表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
—エニシ—  作者: 酢橘
第1巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/18

第七話 たまたま

第七話 たまたま


翌日。


カルマはオーファに頼まれた買い物のため、町へ出ていた。


中央広場は今日も賑やかだ。


野菜を並べる店主。


道具を売る職人。


走り回る子供たち。


平和な昼下がりだった。


――見つかったぞ!


突然、広場の端から大きな声が響いた。


人だかりができている。


何事かと思い、カルマも近付いた。


「どうしたんですか?」


近くにいた男へ尋ねる。


「ああ、財布だよ」


「財布?」


「商人の財布がなくなってな」


男は笑った。


「パリーが見つけたんだ」


「パリー?」


カルマが首を傾げた時だった。


人混みの向こうから、気弱そうな青年が姿を現した。


年齢は二十代前半くらいだろうか。


少し猫背で、どこか落ち着かない様子だ。


「あの……」


青年は困ったように頭を掻く。


「たまたまですから……」


「またまた」


周囲が笑う。


「お前の勘はよく当たる」


「そんなことないです……」


青年はさらに肩を縮めた。


カルマは興味を持った。


「どうやって見つけたんです?」


「えっ?」


突然話しかけられ、青年は飛び上がった。


「その……」


視線を泳がせる。


「なんとなく……です」


「なんとなく?」


「こっちな気がしたので……」


それだけ言って黙り込む。


カルマはますます気になった。


そこへ。


「おーい!」


今度は別の声が飛んだ。


振り返ると、小さな女の子が泣いている。


「どうした?」


「ポチがいないの!」


「またか」


周囲の大人たちが苦笑する。


どうやら飼い犬がいなくなったらしい。


すると誰かが言った。


「パリー!」


「えっ」


「探してやれ!」


「む、無理ですよ……」


パリーは全力で首を振った。


「犬ですよ……?」


「いいから行ってこい」


「でも……」


「ほら」


背中を押される。


パリーは本気で困っていた。


だが泣いている女の子を見ると、


「うぅ……」


と小さく唸ったあと歩き出した。


カルマも後ろを付いていく。


十分ほど歩いた頃だった。


パリーが立ち止まる。


「あの……」


「どうしました?」


「たぶん……」


パリーは路地裏を指差した。


「こっちです」


その先から。


「ワン!」


元気な鳴き声が聞こえた。


女の子が走る。


「ポチー!」


犬も飛び付く。


再会だった。


女の子は涙を拭きながら笑った。


「ありがとう!」


「い、いえ……」


パリーは居心地悪そうに目を逸らした。


カルマは思わず聞く。


「本当にどうやって見つけるんです?」


「分からないんです……」


パリーは困った顔をした。


「でも、こっちな気がして……」


その時だった。


前方から大きな荷車がやってくる。


木箱を山ほど積んでいる。


パリーの表情が変わった。


「あ……」


「?」


「その……」


明らかに様子がおかしい。


「あの」


荷車の方を見る。


「止まった方がいいと思います……」


商人が眉をひそめた。


「は?」


「気のせいかもしれませんけど……」


パリーは言う。


「嫌な感じがします……」


だが荷車は止まらない。


そして。


バキッ。


乾いた音が響いた。


車輪が砕ける。


荷台が傾き、木箱が崩れ落ちた。


広場が騒然となる。


幸い怪我人はいなかった。


だがあと少し遅ければ危なかった。


カルマは驚いてパリーを見る。


パリーは青い顔をしていた。


当たったことを喜ぶ様子はない。


むしろ申し訳なさそうだ。


そこへシャナイが現れる。


「相変わらずだな」


「シャナイさん……」


「また当たったじゃねぇか」


「たまたまです……」


「財布」


「たまたまです……」


「犬」


「たまたまです……」


「荷車」


「たまたまです……」


シャナイは吹き出した。


カルマもつられて笑う。


パリーだけが本気で困っていた。


だがカルマは考えていた。


失くした物を見つける。


危険を避ける。


道を探す。


それはつまり。


目的地へ辿り着く才能ではないだろうか。


カルマはパリーを見る。


パリーは相変わらず落ち着かなさそうにしている。


「あの……?」


「パリーさん」


「は、はい……」


カルマは少し笑った。


「少し相談があるんです」


パリーは不安そうに首を傾げた。


その姿を見ながら、カルマは確信していた。


ミーナの手紙を届けられる人がいるとしたら。


きっと、この人だ。


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ