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—エニシ—  作者: 酢橘
第1巻

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第十一話 旅立ち

第十一話 旅立ち


翌朝。


パリーは目を覚ますと、真っ先に鞄を開いた。


手紙はある。


昨日と同じ場所。


折れも汚れもない。


ほっと息を吐く。


鞄を閉じる。


しばらくして。


また開いた。


手紙はある。


当たり前だ。


誰も取っていない。


それでも確認してしまう。


「……大丈夫」


自分に言い聞かせるように呟いた。


身支度を整え、孤児院の庭へ向かう。


庭にはすでに人が集まっていた。


「おはようございます……」


「あ、おはようございます」


オーファが柔らかく微笑む。


子供たちも次々と集まってきた。


「パリーさん!」


「もう行くの?」


「頑張れー!」


少し照れくさい。


こんな風に見送られることなんて今までなかった。


「緊張してる顔だな」


聞き慣れた声がした。


振り向く。


シャナイだった。


「そ、そんなことないです……」


「そうか?」


全然信じていない顔だった。


その隣ではカルマが笑っている。


「まあ初めてだしね」


「カルマさんまで……」


「大丈夫」


カルマはそう言った。


「一人じゃないんだから」


その言葉に。


少しだけ肩の力が抜けた。


やがて。


建物の陰からミーナが姿を見せる。


昨日と同じように少し不安そうな顔。


けれど。


パリーを見ると小さく笑った。


「お願いします」


昨日聞いた言葉。


それだけで胸が少し熱くなる。


「……はい」


短く頷いた。


今度は迷わない。


そのためにここにいるのだから。


オーファが一歩前へ出る。


「気を付けて行ってきてくださいね」


「はい」


「無理はしないことです」


「はい……」


「困ったら帰ってきていいんですよ」


オーファらしい言葉だった。


思わず少しだけ笑う。


シャナイも肩を竦めた。


「その時は俺も帰る」


「大丈夫です」


「ん?」


「必ず届けます」


シャナイは少しだけ微笑んだ。


「そうか」


「はい」


子供たちが手を振る。


ミーナも手を振る。


カルマも笑っていた。


「行ってらっしゃい」


「……行ってきます」


その言葉を返した時。


初めて実感した。


本当に行くのだと。


二人は町の門へ向かう。


背後から聞こえていた声が少しずつ遠くなる。


やがて。


門の前でカルマが足を止めた。


「ここまでだね」


「はい」


「帰ってきたら話聞かせてよ」


「話せることがあれば……」


「あると思うよ」


カルマは笑った。


その時だった。


ふわり。


一枚の紙が現れた。


カルマの目の前。


見慣れた紙。


思わず手に取る。


そこには。


パリー・ポーター


探し人


と書かれていた。


「探し人……?」


思わず呟く。


「どうした?」


シャナイが聞いた。


「いや……なんでもない」


もう一度見る。


だが。


次の瞬間には紙は消えていた。


気のせいだったのだろうか。


首を傾げる。


けれど今は引き留める理由もない。


「じゃあ」


カルマは笑った。


「行ってらっしゃい」


「……行ってきます」


パリーは頭を下げた。


そして。


町の外へ踏み出した。


しばらく歩く。


見慣れた景色が少しずつ遠ざかる。


振り返れば町が見えた。


孤児院はもう見えない。


胸の奥が少しだけ重くなる。


失くしたらどうしよう。


届けられなかったらどうしよう。


考え始めると止まらない。


気付けば。


胸元の服をぎゅっと握っていた。


その時。


「戻るか?」


前を歩くシャナイが言った。


「え?」


「まだ間に合うぞ」


からかうような声だった。


パリーは慌てて首を振る。


「戻りません」


「そうか」


シャナイは前を向いたまま言う。


パリーはもう一度だけ胸元を握る。


そして前を向いた。



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