疑心暗鬼
今年のインターハイ予選。
残念ながら弓道部は勝ち残ることができなかった。
そのため夏休みより前に3年生は引退した。
去年のボヤ騒ぎがあるので、今までのようなバーベキュー形式での送別会は許可が降りず、弓道場でピザやお菓子を持ち寄ってのかたちでお盆頃に行なわれる予定。
「伝統を変えた男やで、大珂」
そんな言葉は一切気にせず、相変わらずノリだけで生きているよう。
美久の心配を深めるように、田原はあからさまに大珂にベッタリになっていた。
ついには帰りも別行動になることもしばしば。
さすがに方向が違うので若松家までついてくることはないが。
「最近田原くんと随分仲いいんやね?」
部活の後そんなことを尋ねたこともある。
「そうか?1年生みんなかわいがってるんやけど。せっかくできた後輩やし」
そんな感じではぐらかされてしまう。
「高田先輩」
ある日、田原のほうから声をかけられた。
「僕のこと気にしてるでしょう?」
ドストレートな質問。
「え、いや、そんな」
口ごもる美久に追い打ちをかける。
「高田先輩って、若松先輩とつきあってるんですよね?」
「ええまぁ…」
それは既に周知の事実。
「高田先輩は、自分が若松先輩の足かせになってるってわかんないんですか?」
「えっ?」
それってどういう意味…
「幼なじみだからっていつまでも若松先輩のまわりをウロウロしないでください。迷惑です」
「はぁっ!? 何であんたににそんなこと言われなあかんの?? うちらのこと何も知らんくせに!」
16年間培ってきた絆や、つきあい始めてからの時間。
誕生日もバレンタインデーもホワイトデーも。
ふたりで幸せな時間を過ごした。
おたがいの気持ちを確かめながら。
それなのに…
でも待って。
じゃあなんで最近よそよそしいんだろう。
田原たち後輩1年生ができてからで、それは単に面倒見がいいからだと思ってたけれど…。
もしかして本当に私のこと…避けてるのかな
美久の心に、不安と疑惑の種が蒔かれた瞬間だった。
ニヤッ
その表情をみて、田原がほくそ笑む。
「これからは、若松先輩にあまり関わらないでくださいね。嫌われたくなければ」
「………」
蒸し暑い梅雨時の屋外。
体温冷ましとはまた別の汗が浮かびあがる。
あれは何?
もしかして宣戦布告?
私に大珂から離れろっていうの??
ぽかーん…
頭の中が真っ白で、何も考えられなかった。
その日の帰り。
大珂には家の用事で買い物頼まれてるからと嘘を言い、ひとりで帰ることに。
その姿をみて、満足気な不気味な笑いの田原。
「若松先輩、ちょっと自主練つきあってもらえませんか?型を直したくて」
「あぁ、ええよ。美久もちょうど今日は用事あるみたいやし」
そそくさとと弓道場を出て、着替えてひとり先に帰る。
道路側から練習しているふたりをみると、チクリ、胸が痛んだ。
あいつ…ほんまに大珂のこと好きなんかな
やだやだ、大珂がそっちの道行っちゃったら
私まだキスしかしてないし…もしかしたらもしかしたら!?
妄想は暴走
いてもたってもおれず、帰宅後着替えるとただひたすら海沿いの遊歩道を小雨降る中走った。
汗か、雨か、わからないけれど涙を隠してくれる。
なんでぽっと湧いて出てきたような後輩にあんなこと言われなあかんねん
そんでもって、なんでそんなことない
私達はちゃんと想い合ってるって
返されへんかったんやろ
それは
100%
大珂の想いを信じきれてない私の弱さ
きっと
私が想うようには
大珂に思われてないと感じるから
それくらい
私は大珂のことが大好きなの
だけど大珂の心は
近頃いつもどこか遠くをみているようで
だから不安になる
私だけをみていてほしいのに
つきあってるのに
どうしてこんなに不安なんだろう
信じるって、こんなにむずかしいのかな
まゆみに相談すると、
「つきあっててずっと最初と同じくらいラブラブなんてありえへんよ。いずれ慣れちゃって、扱いも雑になる。人間なんてそんなもんやって」
そんなふうに割り切れたらいいけど
私は、ずっとどこか飄々として掴みどころがなくて、ケラケラ笑ってる大珂しかしらないから。
優しくて、いつも側にいてくれた。
今みたいな姿は初めてだから、どうしたらいいかわかれへん。
反抗期とか思春期とか言われたらそれまでだけど。
田原みたいにあからさまに敵意を向けて妨害してくる人もいなかったら。
どう対処したらいいか検討もつかない。
「あーーーーー、モヤモヤするーーーっ」
寒い冬の日。
この道を手をつないで歩いた。
あの時は気持ちが近づいたことがうれしくて、距離が縮まっていくことを日々実感できた。
よせては返す波のよう
人の気持ちなんて、こんなにすぐ変わっちゃうのかな…
私は全く変わってない
むしろ前よりずっと好きになってる
それなのに…
それが私のひとりよがりだとしたら…
不安で胸が押しつぶされそうになる。
ふらっ
あれ
胸じゃなくて頭が…
パタン
そのまま、美久は意識を失い倒れてしまった。
風のない、蒸し暑い梅雨の最中の午後のことだった。




