第十七話 広がる縁
第十七話 広がる縁
キャロットケーキの日の賑わいは、まだ続いていた。
広場のあちこちから笑い声が聞こえてくる。
子供たちは走り回り、大人たちは思い思いに話をしていた。
カルマたちも広場の端で、キャロットケーキを食べていた。
「パリーさん」
声を掛けたのはオーファだった。
隣にはミーナもいる。
二人とも皿を持っていた。
パリーが顔を上げる。
「あ……」
ミーナは少しだけ緊張した様子で前へ出た。
それから、ぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございました」
胸には父親からの返事の手紙を抱えている。
「お父さんに届けてくれて」
ミーナはそう言った。
「返事も」
パリーは少し困ったように笑う。
「う、うん」
「嬉しかったです」
ミーナは手紙を見つめながら言った。
大きな言葉ではなかった。
けれど、十分だった。
オーファも優しく微笑む。
「私からも、ありがとうございました」
「そんな……」
パリーは照れたように視線を逸らした。
「ミーナが安心できたのは、パリーさんが届けてくれたからですよ」
オーファの言葉に、ミーナも小さく頷く。
少しの沈黙。
気まずいものではなかった。
ただ、温かい時間だった。
「冷めちゃいますよ」
オーファが笑う。
「あ」
ミーナも皿を見る。
「一緒に食べましょう」
オーファが言った。
パリーは少しだけ笑う。
「うん」
そして、キャロットケーキを口に運んだ。
甘い。
その甘さが、少しだけ胸の奥に残った。
◇
「そういえば」
少しして、カルマがパリーの足元に目を向けた。
「その袋、帰ってきた時から持ってたよね」
そこには大きな袋が置かれていた。
旅の荷物にしては、妙に膨らんでいる。
パリーは一瞬だけ固まった。
隣ではシャナイが苦笑している。
「とうとう見つかったか」
「気づかれない方が難しいと思う」
カルマが笑う。
パリーは観念したように袋へ手を伸ばした。
「えっと……」
袋が開く。
中から出てきたのは、封のされた手紙だった。
一通。
二通。
三通。
まだある。
カルマは思わず目を丸くした。
「多いね」
オーファも驚いたように覗き込む。
「こんなにあったんですね」
ミーナも袋へ近付く。
「全部、手紙?」
パリーは頷いた。
「うん」
少し照れたように笑う。
「帰り道で頼まれたんです」
「また届けてほしいって」
袋の中には、たくさんの手紙が入っていた。
けれどパリーは、それを重そうには見ていなかった。
少しだけ沈黙が落ちる。
誰も急かさない。
パリーは袋を見ながら、ゆっくりと言葉を探した。
「届けた時」
ぽつりと口を開く。
「ありがとうって言われて」
少しだけ笑う。
「返事を渡した時も」
そこで一度、言葉を切る。
「またお願いしたいって言われて」
照れくさそうに頭をかいた。
「嬉しかったんです」
静かな声だった。
けれど、以前よりずっと真っ直ぐだった。
オーファは優しく微笑む。
ミーナも、胸の手紙を大事そうに抱えていた。
パリーは続ける。
「だから」
袋へ視線を落とす。
「また届けたいんです」
それは立派な宣言ではなかった。
大きな夢の話でもなかった。
ただ、素直な本音だった。
シャナイが小さく笑う。
「誰かとの旅はいいもんだ」
パリーも少しだけ笑った。
「そうかもしれない」
オーファはパリーを見つめていた。
「嬉しかったんですね」
「はい」
パリーは頷く。
その返事には、迷いがなかった。
カルマは少しだけ笑う。
「僕もちょっと気になる」
「何が?」
パリーが首を傾げる。
「パリーが見てきたもの」
少し考えてから続ける。
「そんな顔になるくらい、嬉しかったんだね」
パリーは照れくさそうに笑った。
何と返せばいいのか分からない。
けれど悪い気はしなかった。
オーファはそんな二人のやり取りを見ながら、静かに微笑んでいた。
「シャナイ」
その時、ミリアの声が飛んだ。
見ると、シャナイがまたケーキの皿へ手を伸ばしている。
「まだ二切れ半だ」
「三切れ目だよ」
「半分は数えない方針で」
「数えるよ」
広場に笑い声が広がる。
パリーも笑った。
ミーナも。
オーファも。
カルマも。
キャロットケーキの日は、穏やかに過ぎていった。




