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幼女になった落第聖女ですが、騎士団で女神と呼ばれています〜騎士公爵様がお探しの最愛はすぐ側に〜  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!
第四章 疑惑と励ましのピーチパイ

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疑惑と励ましのピーチパイ⑤

 あのあとジャムを作ったわたしは、シリル様に騎士団まで送ってもらった。


「ただいま」


 食堂をのぞけば、ちょうど騎士たちのおやつタイムだった。だけどみんなケーキには手をつけず、力尽きたようにテーブルに突っ伏している。


「みんなどうしたの!?」


 おやつを前に動かないなんて! わたしは心配になって食堂に飛び込んだ。


「あ~、リーサちゃああん」

「今日、団長と一緒に魔法省へ行ったよね~? なんかあった~?」


 ヘロヘロとした声だが、身体に異常があるわけではなさそうだ。ホッとしつつ騎士たちを見回す。


「何もなかったけど……なんで?」


 騎士たちはなんだか疲れ果てているようにも見える。

 何かあったかと聞かれればあったけど、それがどうしたんだろう?


「団長の機嫌が悪くて……」

「えっ!?」

「いや、あれは元気がない……?」

「えっ!?」


 どれもライアン様には似つかわしくない言葉が騎士たちから出てきて、わたしは目を瞬いた。


「とにかく、様子がおかしかった!」

「一心不乱に剣を振っていて、稽古がえぐかった……」

「えええ?」


 ぐて~と机に突っ伏しながら教えてくれる騎士たちに、わたしは考え込む。剣を振るえるということは、呪いで体調が悪いということではなさそうだ。


(親友であるお兄様が女性を仕事場に連れ込んでいたことが、そんなに衝撃だったのかしら……。ライアン様は真面目で女性が嫌いだから……)

「おー、リーサ帰ったか。団長の執務室におやつを届けてくれ」


 食堂に入って来たクレイブさんが、桃のケーキが載ったお皿を手にわたしのところまでやってくる。


「ライアン、休憩もしないでそのまま事務仕事をしているんですか?」


 見上げるわたしにお皿を手渡すと、クレイブさんは頷いた。


「ああ。なんか目の焦点が合ってなかったな。こいつらの言う通り元気がなさそうだった。おれはてっきりリーサと喧嘩でもしたのかと思ったんだが……その様子じゃ違うみたいだな?」

「うん……」


 クレイブさんまでそう言うなんて、ライアン様は本当に元気がないみたいだ。


「リーサが顔を見せれば元気になるだろ。それ持って行って、休憩させてやってくれ」

「わかったわ」


 わたしが行ったところで、ライアン様の憂いを取り除いてあげられるだろうか。


(でも原因はお兄様……元を正せば、わたしを隠すためなんだよね)


 とにかくライアン様の様子を確認しなくては。


「ほら! お前らもいつまでもグダグダしているなら皿を下げるぞ! 夕食の準備があるのに片付きやしねえ!」

「た、食べるよ!」


 クレイブさんの呼びかけに騎士たちは身体を起こすと、急いでケーキを食べ始めた。その様子を見届けて、わたしはライアン様の執務室へと向かった。




「団長、リーサちゃんが来ましたよ」


 ライアン様の執務室を訪ねると、ルース様が扉を開けて出迎えてくれた。

 ライアン様のほうを見れば、机の上で眉間に皺を寄せ、書類に集中しているようだ。返事がない。


「今日は桃のケーキか。美味しそうだね。俺も食堂に行ってこようかな」


 私の手元のお皿をルース様が見る。


「すみません……! ルース様もまだ休憩に入られていなかったのですね!?」


 クレイブさんに手渡されたのはライアン様の分だけだ。二人が休憩中も仕事をしているのは知っていたはずなのに、ライアン様のことばかりですっかり失念していた。


「わたし、取りに行ってきます!」


 ルース様もまだお仕事中に違いない。慌てて踵を返そうとすれば、ルース様に肩を掴まれる。


「大丈夫だよ。団長があんな調子だから俺も息が詰まりそうだったし……」


 ルース様はしゃがんでわたしと視線を合わせる。


「俺がいないほうが団長もリーサちゃんに甘えられるでしょう?」

「あま……甘え!?」


 この人は本当に……八歳の子どもになんてことを言うのだろう。むしろ甘やかされているのはわたしのほうなのに。


「団長をよろしくね」


 そう言って笑顔で立ち上がると、ルース様は執務室を出て行ってしまった。シンと静まり返った室内には、紙がこすれる音とペンが走る音だけが響く。


 わたしはひとまず奥の続き部屋にあるテーブルへケーキを運ぶと、執務机まで戻った。それからライアン様の足元で呼びかける。


「ライアン、おやつを持って来たから休んでください」

「……ああ、リーサか」


 ライアン様は険しい顔のままわたしを見た。無表情なことはあっても、こんな余裕がない表情は呪いに苦しんでいるときだけだ。


「ライアン……体調悪いの?」

「――っ、……大丈夫だ。心配かけてすまない」


 ライアン様は座ったまま前傾姿勢になると、わたしの頭を撫でてくれた。


(たしかに体調は大丈夫そうだけど……)

「おやつを持ってきてくれたんだったな。ありがとう」


 心配するわたしを安心させようとライアン様が笑う。


(あ……)


 わたしはこの笑顔を知っている。

 最近は笑うようになってくれたけど、この笑顔は違う。人を心配させまいと無理して作っている笑顔だ。


 続き部屋に向かったライアン様はソファーに腰かけると、ケーキを口に運んだ。


「……美味いな。ありがとう、リーサ」


 ライアン様はわたしに顔を向けて口元を緩めたが、やはり元気がないように思える。

 わたしの力で魔気を払えるのがわかっても、彼の憂いを取れるわけではない。


(わたしに何かできないかな)


 ライアン様の横顔を見つめながら、わたしはそんなことを思った。

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