曜日は来客も多く忙しいため、両親もあまり家にいない。
顔を合わせなくてよかった。
こんな落ちこんでるところみられたくない。
「ひどい顔…」
鏡をみると、泣きすぎて腫れたまぶたに、ボサボサの髪。
今は、誰にも会いたくない
大珂にも…
きっと向こうもそう思ってるんだろうな
うっとうしい
という言葉が、痛かった。
髪を切りにいくと前髪を揃える時
「ちょっとうっとうしいと思うけどちょっと我慢しててねー」
なんて言われたりするが、なんだか自分の身体の一部なのにすごく邪魔者扱いされているようで、正直嫌だった。
そんな小さなことも気になるくらい、感受性の高い子どもで。
「そうか…私子どもなんだわ」
大珂みたいに真剣に先のこととか考えてなくて、好きだから仲良しだからずっと一緒ね、っていう子どもじみた考え方で。
おたがい同じ方向を向いていたと思っていたけど、大珂はいつしか違う所をみていたんだね。
まるで北前船の船乗りが、この先の航海を見据えて風向きも航路もみているかのように。
気付いたら、ふたりが通った坂越幼稚園へ来ていた。
「あの頃はよかったな…」
何も考えず、ただ毎日スクスクと成長し。
難しいこと抜きで、泥だらけになって遊んで。
みくちゃんみくちゃん、たいがくんって
一緒に居るのが当たり前だった。
おやつをわけわけして、転んだり迷ったりすると、すぐに大珂が手を差し出してくれた。
なつかしい場所を彷徨い歩く。
坂越小学校。
大珂は4年生くらいからグングン背が伸びて。
ランドセル背負って、手をつないで並んで登下校した。
私は末っ子のあまちゃんで、小さい頃からまわりの大人がなんでもしてくれたから、その流れで大珂にも甘えっぱなしだった。
大珂は弟もいるし面倒見がいいから、自然に手助けをしてくれて、サポートしてくれて。
私確かに、甘えすぎてたかもしれない。
大珂の後をくっついて、しらないうちに負担かけていたのかも。
大珂はいつも飄々として余裕があって、だから…あんなふうに感情を爆発させたことは、本当に今回が初めて。
それにあんなふうに自分の進路を真剣に考えてたなんて、夢にも思わなかった。
なんとなく高校卒業したらそのまま家業を継いで、そのままなんとなくこの町で暮らしていくのかと思ってた。
そこに、私もいれたらなって。
だから私、大珂ほどの強い思いで家業を継ぎたいと思ってたわけじゃなく、心の底では、大珂がここにいるなら私も、くらいにしか思っていなかったかも。
そのほうが勉強も受験もしなくていいし、楽なほうに流されたかったのかもしれない。
「そんな私じゃ…大珂と天と地ほどの差があるよ」
いつの間にか、大珂は大人になってた。
体格のことだけじゃなく、心がちゃんと、成長していた。
すぐ側にいたのに、私はそんなこと全く気づかずに、子どものままで。
「取り残されても…うっとうしいって言われても、仕方ないや」
今の私じゃ。
ふらふらと歩いて歩いて。
坂越中学校。
記憶を辿っても、明るいおちゃらけた姿しか出てこない。
中学の制服を着た時には、少し大人に近づいたと思った。
入学式、卒業式。
一緒に写真を撮った、幼なじみ。
こんな悲しい気持ちを味わうなら、あのままの関係のほうがよかったの?
恋人同士にならないほうが、うまくやっていけたのかな
葛藤がうずまく。
サワサワサワサワ…
かまいたちな風が、枯れた葉を舞い上げる。
いや、そんなことはない。
白鳥神社で、想いを告白しあったこと。
とうろん台の下で、キスをしたこと。
寒い冬の坂越浦遊歩道で、手をつないで歩いたこと。
ただの幼なじみなら、あんなことできなかった。
温かい、幸せな記憶。
私たちは、確かに想いあってた。
好きという気持ちが通いあってた。
「逃げてないで…ちゃんと話そう」
そして、自分がどうしたいのか、どう感じたのか
思いを伝えよう。
自分の意思で動かないと。
大珂に言われたからじゃなく、自分でそう決めたんだ。
美久は自宅に帰ると、スマホを手に取り大珂に連絡を入れた。
『昨日は、ごめん。もう一度ちゃんと話したいから、旧坂越浦会所に来て』




