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風待ち港で、君を待つ  作者: 風間 絆
第2章 幸せのはじまり

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12/19

白鳥神社

「シャーッ!」


翌日の午前中、白鳥神社での試合。

矢が的に当たると、掛け声をあげる。


シャーには

よっしゃー


いろんな意味があるらしい。

決して殺気だった猫が放つ声ではない。


団体戦はその学校の代表5名で行われる。

2年生3名と、1年生の2名。

まゆみと智之の(実は)両思いコンビは団体戦初参戦。

他部員は個人戦に参戦。

ルールは単純明快、矢を4本放ち、当たった本数に応じての勝ち抜き戦。


団体戦ではそれぞれが順調に矢を的中させ、練習試合といえど見事優勝。

個人戦では昨日不調だった大珂が、有言実行し調子をあげ、次々放つ矢を当てていく。

美久を含む他部員たちも、惜しくも敗退。

個人戦でひとり残る勇姿を見守る。


『明日、皆中出せたら言いたいことがある』


昨夜そう言っていた大珂。



あの時、一体何を伝えようとしたの…?



電話で邪魔した智之に若干腹が立つ。

しかし、彼のおかげで大珂のジェラシーを引き出せたので、感謝する部分もある。


今まで惜しくも皆中ならず3本の的中で勝ち続けてきた。

いよいよ決勝戦。

相手との一騎打ち。


『シャーッ!』


おたがい順調に矢を的に当て、先攻の香川の生徒が見事、4本全部皆中。



パチパチパチパチ…



盛大な拍手が湧く。



後攻の大珂も皆中を出せば、再び優勝決定戦が巡り勝利のチャンスがある。

そして、約束通り美久に伝えたかった言葉を届けよう。


美久はまた祈るように見守る。



お願い


皆中出して



キリッ


弓を引く



一心不乱に、的を見据える瞳。



………



よくよく狙いを定め、放たれた矢。


部員全員固唾を飲む。


一瞬が、随分と長く感じた。





あああ



あー…



あーーー…




………







「なぁ元気出せって。1年生で練習試合といえど準優勝まで行ったのすごいやん」

盟友智之の慰めも耳に入らず、頭を抱えて落ちこむ大珂。



そう



彼は外したのだ。



最後の1本を。



道着から私服に着替え、帰りの電車の時間までしばし自由行動。

他校生たちもそれぞれの学校に戻り、辺りは静かになった。


「はい、これ」

美久は自販機で買ってきた甘いカフェオレを渡す。

「好きでしょ?これ。甘いの飲んだら元気出るよ」

「…ありがと」


ポフッ


弓道場脇のベンチ、美久は隣に座った。

「大珂はすごいよ。勉強もできて、家の手伝いもして。そんでもって始めて半年の弓道でもいきなり準優勝とか。ま、最後のさいごで外すっていう詰めの甘さがまたいいやんw」

「…おちょくってんのか慰めてるのかどっちやねん」

「ねぇ、集合時間まで後1時間くらいあるからさ、神社にお詣りいこうよ」

「…どちらかというと試合の前に必勝祈願したほうがよかったんちゃう」

「しゃあないやん、そんな時間なかったから。さ、それ飲んだらいこいこ。落ち込んでじっとしてたらお尻にきのこはえてまう」

「オレは菌糸もっとらんわ」

「それくらいジメジメいうことや」


カフェオレを飲み干し、缶をゴミ箱に入れ本殿に参拝。

「ねぇ、ここの絵馬すごいよ」

古い社殿に、これまた古い大きな絵馬が多数奉納されている。

「なんか大避神社と似てるね」


坂越に鎮座している大避神社は、ふたりの家の近くの氏神様。

子どもの頃から初詣、縁日、秋祭りとことあるごとに親しんでいる神社だ。

「ここだけ時が止まってるみたい…」


試合も終わり、ポニーテールにしていた長い黒髪をほどき、風になびくその姿をみて。

幼なじみの少女はこんなにきれいになったのかと、目が離せなくなる。



そうだ


オレが少年サッカーの試合でオウンゴールしちゃって負けた時も


運動会のリレーで最後頭差で負けて悔しがってた時も


いつも隣には、美久がいた。


決して責めず


甘いものくれて


隣でにこにこ笑って


次はいけるよとか励ましてくれて



オレはどっか中途半端で


確かに詰めが甘いのが弱点だけど


そこを補ってくれる唯一の人



落ちこんでる時に


そっと手を差し出してくれる


かけがいのない存在なんだ



オレは結構チキンやから


願掛したんだ


皆中出せたら、美久のことが好きだと伝えようと

…か思ってたのに外すってどないやねーん


と自分で自分にツッコんでる場合か??



ひとり苦悩する大珂をよそに、美久は神社に見入っている。



へー


ほーっ、と


すっかり歴史的文化財に魅了されている。


神社&歴史大好き女子高生。




なんじゃそら


オレのことほったらかしで


でも


神社に夢中な姿がなんかかわいくて


だから思わず口から出てもうたんや


「美久」

「ん?なぁに?」

「オレ、美久のことが好きやねん」

「えっ?」

「昨日、智之と仲良う話してるのみて胸がザワザワして、それで気付いた。他の男にとられたくないって。オレの隣にいてほしいって」

「……それ、ほんまに?」

「こんなん嘘で言われへんわ。ってか、あらためて告るってこんなに恥ずかしいん?」

色白の顔を真っ赤にして照れている。

「ほんまは皆中出せたら言おう思ってたから、せやから最後外したのがショックで落ち込んでて…だってなんかきっかけないと今さらって感じやし…」


口元を覆い、目を潤ませて驚く姿。

そんな仕草もまた愛おしい。

めっちゃ少女マンガみたいなスローモーション


で答えはどっちなん??

オレの独りよがりになれへんか?


離れたところで天井近くの絵馬を眺めていた美久が、こっちに駆け寄ってくる。



あの


えっと


うまく言葉が出てこない




ギュッ




美久がオレの腕の中に入ってきた。


「おんなじ気持ちだったのが、うれしい…!!」

「えっ、てことは…」

「私も、大珂が好き」

「……!」


ずっと坂越で生まれ育ってきたふたりが、

せとうちの対岸香川で、この日気持ちが通じ合った。


讃岐白鳥、隣町の引田は風待ちの港。

まるで北前船の帆を進ませた追い風が、ふたりの距離を縮めたかのように。



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