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—エニシ—  作者: 酢橘
第1章

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第十六話 子供の早起き

第十六話 子供の早起き


「カルマー!」


「起きてー!」


 朝。


 まだ眠気の残る中、カルマは勢いよく布団を揺らされていた。


「ん……」


「今日はキャロットケーキの日だよ!」


「早く!」


 目を開けると、子供たちがずらりと並んでいる。


 どうやら全員起きているらしい。


 カルマは苦笑した。


「まだ朝だよ?」


「知ってる!」


「でも今日だから!」


 全く理由になっていない。


 けれど気持ちは分かる。


 昨日からずっと楽しみにしていたのだ。


「分かった分かった」


 そう言いかけて、カルマは少し笑う。


「そんなに楽しみなんだ」


「当たり前じゃん!」


 子供たちは即答した。


 朝食の席でも話題はキャロットケーキばかりだった。


 誰が一番大きいのを取るか。


 今年は何枚食べるか。


 そんな話で盛り上がっている。


 オーファは微笑みながらその様子を見ていた。


「今日は賑やかになりそうですね」


「朝からこんなですからね」


「ふふっ。まだ始まってもいないんですけどね」


 その言葉にカルマも笑った。



 昼が近づく頃には、町全体が慌ただしくなっていた。


 広場では机や椅子が並べられている。


 カルマも準備を手伝っていた。


「そっちお願いね!」


 ミリアの声が飛ぶ。


「了解です」


「返事はいいから手を動かしな!」


「はいはい」


 思わず笑ってしまう。


 近くではガンツが大きな声を出していた。


「それ重いぞ! 二人で持て!」


「ガンツさんの方が大きい声出してますよ」


「聞こえなきゃ意味ないからな!」


 相変わらずだった。


 少し離れた場所ではドーマが皿を並べている。


 一枚ずつ丁寧に。


 いつもの調子だ。


 リサも布を広げる手伝いをしていた。


「綺麗ですね」


「でしょう?」


 風に揺れる布は、広場を少し華やかに見せていた。


 気付けばカルマも自然とその輪の中にいた。


 誰かに言われたわけではない。


 けれど気付けば手伝っていて、気付けば話している。


 そんな時間だった。



 やがて、おやつの時間がやってくる。


 甘い香りが広場に広がった。


「できたよ!」


 ミリアが声を上げる。


 子供たちから歓声が上がった。


 大きなキャロットケーキ。


 見ているだけで嬉しくなる。


「よし、配るよ!」


 ミリアがそう言った時だった。


「ああ、やっぱり美味いな」


 聞き覚えのある声がした。


 一瞬、広場が静まる。


 全員が同じ方向を向いた。


 キャロットケーキの近く。


 いつの間にか一切れ手にしている男がいた。


「シャナイ!?」


「早いよ!」


「まだ配ってないよ!」


 子供たちが一斉に声を上げる。


 シャナイは悪びれもせず肩をすくめた。


「帰ってきたら置いてあったから」


「置いてあったら食べるの?」


「食べるだろ」


「食べないよ!」


 広場に笑いが広がる。


 シャナイも笑っていた。


 そして、その後ろからもう一人。


「た、ただいま……」


 少し疲れた顔のパリーだった。


 一瞬。


 子供たちが駆け出した。


「パリーお兄ちゃん!」


「おかえり!」


「ちゃんと帰ってきた!」


 パリーは驚いたように目を瞬かせたあと、小さく笑った。


「……ただいま」



 しばらくして。


 パリーはミーナの前に立っていた。


 少し緊張した様子だった。


「届けてきたよ」


 そう言って、一通の手紙を差し出す。


「お父さんに」


 ミーナは目を見開いた。


「それと」


 もう一通。


「返事」


 ミーナは震える手で受け取る。


 しばらく何も言わなかった。


 ただ、大事そうに胸へ抱きしめる。


「……ありがとう」


 小さな声だった。


 パリーは少し照れくさそうに頭をかいた。


「う、うん」



 その後。


 広場にはたくさんの笑い声が響いていた。


 子供たちはケーキを頬張り。


 町の人たちは楽しそうに話している。


「こらシャナイ!」


「二個目だよ!」


「まだ一個半だ」


「同じだよ!」


 ミリアの声が飛ぶ。


 ガンツは大笑いしていた。


 オーファも穏やかに微笑んでいる。


 カルマはキャロットケーキを一口食べた。


 優しい甘さが広がる。


 美味しかった。


 本当に。


 今日という日にぴったりだと思った。

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