第四話 届いたパン
第四話 届いたパン
翌朝。
カルマが食堂へ降りると、子供たちがいつも以上に騒がしかった。
「カルマ!」
「おはよう!」
「早く!」
「こっちこっち!」
「何かあったのか?」
カルマが首を傾げる。
するとオーファが大きな紙袋を抱えてやってきた。
「今日はパン屋さんから届け物があったんです」
「届け物?」
「はい」
オーファが袋をテーブルへ置く。
ふわりと甘い香りが広がった。
「パンだ!」
「ミリアさんのパン!」
「やったー!」
子供たちが歓声を上げる。
カルマは紙袋の中を覗き込んだ。
焼きたてらしいパンがたくさん入っている。
「ミリアさん?」
「町のパン屋さんですよ」
オーファが微笑む。
「たくさん焼けた日や、余った日なんかに持ってきてくださるんです」
「へぇ」
カルマは感心した。
孤児院へパンを届ける。
簡単そうで、なかなかできることじゃない。
「優しい人なんですね」
「はい。とても」
オーファは嬉しそうに頷いた。
子供たちも待ちきれない様子で袋を見つめている。
カルマは思わず笑った。
「そんなに見られるとパンも緊張しそうだな」
「パンは緊張しない!」
「するかもしれないだろ?」
「しない!」
食堂に笑い声が広がった。
◇
「そういえば、まだみんなの名前ちゃんと聞いてなかったな」
カルマが紙袋を抱えながら言った。
「せっかくだし、パン渡しながら教えてもらってもいい?」
「いいよ!」
真っ先に手を挙げたのは元気な女の子だった。
「リリア!」
「リリアか。よろしく」
パンを渡す。
すると今度は別の子が飛び出した。
「僕はトット!」
「早いなぁ」
「覚えて!」
「頑張る」
「頑張るじゃなくて覚えて!」
「難易度が上がったな」
また笑い声が起きる。
「私はマルナ!」
「エミル!」
「ルカ!」
次々と名前が飛んでくる。
カルマは一人ずつ名前を聞き返しながらパンを渡していった。
思ったより大変だ。
けれど不思議と楽しい。
「カルマ、覚えられる?」
「今ちょっと自信なくなってきた」
「えー!」
「人数が多いんだって」
「言い訳だ!」
「厳しいなぁ」
子供たちは大笑いした。
その笑顔を見ていると、カルマまで楽しくなってくる。
◇
パンが配られた後。
子供たちは夢中になって頬張っていた。
「おいしい!」
「甘い!」
「ふわふわ!」
「それはミリアさんに伝えないとな」
カルマが言う。
「伝える!」
「僕も言う!」
子供たちが口々に答えた。
その時だった。
カルマは一人の少女に気付く。
少し離れた席。
パンを持ったまま座っている。
シスだった。
他の子たちより少し年上で、いつも周りを見ている子だ。
「どうした?」
カルマが声を掛ける。
シスは少し驚いたようだった。
「……なんでもない」
「そう?」
カルマは無理に聞かなかった。
代わりに隣へ腰を下ろす。
少しの沈黙。
やがてシスが小さく口を開いた。
「足りなくなったら嫌だから」
「ん?」
「みんなに配ってたから」
カルマは目を瞬かせた。
自分は後回し。
そんな考えだったらしい。
「大丈夫だよ」
カルマは笑う。
「ちゃんとシスの分も残ってる」
シスはパンを見る。
それから小さく頷いた。
「……うん」
ようやく一口食べる。
その表情が少しだけ緩んだ。
「どう?」
「おいしい」
「それなら良かった」
シスは小さく笑った。
◇
食事が終わる。
子供たちは庭へ飛び出していった。
カルマも窓からその様子を眺める。
賑やかだ。
騒がしい。
でも嫌じゃない。
むしろ心地いい。
子供は昔から好きだった。
その時だった。
門の方から聞き覚えのある声が響く。
「おーい!」
子供たちが一斉に振り向く。
そして。
「シャナイだ!」
「来たー!」
「シャナイー!」
歓声が上がった。
カルマも窓の外を見る。
門の前には大きな箱を抱えたシャナイが立っていた。
得意げな顔をしている。
カルマは思わず笑った。
「また後でって……」
昨日の別れ際を思い出す。
「今日のことだったのか」
シャナイは聞こえていたのか、
にやりと笑った。
「だから言っただろ」
子供たちが一斉に駆け出す。
シャナイは箱を軽く持ち上げた。
「さて」
その笑顔は、何か企んでいる顔だった。
――第四話 終――




