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風待ち港で、君を待つ  作者: 風間 絆
第1章 高校時代

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2/17

幼なじみ

兵庫県赤穂市坂越(さこし)

全国的な知名度はさほど高くないが良質な牡蠣の産地であり、歴史は古く七世紀半ば頃には渡来人秦氏の族長であり聖徳太子の側近、秦河勝が漂着し開拓をしたという伝承が残る。

江戸時代に入ると北前船の寄港地として栄えたこの町は、風待ち港と呼ばれた。

昔の帆船において、航海に風はとても重要な役割を持つ。

風待ち港で嵐を回避し、文字通り順風満帆な船旅のため風をよみ、タイミングを見計らって出発したのだ。


そんな小さな町で2002年(平成14年)、同じ年に生まれたのが牡蠣漁師の次男若松大珂(わかまつたいが)と、みかん農家の末っ子高田美久(たかだみく)

幼なじみのふたりは、物心つく頃からどこでも一緒だった。

幼稚園、小学校、中学校。

高校は坂越にはないので、赤穂の普通科へ。

自転車で片道20分ちょい。

潮風が気持ちいい通学路。



2018年(平成30年)4月。

桜満開の中、ふたりは新しい制服に身を包み入学式へ。


「たいがー、おはよー。学校行こー」

美久が若松家を訪れ大珂を起こす。

これが十年以上続いているお決まりの朝のルーティン。

「美久ちゃん、ほんまにごめんねいっつも。高校生になってもあの子の朝寝坊はなおらんね」

大珂の母、敦子は申し訳なさそうに玄関に出てくる。

「いいよもう、慣れてるし」

満面の笑みで、美久は答える。


うれしかった。

高校に入ってもまだ幼なじみ大珂と一緒の学校になれたことが。

中学までは校区が同じだから、否応なしに同じ学校だった。

進路を決めるとき、この辺りからは赤穂高校(通称赤高(あかこう))に行く人が多いが、もし大珂が違う高校に行くって言ったらどうしよう、と美久は気が気じゃなかった。

ずっと、当たり前のようにそばにいたから。


家は近所で家族ぐるみのつきあいだし、ほぼ毎日十数年顔をあわせる間柄。

友達と呼べる年齢の近い子は近くにいないし、遊ぶのも兄弟よりこっち、というくらい。

だから今更、美久は自分の日常から大珂の存在がなくなるなんて考えられなかった。

大珂のほうはどう思っているか計り知れないが。


三人姉兄の末っ子で生粋の甘えん坊。

加えて一番上の姉とはひとまわり年も離れており、祖父母や両親から溺愛されあまやかされてきた。

対して大珂は男三人兄弟の真ん中、自由奔放でマイペース。

何事も我関せずで、好きにやっているよう。


自分にないものを持っている。

そんな大珂がまぶしくて、美久にとってずっと気になる相手だということを、当の本人は気付いていないだろう。



「……はよ」

朝が弱い大珂は、いつも眠そうに起きてくる。

「ほら、美久ちゃん待ってるんだから早くしなさい。後でお母さんたちも行くからね」

「うぃ」

「…ブレザー似合ってるやん」

「そっちこそ、セーラー服よりいいんじゃね?」

「ちょっとまって、寝ぐせついてるし」

そっと大珂の髪にふれ、整える。

少し色素が薄い、茶色のサラサラの髪。

幼い頃は同じ目の高さだったのが、中学に入ってからスクスク背が伸びていまや余程手を上げないと届かない高さ。

「ん、ありがと」

これが幼なじみの空気感。

ちょっと触れたり至近距離でも、他の人ならアウトかもしれないが許されてしまう特権。


自転車で並んで走る海沿いの道。

「新しいチャリピッカピカやな」

「潮風で錆びちゃうからって高校入学祝に愛媛のおばあちゃんが丈夫なの買ってくれた。ねえ部活なんか入る?」

「まだ決めてない。部活動紹介とか見てからかな。美久は?」

「私もこれから考えるわ」


中学時代はふたりともソフトテニス部だった。

この時も先に大珂が入部し、後を追って美久が入った。

ようは流されやすく、自分の意見を持っていないのだ。

子どもの頃から、まわりの大人が何でも決めてくれた。

だから、自分で考える力が弱いところがある。



初登校。

自転車を置いて、クラス分け発表を確認。


同じクラスだったらいいのに…


そんな美久の願い虚しく、微妙に隣同士。

「オレ1組だわ」

「私2組~」

「よかった、近くだからなんか忘れ物したらすぐ借りにいけるわ、あはは」

「あー…」


ふたりの軌跡の新しい1ページが、始まろうとしていた。





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