ジャム聖女と公爵騎士団長⑦
その後すぐ、お兄様は魔法で牢屋内を鎮火した。
近衛騎士たちはジョセフが出口を解放した隙に王太子殿下を逃がしていたようだ。この場にいるのはわたしたち兄妹とライアン様、ジョセフだけ。
そのジョセフを拘束していたライアン様が叫ぶ。
「オーキッド侯爵令嬢に逃げられたぞ! ハリソン、どうするんだ!?」
「大丈夫だよ」
わたしの肩を抱いたまま、お兄様がライアン様に向き直る。すると、外から騒がしい声が聞こえてきた。
わたしたちはジョセフを拘束したまま外へと出た。
「ちょっと! 離しなさいよ! あたしを誰だと思っているの!?」
塔の外には、騎士団に取り押さえられるセシリア様がいた。わたしが知る騎士団の面々だ。
「みんな……どうして」
ライアン様の部隊はオーキッド侯爵家を包囲していたはず。
わたしの疑問にお兄様がにやりと答える。
「オーキッド侯爵を確保したら、すぐにここへ駆けつけるように転移装置を渡しておいた」
「ブルーベル師長のご命令通り塔の前を固めておりましたら、オーキッド侯爵令嬢が逃走しようとしていたので捕らえました」
ルース様が前に出て、お兄様に報告する。わたしは気まずくて、俯いてしまった。
「リーサちゃん」
ルース様の呼びかけに、びくりと肩を震わせてしまった。わたしは怖くて顔を上げられない。
「アリッサ・ブルーベル嬢、これまで騎士団でその尊い力を惜しみなく分け与えてくださったこと、感謝いたします」
「へっ……」
顔を上げれば、ルース様は胸に手を当てて、頭を下げていた。
「あ、頭を上げてください! わたしは子どもだとみんなを騙していて……」
「事情はブルーベル師長より聞いております。あなたが何者であれ、騎士団を……団長を救ってくれたのは事実」
「や、やめてください……わたしは何も知らずにジャムを作っていただけなので……」
あわあわするわたしに、ルース様はかしこまったまま顔を上げてくれない。
「ま、リーサが騎士団で女神と呼ばれるようになったのは必然だったな」
なぜかお兄様が誇ったように笑う。それを聞いた騎士たちが次々に声をあげた。
「そうだよ! リーサちゃんが騎士団の女神であることに変わりはないよ!」
「リーサちゃん、これからも騎士団でジャムを作ってよ!」
「リーサちゃん、俺、魔物をたくさん倒せるようになったんだよ! リーサちゃんのおかげだよ!」
頭を下げるルース様の後ろで、みんなが身を乗り出している。
「みんな……」
「さすが僕のリーサ。すっかり騎士たちの心を掴んでしまったな」
「ハリソン……お前はいい加減、妹離れをしたらどうだ?」
ライアン様は、お兄様が抱いている逆のわたしの肩を抱いて隣に立った。二人の腕が交差し、おかしな状況だ。
「リーサは僕の妹だ。あの爆発を防いで皆が無事だったのも、僕たち兄妹の愛があってこそだ」
「リーサは俺の婚約者だ。お前が守る役目を俺が引き継ごう」
バチバチっと頭上で火花が散った……気がした。
「ルース、そいつは何をしでかすかわからない。拘束を絶対に解くなよ」
「承知」
ライアン様が指さした方向には、騎士たちに厳重に取り押さえられたジョセフの姿があった。彼は両手を後ろ手にされ、魔道具で手首を拘束されていた。口元も布で縛られ、口をきけなくされている。
ジョセフはいまだ抵抗しようとしていて、その視線の先にはセシリア様がいた。
セシリア様のほうは両手首を身体の前で拘束されている。こちらも魔道具が使われていた。
セシリア様の目からは精気が失われ、虚ろに地面を映している。
「別々に護送しろ」
ライアン様の指示にお兄様がわたしから手を離した。
「あ、僕が転移魔法で連れてくよ。付き添う騎士を選出してくれる?」
「はい!」
ルース様がお兄様と並んで騎士たちのほうへと歩いて行く。そうしてわたしはみんなと離れた場所でライアン様と二人きりになった。
「良かった……」
「リーサ!」
気が抜けたわたしの身体をライアン様が支えてくれる。
「これで解決したんだよ……ね?」
「ああ。君のおかげだ」
見つめ合ったところで、ドクンと胸が苦しくなった。
「うっ……」
「リーサ!?」
うずくまるわたしをライアン様が抱きしめる。
彼の腕の中で、わたしの身体はみるみると縮んでいってしまった。
「どうして!? わたし、もしかして一生この体質のままなの?」
八歳に縮んだ自身の身体を見回して、わたしの目には涙が滲んた。
「こんなんじゃ普通に暮らしていけない……」
こぼれ始めた涙を拭おうと、ライアン様が跪いてわたしと視線を合わせる。
「どんな姿の君でも愛している」
「ライアン――」
ライアン様はわたしの返事を待たずに、唇を塞いだ。
「んっ……」
優しくて、それでいて幸せな感触。ライアン様に身を預けるわたしは、目を開くとパチパチと瞬いた。
「戻ってる……」
「やはりキスで戻るようだな」
愛おしそうにわたしを見つめるライアン様の笑みが深まる。もう一度キスされると身構えたとき、わたしたちの間に弾む声が割って入った。
「こんな方法があるなんて、興味深い! しかも即効性があるみたいだな」
二人でその声に振り返れば、お兄様がメモを取りながらわたしたちを見ていた。
「きゃああああ!?」
「さっき聖力を使ったからな。リーサにはしばらく魔力供給が必要みたいだ」
真っ赤になって叫ぶわたしにはお構いなしに、お兄様がふむと説明をする。
「それはどのくらいの頻度でだ?」
なぜかライアン様が前のめりでお兄様に訊ねる。
「そうだな……こればっかりは事例がないからきちんと計測して……」
至って真面目に話す二人の横で、わたしはふるふると震えた。
「だから! わたしで実験しないでよ!!」




