繋がる想い⑥
「ねえ……なんで今度はリーサが団長を避けてるわけ?」
「えっ!?」
継続して騎士団でお世話になることになったわたしは、今日も一心不乱にジャムを作っていた。明日の朝食分だ。 またしても立ち入り禁止の看板を無視して、テオが話しかけてきた。
「魔物討伐の日、二人でどこかに行ってたと思ったら仲良く戻って来てさ。団長もすっかり元に戻ってたし、婚約は本当か~って嘆いてたら今度は何?」
半目で詰め寄るテオにわたしはうっと言葉を詰まらせた。
お兄様に拉致されたあの日、お兄様はお詫びとしてわたしとライアン様を転移魔法で騎士団まで飛ばしてくれた。
その間もライアン様はわたしを抱きかかえたままで、離そうとはしなかった。その日の夕食もライアン様はわたしを膝の上に乗せて食べた。今までおやつの時間だけだったのに、食事の時間までわたしを離さないライアン様に、「仲直りしたんだね~」とルース様はニコニコ笑っていた。
ライアン様はそれからもことあるごとにわたしを側にいさせるだけではなく、抱きかかえて過ごすようになってしまった。
ライアン様は「親友の大切な妹」というフィルターがかかってから、ますます過保護になったように思う。
(ライアン様はわたしのことを小さなルース様だって言ったけど、ライアン様だってお兄様二号じゃない!)
思い出したらまた顔が熱くなってきた。
(だって! わたしは、リーサの姿でライアン様に告白したのよ!?)
その正体がアリッサだったとバレてそれだけでも恥ずかしいのに、いまだ八歳扱い……。気まずいやら悲しいやらで感情が忙しい。好きな人に触れられれば心臓はバクバクするし、どうしたらいいのかわからなくなる。
そんなわけで、わたしは昨日からライアン様を避けてしまっていた。
ライアン様が近付けば仕事に逃げるし、食事も料理人たちととっている。夜はジャム作りも兼ねて厨房にこもりきりだ。
「ねえ、リーサって本当に団長と婚約してるわけ?」
「し、してる……」
テオの追及にわたしはしどろもどろになる。
あの約束はどうなるのだろうか。そもそも口約束で、本当に婚約を結んだわけではない。
「ふうん? ねえ、悪いこと言わないからさ、今からでもぼくにしときなよ。このままじゃリーサが泣くことになるんじゃない?」
テオはまだリーサを想ってくれているみたいだ。
わたしは首を振る。
「ううん……たとえ想いが叶わなくても、わたしはライアン様が好きだから」
「様」
テオの指摘に、あっと思う。ライアン様に正体がバレてからは、彼に対してはアリッサの口調が出てしまうのだ。
「リーサ、本当に団長と婚約してるの?」
疑うテオの顔が近付こうとしたときだった。
「リーサは俺の婚約者だ。むやみに近寄るな」
「ラ、ライアン様!?」
ライアン様がテオの背中の服を掴んで、わたしにそれ以上近付かないようにしている姿が目に飛び込んだ。
「今は立ち入り禁止中ですが~?」
「俺は婚約者だからいいんだ。君こそ、リーサとは接触禁止だったはずだが?」
テオとライアン様がバチバチと睨み合う。わたしはライアン様の婚約者宣言に、話を合わせてくれているだけだとわかりつつ、ドキドキするのを抑えられない。
「ぼくはリーサの秘密を共有しあう仲ですから」
「テオ!?」
なぜかテオがライアン様に張り合う。慌てるわたしに、ライアン様が怖い顔で視線を向けた。こんなライアン様を見るのは初めてのような?
「……果実に触るとジャムにしてしまう能力をたまたま見られてしまって」
ごくりと息を呑み、わたしはライアン様に説明した。
「……団長も知っていたんですか」
「ああ」
驚きで目を丸くしたテオがシャツを掴まれたまま後ろを振り返ると、ライアン様はうなずいた。
「そっかああ……婚約は本当かあ……」
テオはその場に座り込むと頭を抱えた。どうやら重大な秘密をライアン様も知っていたことで信憑性が増したらしい。
「もういいか?」
ライアン様が崩れ落ちているテオに声をかける。顔を上げて首を傾げたテオに、ライアン様は真顔で言った。
「リーサと二人きりになりたいんだ。いいか?」
「!?」
「は、はいっっ! 出て行きます!」
テオは叫ぶと即座に立ち上がって、厨房を出て行った。
わたしはライアン様と二人きりになってしまい、思わず手を動かす。鍋の中で果実をジャムにしたから、瓶へと詰めなければいけないのだ。
「リーサ」
せっせとジャムを詰めるわたしにライアン様が声をかける。わたしは思わず身体をこわばらせてしまった。
「リーサ……すまない……俺は無意識のうちに何かしてしまったのだろうか?」
「え……?」
顔を上げれば、眉尻を下げたライアン様と目が合う。
「俺がリーサを怒らせたんだろうとルースが」
これはまたルース様がライアン様から根掘り葉掘り聞きだしたパターンだ。
(そりゃそうだよね……いきなりわたしが避けたらみんな変に思うよね)
実際にテオも聞きにきたわけだし。
わたしは瓶を作業台に置いて、手袋をはずす。ライアン様の顔が見られなくて、俯いたまま話した。
「違います……。ただ、わたしが辛くて……」
「辛い?」
ライアン様が心配そうにわたしを覗き込む。台に乗ったわたしは、ライアン様よりも少し低いくらいの目線だ。それこそアリッサのときのように。
わたしは意を決すると、ライアン様をまっすぐに見上げた。
「わたし、ライアン様のことを好きだと伝えましたよね? でも、ライアン様はいつまでもリーサを八歳のままで接するから……」
「うん?」
「え?」
首を傾げたライアン様とわたしの間の空気が一瞬止まる。
わたしは顔を真っ赤にしながらも続けた。
「だからですね、わたしを抱きかかえたり、膝の上に乗せたりされると困るというか……」
「何が問題なんだ?」
「えっ?」
きょとんとするライアン様にわたしの目が点になる。
「それよりも……前みたいに話してくれないか? 壁を感じて寂しいんだ」
「で、で、でも……わたしは八歳のリーサじゃないわけでして」
気づけばライアン様に距離を詰められていた。ライアン様が作業台に手をつき、わたしの身体はすっぽりとその腕に捕らわれてしまった。これでは逃げられない。
「むしろ八歳じゃなくて良かった」
「へえ!?」
耳元で囁くライアン様の息が耳にかかってくすぐったい。わたしの心臓が飛び出しそうなくらい跳ね上がった。
「俺は君が好きだ、リーサ」
「はいいい!?」
ライアン様の突然の告白に、わたしは意図せずリーサ(八歳)の言葉遣いに戻ってしまった。




