ジャム聖女と公爵騎士団長④
「ほら! ここに入るんだ!」
「きゃあ!」
わたしは王城まで連れて来られた。罪人を閉じ込める塔の周りは近衛騎士たちで固められている。
わたしは中に入るなり、牢の中へと突き飛ばされた。ガシャンと鉄格子を閉めた騎士が錠に鍵をかける。
「ふうん? 本当に元に戻ったわ」
わたしが閉じ込められると同時に、ベールをかぶった女性がやって来た。――セシリア様だ。
セシリア様は後ろにジョセフを従え、鉄格子の近くまでやって来る。騎士に合図をすると、ジョセフ以外の騎士たちは一礼してその場から出て行った。
「さて」
振り返ったセシリア様がベールを取り外し、わたしを見る。
身体をこわばらせながらも、わたしはセシリアさまをじっと見た。
「まさか生き長らえていたなんてね。葬儀までして欺くなんて、こざかしいこと」
ふふふと笑ったセシリア様が、しゃがみこんで床に座るわたしと目線を合わせた。
「あんた、聖力を持っていたのね?」
言い当てられてわたしは肩を震わせた。セシリア様は顔を歪めるて続ける。
「この国の聖女はあたしだけよ。唯一なの。それはこれからも変わらない」
恐ろしい声色で話すセシリア様に、わたしはぞくりとした。
「……すぐに始末しますか?」
わたしをすぐに殺そうとするジョセフをセシリア様が諫める。
「待ちなさい、ジョセフ。なんのために近衛を使ったと思っているの。王太子暗殺未遂でこの女はあたしが手を下さなくたって始末できるわ。ついでにブルーベル師長もね」
「なんでお兄様まで……!」
わたしが声を荒げれば、セシリア様はなんでわからないのかと言いたげに唇の端を持ち上げた。
「どうせあなたが見たことはブルーベル師長も知っているのでしょう? あの男は王太子殿下の信頼も厚く、わたしが殿下を操るには邪魔なのよ」
「操るって……オーキッド侯爵家はこの国を乗っ取るおつもりですか?」
震える手を握りしめてセシリア様を見れば、彼女は笑みを崩さずに答えた。
「お父様はそのつもりらしいけど、あたしは政治になんて興味ないわ。あたしは贅沢に生きられて、みんなから崇拝されていればそれでいいの。聖女はあたし一人だから、そのうちあたしが前国民の命を握ることになるわ」
「聖女のあなたが国民の命を選別するって言うんですか!? 能力を持っていながら――」
必死に叫べば、セシリア様のぎょろりとした瞳と視線が合う。わたしは恐ろしくて唇をぎゅっと結んだ。
「うるさいわねえ。あたしにはその権利があるのよ! 特別な力を持って生まれた唯一の存在なんだから!」
ガシャンと音を立てながらセシリア様が鉄格子を両手で握った。そのままガシャガシャと鉄格子を揺さぶる。
「ああ、ブルーベル家のやつら、みんな目障りね。あたしが王妃になったら領地を没収して爵位もはく奪してやるわ」
「セシリア様!」
セシリア様は鉄格子から手を離すと、視線だけわたしに向けて身体を翻す。
「手始めはあんたよ。すぐに処刑にしてやるから、せいぜいそこで泣いているがいいわ」
「待って……セシリア様!」
セシリア様はそう言い捨てると、一切振り返らずにこの場から去ってしまった。ジョセフが立ち止まってわたしを一瞥する。
「……まさかアスター騎士団長に取り入っているとは思いませんでしたが、彼があなたを助けに来るようなら共犯者として始末できます。セシリア様の役に立ったことに免じて、今は殺すのをやめておきます」
「なっ……」
ジョセフも言いたいことだけ言うと、去っていってしまった。
(近衛隊が関わっている以上、騎士団は動けない……)
わたしを助けようとしていたライアン様の顔が浮かんで、目に涙が滲んだ。
ライアン様がわたしを助けようとすれば、反意を持っていると誤解されてしまう。
(ライアン様……お願いだから来ないで)
お兄様がライアン様を止めてくれればいい。わたしはそう願いながら、牢屋の床に横たわった。
◇ ◇ ◇
ガシャーンという大きな音で目が覚めた。気づけば寝てしまっていたようだ。まぶたをこすりながら身体を起こせば、牢の前に人影が見える。
「リーサ」
「ラ……ライアン!?」
いつもの黒いマントではなく、ライアン様は紫色のマントを羽織っていた。そこにはアスター公爵家の紋章が縫い付けられてある。
「なんで来たの!?」
鉄格子に近寄り、わたしは隙間からライアン様を見上げた。こんなことをしたら、ライアン様が罪に問われてしまう。涙を浮かべたわたしの目元にライアン様の指が這う。
「リーサ、君だけは絶対に死なせない」
ライアン様はそう言って立ち上がると、床に転がる騎士の腰についた鍵束を取り外した。
「近衛隊に手を出したの!?」
錠に一つ一つ鍵をあてがうライアン様は、こちらに視線を向けずに話す。
「大丈夫だリーサ。アスター公爵家は国王陛下に進言できる権利を有する。俺の全権限を使ってでも君を守る」
「でもっ……」
せっかくライアン様が拭ってくれたけど、わたしの涙は止まらない。
王太子暗殺未遂の罪が冤罪だと証明できなければ、わたしをかばうライアン様はタダでは済まない。
泣き続けるわたしの耳にガチャリと鍵の開く音がした。
「リーサ」
ライアン様は牢の中に踏み入ると膝をつき、わたしを抱きしめた。
「怖い思いをさせてすまない。君を守ると言っておきながら、助けに来るのが遅くなった」
「助けに……来なくて、良かったのにいい……」
ライアン様に抱きしめられ、わたしの涙はとめどなく溢れる。
「そんなことを言わないでくれ。君が生きていてくれなければみんなが悲しむ」
そう言ってわたしを覗き込むライアン様の顔は、とっくに覚悟をしている顔だ。ライアン様は悲しんでくれないの? と言いかけた言葉をわたしは呑み込んだ。
「ひとまず君をハリソンのところまで送り届ける」
ライアン様はそう言うと、わたしを抱きしめながら立たせた。
「急ごう」
牢を出ようとしたとき、二人の影がわたしたちの前に立ちはだかった。
「ははっ、本当に来たわ!」




