繋がる想い⑦
「えっと……好きって、妹として?」
ハッと我に返ったわたしは、ライアン様を見上げた。話し方はこの際置いておこう。
「違う……俺は初めて会ったときから君に惹かれていた。ハリソンの婚約者だと思って気落ちしていたが、妹で本当に良かった」
「はい??」
あれ? ライアン様の失恋相手ってわたし??
思考が追い付かないまま、わたしは目をぱちくりさせた。
「本当の君は大人で……俺を好きだと言ってくれている。約束通り結婚してくれるだろう?」
「ちょーっと待って!?」
ぐいぐい来るライアン様に右手を差し出すも、手が小さくて意味がない。ライアン様の距離は相変わらず近いままだ。
「どうした? まさか……もう俺を好きじゃないと言うのか? それとも他に相手が? さっきのテオという奴か!?」
「テオは違います!!」
ライアン様、どうしちゃったの? 本当に女嫌いのライアン様??
困惑するわたしにライアン様が顔を寄せる。
「あの男は俺よりも先にリーサの秘密を知っていたよな? まさか本当の正体も知っているのか?」
「あ、あれは事故で……! それにテオはわたしを八歳だと思っています! わたしの正体はお兄様とシリル様とライアン様しか知りません!!」
「……ライアン」
叫べば、ライアン様から不満そうな声が返ってきた。
「あいつのことは呼び捨てなのに、俺のことはそう呼んでくれないのか?」
「で、で、でも……」
「いつも通り呼ばないとリーサが八歳じゃないと疑われるぞ」
ず、ずるい……!
わたしはぐっと唇を結ぶと、ライアン様を睨んだ。ライアン様ってこんな意地悪を言う方だったかしら?
「ラ……ライアン」
おずおずと呼べば、ライアン様は満足そうに微笑んだ。そして――。
ちゅっ。
頬に温かいものが触れたかと思えば、わたしはライアン様にキスをされていた。
「!?!?!?」
飛び上がって驚くわたしを、落ちないようにライアン様ががっちりと抱きしめる。
「ハリソンに手を出すなと言われたが、これくらいは許してくれ。リーサが愛しすぎて我慢できなかった」
「っっっっ……!」
本当にこれはライアン様だろうか。わたしが口をぱくぱくさせていると、ライアン様は身体を離してわたしを覗きこんだ。
「ハリソンには秘密にしてくれるな?」
「~~~!!」
その蠱惑的な表情に、わたしは何も言えなくなってしまって、ひたすらうなずいた。
お兄様は言い間違えてなどいなかった。その事実を理解させられ、わたしは真っ赤になった。
「はあ~」
「ひゃっ!?」
ライアン様は満足気に薄い笑みを浮かべると、盛大な溜息とともにわたしを抱きしめた。
「俺は君のことを忘れられなかったし、リーサにどこか君の面影を感じていた。同一人物だったのなら当然だな。こんな小さな子に邪な気持ちを持つような男にならなくて良かった……」
「それって……」
リーサにも惹かれてくれていたってこと?
わたしが顔を覗き込めば、ライアン様は抱きしめていたわたしを解放し、目を細める。わたしの右手をその大きな手で包み込むと、真剣な表情で告げた。
「改めて……俺と結婚してほしい。アリッサ・ブルーベル嬢」
「!?」
不意の求婚にわたしは頭をパニくらせた。
「わた、わたし、子どもだよ!?」
何を言っているんだと心の中で自分にツッコミを入れる。
ライアン様はそんなわたしを見て、ふっと笑みをこぼした。
「――ははっ。今は、な」
その笑顔に動揺している自分が恥ずかしくなる。わたしは口をへの字にしてライアン様を見上げた。
「では、元の姿に戻ったら改めて求婚しよう」
「~っ!!」
意地悪な顔で笑うライアン様は、本当に別人のようだ。いや、これが彼の本来の姿なのかもしれない。
若くして公爵位を継ぎ、騎士団長まで上り詰めた人。王太子継承のいざこざに巻き込まれて、命まで狙われている人。
そんなライアン様がこうしていろんな表情を見せてくれるようになったのが尊いように思えた。
「……リーサ?」
「あっ……!」
気づけば、わたしはライアン様の頭を撫でていた。慌てて手を離せば、ライアン様にその手を取られた。
「ダメだ……」
「ライアン様?」
苦しそうに顔を歪めたライアン様と目が合う。
「……ライアンと呼べと言っただろう」
ライアン様はそう言うと、わたしの唇をキスで塞いだ。
「――――!?」
突然の柔らかな感触と温かさに、脳が溶けそうになる。
ぎゅっと目をつぶれば、ライアン様はさらにわたしの唇に彼のものを押し付けた。
何も考えられなくなり、わたしはただただそれを受け入れた。
しばらくして違和感に気づく。
それはライアン様も同じようだったようで、二人同時に開けた目が至近距離であえば、点になる。
「リーサ、身体が……!」
「も、も、戻ってる!?」
そう。わたしの身体はアリッサに戻っていた。
踏み台に乗っていたので、ライアン様より高くなった背で彼を見下ろしている。
「な、なななんで!?」
「落ち着いてくれ、リーサ」
慌てふためくわたしは、バランスを崩して踏み台から足を滑らせた。
「きゃっ!?」
「リーサ!」
落ちる! と目をつぶった瞬間、ふわりと身体が浮いた。パッと目を開けば、ライアン様がわたしを抱きかかえてくれていた。
「良かった……」
ライアン様が焦り顔を安堵のものに変える。
「あ、ありがとうございます……」
「ああ」
アリッサに戻っても、軽々とわたしを抱えるライアン様の逞しい腕に、わたしはドキドキが治まらない。
「あの……もう大丈夫です」
その腕から降りようと身じろぐも、ライアン様はわたしをがっちり抱えて離さない。
「あの……?」
見上げたライアン様の顔がまた意地悪な微笑みに染まる。
「リーサは大人になっても危なっかしいな。俺がずっと抱えていたほうがいいかな」
「こ、子どもじゃないんだから、大丈夫です!!」
思わず真っ赤になって抗議してしまった。
ライアン様は本気だったのか、不服そうな顔でわたしを見ている。
「リ、リーサは子どもだけど、アリッサを常に抱えていたら、ライアン様が変に思われます!」
訴えるわたしをライアン様がジトッと見つめる。
「な、なんでしょう?」
「呼びかたと話しかたを戻してくれるなら降ろそう」
「ず、ずるいよ! ……ライアン!」
わたしは涙目でライアン様を見上げた。アリッサの姿で呼び捨てするなんて、恥ずかしすぎる。
ライアン様は嬉しそうに微笑むと、ようやくわたしを降ろしてくれた。
「団長~?」
安心したのも束の間、今度は厨房に向かってくるルース様の声が聞こえてきた。
「リーサちゃんに会いに行ってからどれだけ経ったと思っているんですか! 早く仕事を片付けますよ!」
ライアン様はルース様との仕事の途中で抜け出してきたみたいだ。
ルース様の声が近付いてきて、わたしは焦る。今はアリッサの姿だ。しかも騎士団を女性禁止にした張本人のライアン様と一緒にいる。
「どどどど、どうしよう」
わたしは思わずライアン様の身体に隠れるように、彼の腕にしがみついた。




