真夏の鷲羽山ハイランド
人は、忘れていく生き物だ。
つきあい始めて半年が過ぎ、変な後輩が入ってきたこともあり少し大珂との心の距離を感じていた美久。
ところが熱中症で倒れた時、すぐに駆けつけ涙ながらに心配してくれる姿をみて、再び愛されている実感を得た。
が、しかし。
ほとぼりが覚めればまた、くっついて来る田原としょっちゅう一緒にいる。
本音ではまだ多少モヤモヤするも、心を坂越の海のように広く持ち、おおらかに見守ることとした。
「………」
その様子が、田原にはおもしろくないらしい。
まるで見せつけるかのように、若松先輩〜、と寄っていくのだった。
「何あれ」
さすがに他の部員たちも、おかしいと感じ始める。
そんなふたりを見かねて、智之が声をかけた。
「部活休みの日曜日、日帰りで鷲羽山ハイランドに遊びに行かね?言っとくけどオレら2年生限定な。あんまり人数多いとややこしいから」
相生から新幹線を使えば、片道2時間弱。
去年の東かがわ遠征合宿の際通りすがりにみて、みんなで行きたいねと行っていた岡山の遊園地。
「行く行くっ」
これには6人全員が賛成。
カップル二組はグループデートを目論んでいる。
これ幸いと相変わらず存在感の薄いノリは洋子と仲良くなるチャンスを伺っているようだが、カメラに夢中で写真を撮ることを楽しみにしている洋子は全く眼中になかった。
「いいか、大珂。絶対に田原に悟られんなよ。あいつに知られたら勝手に岡山までついて来そうで怖い」
2年生の教室棟には、さすがに田原もいない。
智之はこそっと耳打ちした。
「OK」
「それにしても、お前なんで田原にそないあまいんだよ。なんか弱みでも握られてんのか?」
「あー、いや、そんなわけやないけど、ちょっとな。人気者ってつらいよな〜、あははっ」
笑ってごまかしてる感が否めない。
やれやれ、親友はため息をつく。
「ま、たまにはみんなで楽しくはしゃごうぜ。来年3年になったらなかなかそんな機会もないやろしな」
高校時代の3年間なんて、きっとあっという間だ。
貴重なこの夏を大事に、大切な仲間と楽しい思い出を作りたい。
それぞれの胸にそんな想いがよぎる。
8月、夏休み最後の日曜日。
朝8時前、播州赤穂駅集合。晴天。
「今回もオレの晴れ男パワー炸裂だぜ!」
お祭り男大珂、参上。
彼女美久はバカバカしさにも慣れてきて、放置。
電車は定刻通りに出発、相生から新幹線に乗り換え、岡山で快速マリンライナーへ。
JR児島駅からバスに乗り換え、山道をクネクネし目的の遊園地へ。
「すごーい、絶景!」
参上にある鷲羽山ハイランドは、眼下に静かで美しい瀬戸内海を見下ろすことができる。
特に春は桜とのコラボが最高だ。
空中を走るようなスカイサイクリングや目がまわるコーヒーカップなど、絶叫してるとスッキリする。
鷲羽山ハイランドはブラジリアンパークの名を持つ。
本場のサンバは気分アゲアゲでノリノリ。セクシーな衣装に男子たちがメロメロになっているのにはあきれる女子たちだが、そのスタイルの良さに釘付け。
陽気なリズムと夏の暑さはまさにカーニバル。
最高の、夏休みの思い出となった。
「いい写真いっぱい撮れたから、またみんなに配るね〜♪」
洋子は上機嫌。
対象的に、全く相手にされなかったことに肩を落とすノリ。
ダブルカップルズもグループデートを存分に満喫したよう。
とにかく遊ぶことやおもしろいことに目がない面々なのだ。
帰りのおみやげコーナー。
大珂はたくさんお菓子を買っている、甘いもの好き。
きっと1年生にも、田原にも(内心呼び捨て)買ってかえってあげるんやろな。
いや、仲がいいのも後輩思いなんもいいけど、あいつの謎の宣戦布告なんやねん?
美久の心は複雑だった。
言葉は、時に魔力。
あの一瞬で、本当に大珂に邪険にされてるのかと思ってしまったほど。
その後熱中症で倒れた時心配してもらったくだりがなければ、田原の言うことを真に受けてしまっていたかもしれない。
その件のことはきっと田原はしらない。
だから、今でも私が疑心暗鬼になっていると思っているだろう。
残念ながら、私たちの16年間の絆はそう簡単には消えなかったのだよ。
ざまあみろ、と心の中で舌を出す。
この時はまだ、これから大きな試練の波がやって来ることを、想像だにしていない美久だった。
時に風は、船の出航を遅らす向かい風となる。




